重なり
俺が家に帰り、しばらくすると電話がかかってきた。
「もしもし」
「もしもし、勇樹くん、今どこ?」
菜月からの電話だった。
「今は家だけど」
「ちょっと出られる?今駅前にいるんだけど…」
「ああ、いいけど。今から行く」
「なるべく急いでね…」
「ああ、じゃあ一回切るぞ」
俺はそう言って電話を切る。
少し菜月の声は震えていた気がしたが、気のせいだろうと俺は頭を振りその考えを捨てる。
俺は駅まで走り、駅に到着する。
ただ、彼女の姿は見当たらなかったので電話をかける。
「もしもし、菜月?今どこ?」
「…南口の方の商店街の奥」
「了解、今、北口だからもう着く」
「分かったわ」
そう言い、彼女が電話を切る。
俺には悪寒が走った。南口の商店街の奥には大型ショッピングモールなどがあるが、それ以外に…Nと和田が快楽を貪っていたであろう建物もある。
俺は学校を出る前に奴が急いで教室を出て行くところを見ていただけに余計に悪い方向へ考えてしまっていた。
俺はそれを振り払うためにもそこに急ぐ。
俺が菜月の言ったところに着くと彼女が電柱の横に立っている姿が見えた。
「菜月!」
「来てくれたのね、勇樹くん」
俺は菜月の少し暗い声、いつもより本当に少し暗い声を聞き、尋ねる。
「…何があった?」
「…彼と一緒に和田さんがいた…」
「…またかよ…」
俺がさりげなく呟いてしまったこの言葉、正しく言えば失言だが、それに対して彼女は反応してきた。
「またってどういうこと?」
「…」
俺は反応に困った。
嘘を吐くのは罪悪感があったが、真実を俺が述べたら彼女はなぜ俺が伝えなかったのか尋ねてくるだろう。
ただ、俺が言い淀んだ時点で彼女は察したようで、どこか寂しそうな顔で軽く嘲笑する。
俺はそれを見て反射的に彼女の肩に手を置き言った。
「言えなかったのはごめん。巻き込んだ挙句に、君を傷つけたくなかったんだ。巻き込んだ時点で傷つけてるから、これ以上っていうのが正解だけど」
「…知ってるわよ。あなたの行動が優しさからきているのは知ってるわよ。…分かっていても、隠されていたのは…ちょっと悲しいのよ」
「…本当にごめん」
俺は馬鹿だな…。優花にもトラウマを隠してて同じことをしたのに、また同じことをしたのか?
俺は彼女の肩から手を離し、「ああ」と呻く。
俺が自分自身のことで煩悶していると予想外の声が俺に降ってくる。
「あれ、勇樹くん?何やってるの?」
「!」
…なんでここに優花がいるんだ?