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第1話 奴を殺すまでは


「...確かに。」


俺は、そうポツリと呟く。


 大学の筆記テストで。

しかも、心理学専攻なのにいかにも『人類の歴史』について書かれた本から問題を出してくる辺り。


「さすが、[テストだけ鬼畜]のあだ名は伊達じゃないということか...」


 テスト中で、しかも呟く程度の声量しか出していないから聞こえてないとは思うが、[テストだけ鬼畜]こと毛木 藤四郎先生の方を見る。


 なぜ、この先生が[テストだけ鬼畜]の異名を持っているかというと、イケメンで、その長い黒髪はいつもサラサラ、常にニコニコしていて生徒に対する接し方も(すこぶ)る優しい。

 それ故に、女子生徒のみならず男子生徒からの評判もすごく高い。すごく高い...のだが。

 この先生、毎回テストが難しいことで有名なのだ。

 心理学専攻の先生で、俺もこうして受けているわけだが、テストに関しては心理学の範囲から問題文を出さない。

寧ろ、それ以外の分野から問題文を出すことが多く、今回のように如何にも歴史書のような本からの出題、尚且つ、オラクス・ウェルマーというあまり有名ではない作家から出したりもする。

だが、問題を作るのが下手というわけではなく、しっかりと的を得ているのが、この先生の凄いところだ。

 故に、テストだけ(・・)鬼畜、なのである。


 この大学にはこんな噂がある。

 

〈毛木先生に、先生自身のあだ名で決して呼んではならない。〉


 少し前に、毛木先生に対して[テストだけ鬼畜先生]と呼んでしまった生徒がいたらしく、その生徒はその後、大学に姿を現さなかったとかなんとか。

 その噂以来、この話は【中央大学七不思議】の一つとして数えられ、毛木先生がテストという要素以外で恐れられているもう一つの点だ。




...ふむ。どうやら聞こえていなかったらしい。


 いつも通り、毛木先生は教壇の前でニコニコしながら、テストを受けている生徒達を見渡している。

 

 ところで、俺が何故、こんな物思いにふけっているかというと、ただ単にテストをやり終え、さらに3回見直して、やることが無くなったからである。


 突然だが、俺は本を読むのが好きだ。

 故に、いろいろなジャンルを物色し、どんなに有名な作家だろうが、無名の作家だろうが、気に入れば書店で購入し、本を毎日一冊は読破する様にしている。

 これは単なる偶然ではあるが、その中に、今回の問題文に使われたオラクス・ウェルマー著の【Cウィルスが及ぼした人類の歩みと、行く末】があったのだ。

 確かに、テスト用に勉強したわけではないのだから、テスト結果に関してはさほど変わらないかもしれないが、「知っている」という心理的な要素もあり、早く終わらせることが出来た。




 に、しても...七不思議どうこうで一喜一憂できる辺り。

この世の中も平和になったものだなぁ、とつくづく思う。


 俺は無論、ウィルス以降の、こういうご時世になった後の世界しか知らない。


 突如として、謎のウィルスが世界に蔓延。

全人類の約9割が感染し、化け物になるか、特殊な能力を持つか、死ぬかの選択肢を迫られる。

 その中でも生き残った人類が、集結し、一時の安寧の地を築いた。それが『ポリス』と呼ばれるものだ。

 

 今、俺自身がいるこのポリス。

昔は東京と呼ばれていた場所にある、この『大和ポリス』は人口約1800万人。そして、他の四ケ所あるポリスよりも建設が早いこともあって、徐々に旧世界の技術を取り戻しつつある。

 電車はあるし、車もある。携帯情報端末もあるし、街並みに関しては高層ビルが立ち並んでいる場所もあれば、田園風景が広がっている場所もある。

 総じて言えるのは、俺が読んだ文献の中の、昔の世界のことを書いている本の内容と、そんなに差異はない、という事だ。

...天井に覆われた膜と、町の外をグルっと囲んでいる城塞のような壁を除けば、の話だが。


 ポリスの外はというと、中とは相反して、まさしく地獄絵図だ。

 昔の世界の遺構である廃墟が立ち並び、『合成獣(キメラ)』と呼ばれる化け物が、我が物顔で闊歩している。


 空にも又、鳥型の『合成獣(キメラ)』が大量に飛んでおり、一度、ポリスの外に出れば大群で空から急襲してくるだろう。


 海にも、その環境に適した『合成獣(キメラ)』がいる。

 故に、この『大和ポリス』は海が近くにあるものの、海水浴に行こう、なんていう概念は存在しないし、漁という食料確保の手段もとれない。

 まぁ、食料に関しては圧縮食料という、人間にとって必要なビタミンがすべて含まれているサプリメントのようなもるがあるので、あまり困ることはない。腹も一粒で満たされる。

 余談だが、ある「能力者」の力を解析し、応用して作られたものだとか。


 ...話が逸れたが、特殊な例を除き、基本的にポリスの外に出ることは、例え能力者であっても、禁止されている。

 

 しかし、出ることは禁止されていても、入ってくる方は別だ。

未だにポリス外部からの避難民が後を絶たない。

外部に生き残っている人たちからしてみれば、ポリスは唯一の希望の場所なのだから、仕方のないことだろう。

 現にこの『大和ポリス』も、次々と月毎に避難民が来ており、無条件で受け入れているのが現状だ。

勿論、Cウィルスに関する検査は一通りやった後、だが。


 だからこそ『ポリス』、ひいてはそのポリスを管轄している『中央政府』に関して言えることは、

 

・今の人類を繁栄させること(ReProsperity)

・合成獣を駆逐し、土地を奪還すること(ReBuilding)

・それらを保持すること。(Retention)


という【3Re】を行動指針とし、日々、人類が安心して暮らせるポリスを拡大しようと奮闘している。


 それに、土地柄もあってか避難民の多くは元日本(・・・)人ではあるが、たまに違う人種であろう人たちも入ってくることがある。

 それに伴い、各ポリスによってその土地柄毎に使ってる言語も違い、大和ポリスに関しては、日本語を主に使っている。

 狙いとしては、各ポリスで色々な言語を使うことにより、旧世界の言語をなるべく絶やさないため、らしい。










 「...烝君。おーい、蓮烝くーん?」



 「ん?」



 「もうテスト終わってるから。後ろから用紙を回してくれるかな?」



 「ああ...。すいません。」


先生の呼びかけで意識を戻す。

 どうやら、もの思いに耽りすぎて、テスト終了の合図に我ながら気がつかなかったらしい。

昔からの癖で、考え事をしていると周りの音が聞こえなくなってしまうからな。

気を付けなければ。


「では、テストはこれで以上だよ。みんな、お疲れ様。」


 先生はニコっと爽やかな笑みを浮かべながらそう言うと、講堂を出て行った。


「ふぅ。じゃあ、さっさと帰りますかね。」


 俺の大学での講義は心理学が最後なので、さっさと帰路につく。


 バスに乗り、少し後ろ側の席に座り、両耳にイヤホンをつけ、好きな音楽を聴きながら、外の風景を眺める。


 それが、俺が帰るときの一通りのルーチンである。

 そして、大学が少し小高い丘の上にあるため、バスの経路は必然的に丘を下る道を通る。

だからいつも、街の風景をボンヤリと窓から眺めながらバスに揺られているのだ。


 「...強くならなければ。」


 俺は、この風景を見ながら、半ば自分への脅迫観念的に。そして忘れないように。

この言葉を毎日、呟いている。


 父さんと母さんを殺した。


 あの仮面の男を殺すまでは。

一応、推敲してはいるのですが、誤字・脱字・文法的なミス等があれば、指摘していただけると幸いです。

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