許可
俺は学校に着くと代表委員会室に向かった。
そしてとある先輩に声をかけた。
「あの、野中先輩」
「おっ、海川かどうかしたか?」
野中先輩はバスケ部の部長でもあり、後夜祭実行委員長も務めていた。
「忙しいところ申し訳ないんですが…あの、先輩にしか言えない話があって…」
先輩は察しが良かった。先輩は腕時計をチラリと見ると言った。
「じゃあ、ちょっとだけ出るか」
俺と先輩はそうして代表委員会室から出て校舎裏に向かった。
「それで海川、話ってなんだ?」
「…俺の彼女が中山にNTRれました」
「…はっ?…中山ってあの中山か?お前の親友の?」
「…はい。一応、証拠動画です」
俺はそう言ってスマホを出し、奴らが逢瀬を重ねている動画を先輩に見せた。
「…一応聞くけど、これは編集の力で実はドッキリですとか言わないよな」
「言いません」
俺の顔を先輩は見て、何かを感じとったのか、軽くため息を吐くと俺に尋ねた。
「…それで俺に何をして欲しいんだ?まさか、ただただ俺に話に来たわけでもないだろ」
「もちろんです。…先輩、後夜祭のフィナーレを俺にやらせていただけませんか?」
「…それはどういうことだ」
「後夜祭の最後を僕に締めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「…」
先輩は少し空を見上げながら考え込んでいた。
「海川」
「はい」
「後夜祭を破壊するつもりか?」
「…いえ」
「そうか…、俺が止めたとしたらどうする?」
先輩は俺をそう言って試してきた。
俺は強気で言う。
「そうですね…。まぁ、止めないでしょうね、犠牲者のためにも」
「…それならいい。まぁ、来年以降もできるようにしてくれよ。それで後夜祭がこれから無くなるのは後輩が可哀想だからな」
「はい。ありがとうございます」
「…」
俺が頭を下げると先輩は無言で代表委員会室の方に歩いていく。
俺は音楽室に向かい、そこにいた相馬とこの後についての話をして時間を潰した。
そして、数時間後、後夜祭がはじまった。
「凄いな…」
俺は会場内の人と熱気に圧倒されていた。一つの講堂にこうしてほぼ全員の生徒が一堂に集結するのは初めてだった。
「凄いね、勇樹くん」
俺の隣には30分前に合流した今日でおしまいにする予定、いや今日でおしまいの彼女、優花がいた。
後夜祭は立ち食い形式で料理が用意されていて、前でジャグリング部や奇術部が技を披露していて盛り上がっていた。
彼女は俺に食べ物を取るとあーんと俺の口に入れててこようとしていた。
俺は今日でおしまいだからとそれを笑って受け入れていた。
その後、彼女と並んで見ていると後夜祭の終わりが近付いてきた。
俺は優花に行ってくると声をかけて、チラリと辺りを見回した。
Nと一緒にいる菜月がいることを確認すると俺は覚悟を決めて舞台裏に向かい、楽器のセットを始めた。
「緊張してる?」
そう俺が楽器をセットし終わり一旦裏に引っ込んでいるとそう相馬は声をかけてくる。
「いや、不思議なほどに集中できてる気がする」
「それならよかった…。一ヶ月ちょっとか…。長かったね」
「そうかもな…。意外とあっという間だったかもしれないな…」
俺は過去を振り返ろうとしたが、止めておいた。ここで気持ち悪くなっては元も子もないからだ。
「まぁ、とにかく綺麗に終わらせよう」
「ああ、お相手さんがそれを許してくれるかは分からないけどな」
俺の言葉に相馬は軽く笑うと言う。
「そうだね…。まぁ、とりあえず後夜祭自体の終わりとなる公演をまずきっちり終わらせるのが先だけどね」
「ああ、じゃあ行くか」
俺らは拳を突き合わせて表に出て、それぞれの楽器の前に向かった…。