花も折らず実も取らず 1
修学旅行当日の朝。俺は深くため息を吐いた。
結局、イズミとはちゃんと話し合いをすることができなかった。
いや、話すこと自体は何度かできたのだが、イズミに納得してもらいたいと語ると決まってこう言われてしまった。
『イズミに確認とかいらない。ねえが決めたことに従う』
あたりにも淡々とそう告げられてしまうので、彼女はもう俺との話し合いそのものを諦めているのではないかと思うほどだった。
そんな態度のイズミをたった二日で攻略できるはずもなく。俺の心労は連日と同じ状態のまま今日という日を迎えてしまった。
「はぁ……」
再び溜息が漏れる。
俺の足元には三日分の着替えを詰め込んだボストンバッグが転がっている。それを持ち上げる気力すら今の俺にはなくて、玄関ではなく寝室へと目を向ける。
イズミはまだ起きてこない。それもそのはず。いつも俺が登校するよりも二時間以上も早いこの時間にイズミが顔を出すことはない。俺と半喧嘩状態なのだから当然見送りに出てくることだってないだろう。そもそもイズミが俺をわざわざ見送ってくれたことなど一度もないが。
溜息は何度吐いても尽きない。そのたびに視線が下がり気づけば俺は自分の爪先ばかり見詰めている。
「アオイ」
そんな俺に心配そうに声をかけてきたのは短髪の異世界人。律儀にも俺を見送るために起きてきてくれたウミだった。
彼女は不安そうに、心配そうに問いかける。
「本当に行くの?」
ここにきて、ウミはそんなことを言い出していた。このやり取りも何度かした後だ。
俺は今更そんなことを言い出したウミを恨めしく思い歯を食いしばる。舌打ちをしそうになりながらボストンバッグに手を伸ばす。
ズシリと重いそれを肩にかけ、背中に背負ったもう一つのカバンの存在を確かめる。
「行ってくる」
すねた子供の様な声だった。いや、実際に俺はすねた子供だった。
不安そうに見つめるウミを気にかけることもせず、背を向けて玄関に向かう。
「アオイ」
俺を追いかけてきたウミが性懲りもなく声をかけてくる。見送るつもりなのだから追ってくるのは当然と言えば当然だが、俺はイライラしてしまった。
肩にかけたボストンバッグを一度下ろし、そそくさと靴を履く。
「アオイ、行かないほうがいいよ」
ウミにそう言われるたびに俺は歯を食いしばる。
「行く」
完全に聞き分けのない子供だった。そんなこと自分が一番よくわかっていた。
でも、意地になった俺はもう引くに引けなかったんだ。
そんな俺を見てウミはなおも心配そうに寄ってくる。
「アオイ無理だよ」
「無理じゃない」
「無理だよ。だって――」
言いながらウミは俺の背に抱き着き、そっと腕を回した。
何かが視界を遮る。突然のことでピントをあわせられなかった。それは何かの靄のようにしか見えず、額に彼女の熱を感じてから理解した。
彼女は俺の額に手を当てた。
「アオイ、絶対熱あるよ」
心配そうに耳元でそう囁かれ、俺は泣きそうになってしまった。




