ジゴウジトク
「優花?なんでここに?」
「…私?私は参考書買いに行こうと思ってて。…それで、なんでここに二人で?」
「それはだな…」
俺の言い淀みを見て、菜月が助け舟を出す。
「私が呼び止めたの。私は人を待ってるんだけど、中々来ないから」
そう言って菜月は俺に軽く目配せをしてくる。
「そうなの?勇樹くん?」
「…ああ」
「…ふーん。下村さんは分かったけど…、勇樹くんはなんでここに?」
「…いや、俺も本屋に買いに行こうとしてて」
何も言い訳を俺は思い付けなかったので、優花と同じことを言って誤魔化す。
これは間違いだったが。
「えっ、そうなの!じゃあ、一緒に行かない?勇樹くん?」
そう優花は俺に言って、腕を掴んでくる。
俺はチラッと菜月を見てから仕方なく頷く。
「…ああ、いいけど」
「じゃあ、行こう!下村さん、じゃあね」
「ええ、さようなら」
「じゃあな、なt…下村」
いつも通り「菜月」と俺は呼びそうになったが、慌てて訂正した。
「はい。また今度」
菜月がそう言うと優花は俺の手を掴み、引っ張ってくる。
俺は菜月との会話を諦め、後で謝り倒そうと思い優花に連れて行かれた。
ーーーーー
本屋に着いても優花は俺の手を離してくれなかった。
「あの優花…さん?手を離してもらっても…」
「駄目?繋いでちゃ?」
「…」
そう言われると返す言葉がない。
「…私は不安なの」
「…ごめん」
少し鈍い俺でも分かった。俺が菜月と一緒にいたせいで優花は今こうなっているのだと。
「謝らないで。…勇樹くんがなんかしたみたいじゃん」
「…それでもごめん。誤解されるような真似して」
「…謝らないでって言ってるのに…」
「…優花…、俺が…浮気なんてする男に見えるか?」
俺は彼女の目に映っている俺が見えるくらい彼女を見つめた。
「分かってるよ…、ずるいよ、勇樹くん…」
「はぁ」
「もう…好き…」
「えっ?なんて言った?」
彼女の声が突然小さくなり俺は聞き取れなかったので、優花に聞くと優花は顔を赤らめて俺に言う。
「好きって言ったの!」
「…俺も好きだよ」
彼女の少し大きくなった声とは逆に俺は声を小さくして、優花の耳元で偽りの愛を呟いた。
彼女は赤かった顔を更に赤らめ、俺の手から手を離して、目を逸らしながら「本、買おうか」と言ってくる。
俺はああと言って頷いた。
俺は欲しかったラノベが出ていたのでそれを買った。俺は優花より早く買えたので優花を待っていた。二分ほどすると優花は袋を抱えてこっちに来た。そして、さぁ帰ろうとなった時に、俺は我慢が出来なくなりまだ少し顔の赤い優花に言った。
「ごめん優花。お手洗い行ってきていい?」
「うん。じゃあここで待ってるね」
俺はトイレに行き、顔を洗う。
冴え切っている頭を更に冷やして尖らせる。そして、俺が今抱えている自己嫌悪まで流すかのように俺は顔に水をかけ続けた…。