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異世界へようこそ  作者: 澄葉 照安登
第六章 終わりを迎える非日常
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見えない気持ちと残った願い 4

 もしも今日が文化祭の当日だったのなら、ウミと一緒に文化祭を回るというのもよかったかもしれない。けれど逆に言えばまだ準備期間であることが救いであったともいえる。

 翌日の朝、俺は早々に学校を欠席してウミたちとの思い出作りに励もうと考えていた。たった一日とはいえもらった時間を有意義に過ごすために、それくらいの日常生活の犠牲は痛くもかゆくもなかった。

 だというのに、早朝ウミはこう言った。

「アオイ、準備行くんでしょ?」

 当たり前のように、昨日のことなどなかったかのように言ったウミに俺は怪訝な表情を向けた。今日はそんなことをしている場合じゃないだろうと苛立つ俺にウミは続ける。

「アオイ楽しみにしてたから、行ったほうがいいよ」

 ウミが何を考えているのかさっぱり分からなかった。だから俺はそんなことはどうでもいいとか、ウミたちとの時間のほうが重要だとかいろいろ言葉を重ねてウミに納得してもらおうとした。

 けれど、ウミは困ったように笑うだけで俺の気持ちを受け入れようとはしなかった。

「大切にしたほうがいいよ。アオイはこれからのことを考えたほうがいい」

 なんて上から目線で。何様だって感じでウミは俺を学校に送り出した。そこで素直に学校に向かってしまう俺も間抜けだとは思うけれど、どうしようもなかったのだ。

「私もこれからのこと考えたいから」

 ウミが受け入れてくれないのなら、俺の独りよがりだ。

 俺の傲慢さでウミを振り回したいわけじゃない。俺はウミと一緒にいたいだけで、何もかも受け入れてほしいわけではないけれど、だからこそ拒絶されてしまえばそこまでだった。

 大道具を運搬しながら、ぐるぐると考え続けていた。

 ウミは思い出作りなんて求めていないのではないかと。その気持ちは、正直に言えばわからなくはない。いや、それどころか俺はどちらかと言えば思い出作りというものに否定的だ。意味のないものだと思っていると言っていい。それはたとえ自身のことであろうと、共に過ごしたい相手とのことであろうと関係ない。むしろだからこそ意味のないものだと思う。

 失うものを記憶に残すための作業に何の意味があるのだろう。そうして大切にしまい込んだところで、ふとした瞬間に眺めたそれはもはや幻想や妄想の類でしかない。

 失くしてしまったものを振り返って虚しいだけじゃないか。

 もしもウミが同じようにそう考えているのならば俺たちの間に必要なのは一つだけだ。

 さようならの一言。

 それさえ言い合えればきっと俺たちはまっとうな別れを成すことができる。わけのわからぬままではなくお互いにここが最後だと理解し合いながら手を振れば、きっとそれだけで別れは済ませることができる。

 最後の思い出なんていうものは必要ない。挨拶一つで何もかも収まってしまう。

 けれど、だったら昨日の一件は何のためのものだったのか。

 俺は何を必死になって時間稼ぎをしようとしていたのか。ピエロだ。一人で間抜けな踊りをさらして、そのくせ誰も笑ってなんかくれないで、虚しくなってしぼんでしまう。自分の体に針でもさして破裂して見せたほうがまだ愉快なのではないだろうか。

 完全に空回りだ。

 そう思ってしまったから、俺は自分の足がしっかりと床を踏んでいるのかもわからなくなってしまった。

 昨日のことは全くの無意味だったのではないか。

 そう思うほどに体中の力が抜けていく。気力が根こそぎ刈り取られていく。

 ウミの気持ちが見えなくて、彼女が何を望んでいるのかがわからなくて頭を悩ませている。

 ウミの気持ちを考えれば考えるほどわからなくなる。

 今、あの部屋にいる彼女はいったい何を思っているのか。

 いくら考えてもわかるはずもなく、わかることは俺がどうしたいのかだけだった。


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