心境
俺はしばらく理解出来なかった。
「はっ?どういうこと?」
「自殺だ」
なんで急に自殺?
「なんで、いきなり?まだ俺はやってないんだぞ」
「…君でさえ理由が分からないのか…」
「ちょっと一回優花の家に行ってくる」
「分かった。何か分かったら…」
「教えられる限り教えるさ。じゃあ」
俺はそう言って電話を切り、暗くなった空を窓から見て、上着を羽織って外に出る。
俺は向かい風が吹く中、優花の家まで歩く。
彼女の家の前にはパトカーが3台、救急車が1台止まっていて人だかりができていた。
俺が近づくと見知った顔を見かける。
「あっ、海川くん!」
「…山咲さん…」
彼女は俺の近くに寄ってくる。
「なんでこんなことになっちゃったの?」
「…さぁ…」
俺はまだ隠しておくことにした。
するとそのとき、彼女をのせているのであろう担架が彼女の家から出てくる。
そばには泣いている彼女の母親がいるのを見て間違いないと思いつつ、俺は眺めることしかできなかった。
「じゃあな、山咲」
「えっ?帰るの?」
「…ああ、…ちょっとまとめさせてくれ」
俺はわざと言葉を濁し、下を向く。
彼女はそんな俺を見て何かを察したらしく彼女は軽く頷いて言う。
「…まぁ、そうだよね…。じゃあね」
「…ああ」
俺は彼女と優花の家に背を向けて家に帰る。
風は冷たかった。
俺は家に帰ると上着を脱ぎ捨てる。
「…クソが…。まだ復讐してないんだよ!ああ!」
俺は虚空に向かって吠える。
俺はやり場のない怒りと悲しみをどうにかするためにベッドと壁にあたる。
壁をドンと叩き、ベッドにある枕を馬鹿みたいに振り回す。
虚しくなった。
わざわざ演技をしていたのはなんだったんだ?
ここまで付き合ってやったのに?
自分で終わらせやがった。
どうしてくれるんだ?
虚しくなるとその心境は怒りに変換され、その怒りはまた虚しさになる。
このサイクルはもう自分ではどうしようもなかった。
俺は保冷剤を持ってきて頭の上に乗っけて、ベッドに転がり、少し頭を冷やす。
乗っけた時は冷たくて気持ちがよかったが少し経つと氷が溶け、頭のなかは再びヒートアップしだし、解決にはならなかった。
俺はスマホを手に取り、あまりやりたくはなかったあることをしようとした。
その時、電話がかかってくる。菜月から。
「もしもし」
「あっ、勇樹くん?ちょっといい?」
「ああ、ちょうど俺も電話しようと思ってたから」
「優花さんのことどう思った?」
「… 正直、苛ついた。身勝手に死んでったなって感じ」
俺はなるべく冷静な風を装い、感情を隠した。
「本当にそれだけ?」
「…」
「悲しくないんですか?」
「復讐できないのは悲しいな」
「…そうですか…それなら言うことは一つです。復讐対象が一人減っただけですよ。計画はそのままで」
「…ああ」
「後悔しないでくださいね」
「何を?」
「あなた自身が一番お分かりかと」
「…それなら何もない。至って元気で冷静だ」
「…また明日」
彼女はそう言って電話を切ってしまった。
彼女には気付かれていたのかもしれない。
俺が彼女の死を悲しんでいることを。
おそらく次回が最後の没案回です。