花も折らず実も取らず 5
目が覚めた時には東の空が橙色をしていた。
開けっ放しカーテン越しにそれを認めると、俺は慌てるでもなく体を起こしスマホを手に取った。
十七時四分。
表示された時刻を見つつ、鈍い頭を無理やり働かせて逆算する。
寝る前に調べた病院の受付終了時刻は十八時。今から歩いて病院のある駅前まで行くのにかかる時間は自転車を使っておおよそ十五分ほどといったところか。
幸い着衣は修学旅行に行くつもりだった時のまま。皺や汗が気になりはするもののこのまま出ても何ら問題はない。
急いで準備をするまでもなく間に合う時刻。それを認めつつ俺は溜息を吐いた。
「めんどい」
それが俺の胸の内にあるすべてだった。
事細かに分解していけば体のだるさ、寝起きの重たい思考等々挙げることはできる。しかしそのどれも面倒くさいの一言に集約されてしまう。金銭的な心配でも、体調が改善されないことを嘆くでもなく、ただ純粋に出歩くことが面倒だった。
ちらりとベッドの脇に目を向ける。そこはさっきまでウミがいた場所だ。
さっき、というとかなり語弊があるが、眠っていた俺にとってはウミに薬を用意してもらったのはついさっきのことだった。
「言われたことは守ってるんだな」
うつすといけないからあまり近づくな。その言葉を律儀に守っているのだろう。
起きた時、全く同じ場所で膝立ちになりながら俺の顔を覗き込んでいるような気がしていたから、変に肩透かしを食らった気分になってしまう。
「…………」
やることのない俺は開けっ放しのカーテンを見つめる。
カーテンの向こう側にある景色ではなく、雑に寄せられたピクリとも動かないそれを。
それが振り子のように揺れてくれていればあるいは気を紛らわせることくらいはできたかもしれない。しかし閉ざされた窓の前でそれは風に乗ることもなければ一人で景色を隠すこともしない。
意思を持たない無機物は、俺の視線に答えてはくれなかった。
一秒、二秒。自分の感覚だけを頼りに何の気なしに数を数えてみる。
三秒、四秒。振り子時計でもあれば耳を澄ませるだけで済むというのに。
六秒……。七秒……。退屈だと感じ始めるのは存外早かった。
そこからだんだんと数を刻むペースが遅くなっていく。自分の呼吸に合わせて数えるようになるころには、退屈で瞼が下がり始めていた。
胡坐をかいたまま目を瞑りそのまま仰向けに倒れてみる。
起きたばかりだからだろうか、意識がぼやけ始めるのに時間はかからなかった。
もう一度寝てしまおう。そう思ったころには体に力が入らなくなっている。これは体調不良によるものなのか、はたまた俺自身の怠慢さによるものか。
やることがなくなれば俺はずっと寝ていられるのではないかと思えるくらいには、寝入る決断をするのは早かった。
布団は蹴飛ばしたまま仰向けに寝転んだ俺は一瞬体温計に手を伸ばそうと試みるが、すぐに諦め伸ばしかけた手を下ろす。
届かない距離ではなかった。けれど今測っても今朝と同じような数字が表示されるだけのような気がして気が削がれてしまった。
「……おやすみ」
誰に向けるでもなくそう呟けば、当然返ってくる声はない。
それが無性に空虚に感じられて俺は寝返りを打って目を瞑った。




