経験と心と
結論から言うと俺は正解を見つけられなかった。
俺が思いついたのはもう行ったことである謝罪と感謝を伝えることだけだった。
不必要な慰めは人を傷つける。
俺はそれが掲示板での出来事で分かっていたため、行動には起こせなかった。
俺にはこれ以上何もできない。
それが分かった俺は大人しくベッドに倒れ込んだ。
その日俺は勉強をせずに寝た。
翌日、俺は起きて学校に行く。
学校に行くといつも通りNは俺に話しかけてくる。
「おはよう、勇樹」
「…ああ、おはよう、中y…健汰」
俺は奴と再び会話をするようになってから前のようにしっかり下の名前で奴を呼ぶように心がけていた。
そういえば、こいつはあの後どうしたんだろうか。
ラブホから出た後、そのまま家に帰ったのだろうか?
この答えも俺には分からないので放棄して奴が一方的に話してくる言葉に適当に相槌を打つ。
そうしていると始業を告げるチャイムが鳴り、教師が入ってくる。
「授業始めるぞ〜」
教師の言葉で奴が自分の席に戻って行く。その背中を俺は眺めながら思う。
分からないな。
それから二週間後、中間試験最終日の四限。
「試験やめ!解答をやめてください。…解答用紙を前に送ってきてください」
先生のそのセリフと同時にペンを置く音とざわめきが広がる。
解答用紙を教師が回収して教室を出て行くとNがこっちに来る。
「勇樹〜、どうだった?」
「別にいつも通りかな…。健汰はどうだったんだ?」
「今回はちょっとまずいかもなぁ…」
「そうか…」
俺らがそう会話をしていると相馬がやってきて俺の肩を叩く。
「部活行こう」
「ああ、健汰、じゃあな」
「ああ、じゃあな」
Nにそう言って俺らは教室を出る。
俺らは歩きながら話す。
「助かった」
「それならよかった。…あと二週間ないけど大丈夫?」
「…何の話?」
「音楽部の演奏会の話と…」
相馬は周りを一旦見て、近くに誰もいないのを確認して小声で言う。
「復讐の日」
「…微妙かな…、和田の処遇とかも決まってないし…」
俺も小声で返した。
「まぁ、君のことだから大丈夫だとは思うけど、頑張ってくれ」
そんなに俺を買い被らないで欲しい、俺はそう思ったが「ああ」とだけ返し、部室に入り、部活を始める。
しばらく音楽部で演奏会の練習に打ち込み、日が暮れかかり始めている五時ぐらいに一人で俺は部室を出た。
そして、俺は家に帰っている途中、ある二人を見た。
菜月とNが一緒に歩いていた。
俺はそれを見て立ち止まった。
菜月とNの表情は見えず、後ろ姿のみしか見えなかったが、二人が手を繋いで歩いているのを見て、俺の胸が今まで感じたことのないかすかな痛みを告げた…。