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異世界へようこそ  作者: 澄葉 照安登
第四章 あれもこれもと手を伸ばす
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少女の視線に頭を抱える 4

「自意識過剰な自分を自覚すると死にたくなるもんだな」

 修学旅行を眼前に控えた最後のホームルーム。決め事らしい決め事を全て済ませた俺は後ろの席の健と雑談に興じていた。

「何の話だ?」

 頬杖をついてうなだれる俺を見た健は子供のような無邪気な目をして首をかしげる。

 その様が黒いテルテル坊主と重なって、俺はまた一つ溜息を吐く。

「いや、何でもない。ちょっと疲れてるだけだ」

 そんな俺を見た健は合点がいったと声を上げた。

「まぁ、見るからに疲れてそうだよな。修学旅行前にバイト増やしたせいか?」

「いや、体的な話じゃ……いや、そうとも言えないか」

 近頃授業中やけに瞼が重い。というのも、夜寝付けなくなったのが原因だ。

 元々睡眠時間に余裕のある生活ではなかったが、今までは授業中に集中力が皆無になるなどということは起きなかった。だというのに、ここ数日の俺はと言えば板書を取るので手一杯。教師の話など右から左へといった具合だった。

 しかし眠気に思考が支配されているわけではない。俺の頭にあるのは言わずもがなイズミのことだった。

 あと二日もせずに修学旅行が始めるというのにイズミがいい顔をしてくれない。そもそも納得してもらうための会話にすらこぎつけない。

 先週までと変わらずイズミは今も俺と会話をしたがらないままだ。

 もうここまでくれば、諦めてしまったほうが楽になれるのではないかと思う。修学旅行に行くことをではなく、イズミに納得してもらうことを。

 そうすれば少なくとも夜無駄に目が冴えてしまうこともなくバイトの疲労に身を任せ眠りにつくことだってできるだろう。精神的にも悩まなくなる分余裕ができる。

 ウミに対する気遣いだってできるようになるだろう。少なくとも先日のようにバイトがあると伝え忘れるようなことはなくなるはずだ。

 さっさと諦めてしまったほうがいい。そう何度も自分に提案し続ける。

 けれどそれを心が納得してくれなかった。

 これから先のイズミとの関係がぎこちなくなることは簡単に予測できる。できてしまう。だから切り捨てるような決断をすることができない。そんな決断ができるほどイズミをないがしろにしたいとは思わない。

 かといってイズミの願いを鵜呑みにすることはできない。俺にだって欲はあるし願いもある。イズミが結果として何を望んでいるのかはわかってはいるが、彼女の思う通りになってやることはできない。

 イズミの目的は俺を修学旅行に行かせないことだ。

 修学旅行に行かないと決めればイズミは態度を軟化させてくれる。そんなことは早い段階からわかってはいたが、それだけはどうしても譲れなかった。

 八方塞がり。という奴だろうか。俺が諦めさえすれば話は早いがそれだけはできない。したくないがゆえに停滞した現状に甘んじるしかなくなってしまっている。

 溜息を吐くばかりの俺は、満身創痍とでも見えるのかもしれない、健が心配そうに俺の顔を覗き込む。

「疲労が抜けないまま修学旅行行くことになったら楽しめないぞ」

「まあそうだよな」

 疲労が抜けたとしても、二人の居候娘のことを考えてしまってあまり楽しめる気もしないが、そこに疲労が重なれば修学旅行の思い出などろくに作れそうにない。残るのは夢の中の記憶くらいになりそうだ。

「それに、今無茶して修学旅行当日に体調崩したら元も子もねえだろ?」

「最悪だな」

 修学旅行のために今までかなり頑張ってきた自負がある。ウミたちが来てから生活費もかさんでいるし。家賃の分が浮いてはいても所詮は学生バイト。長期休みとはいっても稼ぎには限界がある。正直に言えば夏休みの間に何度も脳裏をよぎったのだ。

 修学旅行に行かなければこんなに苦労することはないのに、と。

 それでも諦められなかった。くじけそうになりながらも歯を食いしばってやり遂げたのだ。

 それを体調不良で諦めることにでもなってしまえば、近頃のイズミのことに対する心労もたたって心が挫けてしまうかもしれない。何もかもどうでもよくなってしまうかもしれない。

 なんて少し大げさに考えながらも、内心そんなことになったら後悔してもしきれないだろうとは思った。

 深く息を吐き、心を立て直す。

「よし」

 イズミにどうすれば納得してもらえるかの糸口はつかめていない。けれど無視を決め込まれるからと言ってそこで逃げてしまうのはもうやめよう。

 あと二日しかない。

 その間に納得はしてもらえずとも、何か落としどころを見つけなければ。

 そのためにも、会話から逃げることはもうやめよう。どれだけ無視されてもしつこいくらいにぶつかり続けよう。もしかするとそれ自体がイズミの態度を悪化させてしまうかもしれないが、ここまでくると俺もなりふり構っていられなかった。

 最後のチャンスなんだ。

 それを手放すという決断だけは、俺にはどうしたってできるはずもなかった。


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