違和感
俺は優花の顔を一瞥してベッドの上のカーテンを開ける。
陽の光が射し込み、優花に当たる。
「あっ、ごめん」
「ううん、全然。」
優花が少し眩しそうに目を細めるのを見た俺は彼女に謝りカーテンを閉める。
彼女のスマホにメールの通知音が鳴る。
彼女は顔を顰め何かを打つ。
何か返信が返ってきたようでまた更に何かを打つ。
彼女がスマホを置くと通知音が鳴る。
彼女はそれを無視して俺を見ている。
「出なくていいのか?」
「いいの、面倒くさいから。今は勇樹くんを看病しにきたの。あの…キッチン借りてもいい?」
「…別にいいけど」
「じゃあ、ちょっと借りるね。」
彼女はバッグから冷凍されているであろうご飯を取り出し、そばにあったスマホを代わりにしまう。
「ちょっと待っててね。」
彼女はそう言って俺の部屋を出て行く。
俺は起こしていた体をベッドに休める。
俺が体を休めていると彼女のスマホの通知音が鳴る。
俺は少し悪戯心に駆られた。
どうせ大方奴からのメールであろう。
さっきの彼女の意味深なセリフで俺は大体察していた。
ただ、俺は奴からのメールを見たことがない。
一度見てみたかった。
見ていいのか?他人の所有物だぞ?プライバシー…
さらにもう一度通知音が鳴る。
明らかに俺を誘っている、ように感じた。
俺は奴らが先に裏切ったんだからと一人で勝手に考え、彼女のバッグを開けて、スマホを出す。
ボタンを押すと画面が付き、パスワード打ち込みの場面が出てくる。
何桁か分からないアルファベット数字混じりの形式だった。
まわらない頭で適当に彼女の誕生日を打ち込むが違った。
俺は諦めてスマホをバッグの中に仕舞う。
「はぁ、俺は何をやってるんだ…」
俺は自責の念に駆られてやってはいけないことをやった気がして枕に頭を押し付ける。
そうすると5分後、彼女がお椀に何かを入れて持ってくる。
「お粥作ったよ。」
俺が起き上がり、彼女から受け取ろうとすると、彼女は首を振り、スプーンでお粥を掬い、俺の口元に運んでくる。
「はい、口開けて〜。あ〜ん。」
「いや、一人でできるから…」
俺はなるべく口を開けないように話しながら後ろに下がり壁に背中をぶつける。
彼女の持つスプーンはじわじわと迫ってくる。
もうだめかと堪忍しかけたときに彼女のバッグの中のスマホが電話をかけられていることを告げる。
「はぁ…。ちょっと待っててね。」
彼女はそう言い残し、スマホを持って俺の部屋を出て、玄関からも出ていった。
一人取り残された俺は手遅れになる前にお粥を手に取り、食べ始める。
そのお粥からは複雑な味がした。
俺が食べてると彼女は苛立っているような顔で戻ってきた。
「あっ、食べちゃってたの…。」
「ああ、ごめん。…それとなんか入れた?」
「えっ?別に、何も。」
「まぁ、それならいいや。」
俺が彼女に見られながら無言で食べていると隣の亜美の部屋から電話の音が聞こえてくる。
亜美のヒソヒソとした声を聞きながら俺は優花に聞く。
「誰からの電話だったの?」
「えっ…、ああ友達から、今日遊ばないかって。」
「ごめん。俺に構わず行ってもいいんだよ」
さっきから俺は謝りっぱなしだが、心の底から謝っているわけではない。
彼女と一緒にいるのは気まずいというより嫌だった。
早く帰って欲しかった。もちろんまだ、俺は面と向かって言うほどの残酷さは持ち合わせていなかったが。
俺が食べ終えると彼女はお椀を回収して部屋を一回出て行く。
俺は一息つくと、話すのも面倒くさいので毛布を頭に被り寝たふりを始めた…。