9 授業終わり
私塾には、というか、ミオネート伯爵様の館には、そこで働く人たちのための食堂があり、わたしたち生徒もそこを利用する。
けど、わたしたちは各自お弁当を持ってきて、天気のよい日は外の庭園で食べることにしていた。
とはいえ、庭園も食事をするに適しているわけではなく、十人近く集まる場所もないので、各自仲良し組に分かれてになるわ。
わたしはいつもミリーとなので、いつものレニの木の下で昼食とする。
「あーお腹空いた」
「剣の稽古のときは特に空くよね~」
お腹をグーグーさせながらお弁当を芝生の上に並べた。
「ティアは薄巻きパンなの?」
「ええ。お父様のお給料前だからね」
お母様がやりくり上手とは言え、家族五人と下働き二人の食事を一月持たせることは厳しいもの。だから、お父様のお給料日前は薄巻きパンになるのよね。弟妹にはサンドイッチを持たせてるけどね。
「それでは夕食まで持たないでしょう。わたしの唐揚げをあげるよ」
「ありがとう~。今度プニュールを作ってくるから」
花*花の唐揚げは冷めても絶品。プニュールを差し出さないと罰が当たるわ。
「それは嬉しい。ティアのプニュールって特別甘くて好きなのよね」
それは砂糖を大量に投入してるからです。とはいえない。だって毎日小壺に砂糖が十グラム出る魔法~とかやってしまって、タンスが大変なことになっちゃってるんです。
……料理にも使ってるけど、お父様が肥えるだけだからそんなに使えないのよね……。
「ありがとう。プニュールくらいいつでも作るからね」
砂糖を消費するために毎週孤児院にプニュールを差し入れしている。ちょっと量が増えたくらい問題ないわ。
お高いのお弁当を交換しながら楽しくお昼を過ごす。
食べたら食堂に移ると、それぞれ仲良し同士で食べていた皆も食堂にやってきて、纏まって食後のお茶をする。
「今日、終わったら布を買いにいくんだけど、誰か一緒にいかない? 新しい服を作ろうと思うんだ」
私塾で裁縫も教えてくれるので皆もそれなりにはできる。簡単なものなら皆作ってるでしょう。
「あ、わたし、数日前に買っちゃた」
「わたしは止めておく。お母様とおば様のところいかなくちゃならないんだ」
「わたしはお小遣いがありません!」
「右に同じ!」
仲良し四人組はダメか。ミリーも店の手伝いがあるし、他もなにか用があって全滅だった。
まあ、一人でいけない寂しくん坊ではないしね、今日は一人でいきましょう。
おしゃべりは月光祭に移り、あーだこーだと止めどない。夢中になりすぎて午後の仕事開始の鐘が鳴ってしまった。
「いけない! 皆急いで!」
こんなときこそマリフェ様の出番だが、おしゃべりに勝てる女子はなし。夢中になったら時間も忘れるのです。
急いで席を立ち、カップを返却口に片付けて教室へと向かった。もちろん、走ったりはせずおしとやかに、ね。
教室にはリゼン女史がもうきてた。
「遅いわよ、あなたたち」
すみませんと謝りながら席につく。こんなときは逆らってはいけないからだ。
午後の授業は一期生二期生合同で習字だ。剣の稽古を終え、昼を挟んでからの習字はなかなかキツいものだ。
同じ文字を紙に何度も書く。集中しなくちゃならないのに眠気と戦わなければならないんだからね。
「集中しなさい!」
ピシッと手に持つ鞭で黒板を叩いた。
ヒッと誰かが悲鳴を上げるが、それを確かめる術はない。そして、自ら進んで生け贄になる勇気もない。
眠気が一気に引いて習字に集中。集中集中集中よ! で、なんとか習字の授業を乗り切った。ふぅ~。
「では、今日の授業はこれで終わります。仕事の関係で明日はダンスの練習をします。出る者はドレスを持参してください」
一応、授業予定はあるけど、先生方の仕事により突然変わることもある。今回は前日に知れただけマシでしょう。
「起立! リゼン先生、今日はありがとうございました」
カーテェリアの号令に続いて感謝の言葉を続けた。
リゼン女史が教室から出ていき、わたしたちは席に沈み、安堵の吐息を一斉に吐いてしまった。
ここで愚痴や文句はいわない。以前、酷い目にあったからね。私塾を出るまでは淑女たれ、です。
……まあ、淑女然でいられない年頃ですけどね……。
ともかく、今日の授業は終わり。いい勉強ができました。
「じゃあ、ミリー。またね~」
「うん。またね~」
皆ともさようならして教室から出て、布を買いに商店街へと向かった。