救世主と地獄の使者は表裏一体
俺はそうしてしばらく優花に抱きついていた。
「あれ、勇樹?」
突然、後ろから裏切り者の声が降ってくる。
俺が振り向くのと同時に優花は声を出す。
「あれ、中山君じゃん。どうしてここにいるの?」
「いや、菜月と遊びに来ただけなんだが…。邪魔しちゃったかな?」
俺は奴をぶん殴りたい衝動を抑えるのに必死で声を出せなかった。
その結果俺たちは無言を貫くこととなった。
「まぁ、いいや。じゃあな。」
奴は去っていく。
俺は怒りを抑えてなんとか返事をする。
「ああ、じゃあな。」
奴が来たおかげで俺は思い出した。彼女のしでかしたことも、俺が今何をしていたかということも。
俺は彼女から離れて、顔を背ける。
俺は怒りというか屈辱というかよく分からないものに包まれて沈黙を保つこととなり、結果二人の間には静寂が訪れた。
「昼ご飯食べにいかない?」
「…、ああ。」
俺は何となく焼きそばを頼み食べていた。
「ちょっと、もう…。」
「?」
「分けようって言ったじゃん…。」
「ああ、ごめん…。」
俺はぼんやりしていて、優花の話をあまり聞いていなくて焼きそばを全て食べてしまっていた。
「どうしたの?」
「えっ?」
「いや、様子が変だから。」
「…特に何も…。」
「…。」
また、静寂が訪れた。
するとまた突然後ろから声が降ってくる。
「あれ?また会ったな、勇樹。」
「ああ、そうだな。」
俺はなるべくこいつと会話をしたくなかった。
「そうだ!ダブルデートしないか?」
「はぁ?」
「いいね!」
俺はあまり気乗りがしなかったが、優花は賛成らしい。
もう一人に賭ける。
「菜月さんは?」
「…別にどっちでもいいけど。」
どうやら二人が乗り気、一人が微妙な立ち位置、俺一人が反対寄りというわけである。
勝ち目はなさそうである。
「勇樹ダメか?」
「勇樹君やろうよ。」
裏切り者二人に言われて俺は完全に諦めた。
「分かったよ…。」
俺は面倒くさかったが、従った。
「よっしゃあ!」
「そうとなったらどこ行く?」
そして、俺の選択により、奴ら二人はワイワイキャッキャし始める。
これが地獄ともなり、また新しい展開を生むことにもなるとはこのときの俺はまだ知らなかった…。