挑戦は時に仇と
「ねぇ、勇樹くん。そのハグしていい?」
「…ああ」
俺はそう返答し彼女のことを抱きしめる。
「勇樹くん、あったかい」
「そうか?優花も暖かいけどな」
「ううん、勇樹くんの方があったかい…」
何故か彼女は俺に頬擦りをしてくる。
俺にそういうことをしないでくれ、Nにやっておいてくれ。
俺がそんなことを考えていると突然ドアが開き、彼女の母親が入ってくる。
「優花、この後どこか行く…。ごめんね。邪魔しちゃって」
彼女の母親はそう言って気まずそうに出て行く。
優花の顔はポッと赤くなっていた。
俺は彼女の頭を軽く撫でて手を差し出し「そろそろ行こうか」と声をかけた。
彼女は俺の方を見ずに軽く頷いた。
そして、俺たちは兼ねてからの予定通りショッピングモールに行き、映画館に向かった。
俺たちがそこで見た映画は放映前から話題となっていた映画で内容自体はまぁまぁ良かったのだが、途中で浮気している男女が交わるシーンがあり、虫唾が走った。
思わず繋いでいた彼女の手を強く握りすぎてしまい「痛っ」と言われた。
俺はすぐに小声で「ごめん」と謝ったが、お前らのせいだからなと心に念じながら、あと一週間と頭の中で唱え続けていた。
映画が終わると彼女は「どうだった?」と尋ねてきた。
俺はどう答えるか迷ったが彼女の反応を少し見たかったので思ったまま答えた。
「うーん、内容自体は悪くはなかったけど、あの浮気のシーンはちょっと嫌だったかな…。ああいうの本当に嫌いだから。まぁ、俺には優花がいるから大丈夫だけど」
俺は軽く笑いながらそう言った。
彼女は少し唇を結び、下を向いてしまった。
俺はそこにあくまで何も気付かないふりをして、気遣う言葉だけを口から放つ。
「大丈夫か?体調悪いなら一回休むけど」
「ううん。大丈夫。ちょっと一瞬立ちくらみがしただけ」
「そうか?それならいいけど…、体調悪くなったら言ってくれよ」
俺の言葉に彼女は頷き、軽く俺の腕に頭をぶつけてくる。
俺は笑って彼女の頭を再び撫でた。
その後、俺らは遅めの昼食を取り、ショーケースの中を覗きながらショッピングモールをぶらぶらしていた。
「ハロウィンか…」
俺は誰ともなくショッピングモールの飾りを見ながら呟いた。
「そうだね…」
「そういえば、来週の俺の学校で後夜祭あるんだけど来ない?」
「行きたい、行ってもいい?」
「ああ、来てくれ」
「じゃあ、行かせてもらうね」
彼女はそう言い、俺に向かって微笑んでくる。
俺はその笑みで記憶がぶり返され、眩暈が俺を襲う。
この笑みは彼女がNと一緒にいた時に見せていた笑みだ。
俺に見せていた笑みとはまた違う笑みを彼女は俺に見せた。
ただ…こう見るとこの笑みは少し引き攣っているようにも見えた…。
「大丈夫?勇樹くん?」
俺の異変に気付いたのか、優花は心配そうに声をかけてくる。
「ああ、大丈夫だよ」
俺はそう言い、彼女にぎこちなく微笑む。
ただ、優花はそれで騙されてくれなかった。
優花は俺の顔を両手で挟み、優花の方を向かせてきた。
「嘘吐かないで、勇樹くん。その顔はなんか思ってる顔」
「…気のせいじゃ⁉︎」
俺はそう言っている途中で突然優花の唇によって俺の唇は塞がれた。
彼女は俺の唇から彼女の唇を離すと言う。
「勇樹くん…まさか知っt」
「あれ、勇樹と小泉さん?」
「えっ、…中山くんと菜月さん、…なんでここに?」
そこに居て優花の声を途中で止めてくれたのは菜月とデートをしているNだった…。