恋は人を狂わせる
台所まで行き、椅子に座る。そして、妹にも座るように促す。座ったところを見計らい話しだす。
「今日、中山と一緒にいた?」
「ああうん、いたよ。」
やけにあっさりと認めたなと思うと、
「見つかっちゃったなら話すけど、実は私は健汰と付き合ってるの。」
いきなり飛んでくる。この展開は予想外であった。妹は何事も隠したがる性格なのだが。
唖然として何もいえないでいる俺を見て妹は
「これで終わり?」
「いや。」
「?」
危ない。終わらせられてしまうところだった。
「実はその中山のことで話があるんだけど…。」
「なんで私に?」
「亜美にも関係あることだから。」
「ふうん。」
俺は亜美の顔を見ていなかったから気が付かなかったが、亜美の顔は不安の色が浮かんでいた。
「あのな、落ち着いて聞けよ。」
「…。」
何も返答がなかったが、特に気にも止めなかった。
「中山は、お前の好きな人は浮気をしている。それも四人とだ。」
「…。」
沈黙が場を支配しかける。
「ちょっと待って。聞き間違いじゃなければ、四人と浮気…、つまり四股をしていると聞こえたんだけど…。間違いだよね…。」
俺は努めて冷静に努めて言う。
「本当だ。」
「…。」
「それで一つ頼みたいことがある。」
「…。」
「奴と別れてくれないか?俺は奴の所業を公衆の面前で洗いざらい話すつもりだ。その時にお前について話したくはない。」
「…。話さなきゃいいじゃん。…。だって、親友なんじゃないの?」
「俺は奴を許さない。」
「…。四人って誰?」
「そこまで話さなきゃダメか。」
「話して。話してくれたら別れるから。」
さて、どうするか。そう上手くいくとは思っていなかったが…。
話すしかない展開か…。あまり巻き込みたくはなかったが…。
「仕方ないな。誰にも話すなよ。」
「…。」
「まず、亜美、菜月、和田希、…そして俺の彼女…小泉優花だ…。」
亜美が息を呑んだのが聞こえてくる。
「…。それでも…。ごめんね。お兄ちゃん。」
「?」
どういうことだ?
「私は健汰のことを好きなの!たまらないくらい!彼が四股をしているのは悔しいし、悲しいよ。それでも、私は…。」
「ちょっとストップ。俺から言わせてもらうぞ。」
ヒートアップしてきたから途中で割り込む。もうこの空気を変える方法は二つしかない。あまり言いたくなかったが仕方ない。
「亜美、お前が奴からどう思われているか知っているか?」
「…。」
これは亜美を傷つけてしまうのであまりというか本当に言いたくなかった。
「お前は奴からしたらただの遊びなんだぞ!」
「知ってるよ!」
「!」
知っているのかよ。それは想定外すぎる。なぜ、それなら別れない?俺の根拠が根っこから崩れた。ほとんど言えることがないが、少し足掻いてみる。
「それだったら余計にだよ。何で別れない。浮気、ダメ、絶対じゃなかったのかよ。」
「確かにこの恋をするまでの私だったらそうだったかもしれない。でも、私は恋をして変わったの。」
「何でだよ。」
「ごめんね。お兄ちゃん。」
「…。それでも俺は奴を許さないからな!俺の彼女を寝取った罪は大きい。奴だけでも突き落とす。たとえ一生かかったとしても。」
「…。そう。これで終わり?」
「ああ。」
俺はもう何もいう気力がなかった。話したら別れるとか、誰にも話さないとかについても約束させても無駄な気がした。
それだけ、恋は人を狂わせる。
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