内心把握
俺は体を起こし、画面をタップしてヤッホー掲示板を開き、返信を見る。
『あなたは浮気でもするつもりですか?』
返信にはこの言葉しか書かれていなかった。
俺が浮気をしようとした?
浮気とはお互いに好きでないと起こり得ないことじゃないのか?
俺は彼女に好意は抱いていないはずだし、彼女も俺に好意は抱いていないだろう。
それに俺は浮気は、NTRは嫌いであるし、あなたもするなと言っていたじゃないか。
いくら俺の翼の言葉といえども、それを信じることはできなかった。
だから、俺は『そんなことしません』とだけ打ち込み、送信ボタンを押した。
しばらくしても返信は返ってこず、先に玄関のドアが開き、亜美が帰ってきた。
亜美が亜美の部屋に入り、少し経つとまたドアが開け閉めされる音が聞こえ、俺の部屋のドアが叩かれた。
「はぁい」
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
俺の部屋のドアを叩いたのは亜美だった。
「ああ、いいけど」
俺がそう言うと亜美はドアを開けて部屋によく分からないテキストを持って入ってくる。
「ちょっと今日の塾の授業で分からないとこあって、そこ教えてくれない?」
「別にそれくらいいいけど」
「やった、ありがとうね、お兄ちゃん」
亜美はそう笑って言った。
そうして俺が部屋の真ん中に置いてある机の前に行くとわざわざ亜美は俺の隣に座ってきた。
「…どうした?」
「いや、こっちの方が教えてもらいやすいから」
「…」
俺は無言で立ち上がり、亜美と対面するように座った。
「お兄ちゃん、それじゃテキスト見にくいでしょ」
「全然、普通」
亜美がテキストを俺にも読めるように回そうとしてくるのを俺は押しとどめ、「どこの問題だ?」と尋ねる。
すると、亜美は少し不満げにここと指で差してくる。
「ああ、この問題か…。この問題は平方完成をして、頂点を求めて…」
俺がそんな感じで二問ほど教えると亜美はしっかり理解したようで、普通に類題もスラスラ解き進めていた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「ん、どういたしまして…そうだ、一つ聞いてもいいか?」
亜美がそう言い立ち上がって部屋を出ようとした時に俺は聞くなら今しかないと思い、そう話しかけた。
「教えてもらったしいいけど?」
亜美がいいと言い、また俺と対面して座ってくれたので俺は玄関での話の続きをしだす。
「…じゃあ、どういうことだったんだ?あれは?」
「…あれって?」
「俺のやっちゃいけないことって何だ?」
「…お兄ちゃんのその、抱いた感情は、…多分嫉妬だと思うの」
「…」
俺が嫉妬?
「お兄ちゃんの彼女も菜月お姉さんも、中山君が、言ってしまえば奪ったようなものでしょ」
そうだが、俺は嫉妬で動いているんじゃない。この冷たい怒りの槍先に奴がいるだけだ。優花が盗られたとき、確かに悲しかったし悔しかったかもしれない、今はもうその感情は捨てきったはずだ。
亜美は捨てきれていないと言っているのか?
菜月に関しては特に幼馴染兼ただの協力者という関係だけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
俺はそう結論付けそのまま亜美に話す。
すると、亜美は少し呆れたような顔で俺のことのことを見て言った。
「ちょっとそれもう一回考え直した方がいいと思うよ…。特に菜月お姉さんの方は」
亜美はそう言って部屋を出て行ってしまう。
また、一人になった俺はため息を吐きながらスマホを見る。
ヤッホー掲示板の返信は返ってきていなかった…。