8 シャワー
剣の稽古が終わればお昼。楽しい昼食だ。
とはならず、汗をかいた体を綺麗にするためにシャワー室へと向かった。
ミオネート伯爵様の私塾──王都でのお屋敷には大きなお風呂と何十人も使用できるシャワーがあり、一日中使えたりする。
他のお屋敷がどんなものか知らないけれど、ミオネート伯爵様のお屋敷はずば抜けて設備が充実しているらしいわ。
「ラティアさん。お願いします」
更衣室で防具を脱ぎ、テーブルに並べて浄化魔法が得意なメイドさんに綺麗にしてもらう。
「はい。クレーティア様」
ミオネート伯爵様は、身分を問わず使える祝福がある者は雇い入れ、仕事を与えてくださる。
使える祝福を持ってる者を紹介したら仲介料を払ってくださるほど熱心で、わたしもお小遣い稼ぎに何人か紹介したことがあるわ。
ラティアさんもその一人。たまにお手伝いでいっている治療院で見つけたのだ。
「ありがとう。ラティアさんの祝福は有能ね」
詳しくはわからないけど、汗や汚れを浄化してくれ、新品同様にしてくれる。給仕メイドからはいつも引っ張りだこで毎日忙しくしているそうよ。
「わたしの祝福を有能にしてくださったのはクレーティア様ですよ」
うふふ。それでわたしへの仲介料が二倍になったのだからラテァア様々。あなたはわたしの女神だわ。
下着を脱いでミオネート伯爵領産のバスタオルで体を包み、シャワー室へと向かった。
皆はとっくにシャワー室へと入り、汗を流していた。
遅れちゃうと、空いているシャワー室に飛び込み、コックを捻りお湯を出す。
「あ~気持ちいい~」
「ティア、オヤジ臭いよ」
隣にいるミリーが茶化してくる。
「へっへっへっ。お嬢ちゃん、いいお胸してますね~」
「見るな! オヤジティア!」
シャワー室は仕切られてるけど、背を伸ばせば隣を覗ける。まあ、同性でも覗くのはいけないことだけどねっ。
「あはは。ミリーは可愛いわね」
箱入りお嬢様でもそんなにウブじゃないんだけど、根が純情だからついからかいたくなるのよね、ミリーって。
「ティア。ミリーをからかってないでさっさと洗いなさい。お昼休みが終わっちゃうわよ」
あ、皆出るところじゃない。急がなくちゃ!
急いで汗を流してシャワー室から出た。
「ティア。隠しなさいよ。はしたない」
おっと。淑女としてあるまじき行為でした。
同性ばかりだとつい油断してしまうわね。淑女は一日して成らず。油断が淑女を殺す。シュリーヌ先生に怒らてしまうわ。
つかんでいるバスタオルを体に巻いて、化粧台に向かった。
備えつけの髪を乾かす魔道具、ドライヤーをオンにして髪に温風を当てた。
「うちにもドライヤーが欲しいわ」
このドライヤーもミオネート伯爵様が考案して作らせたもので、御令嬢に大人気。男爵令嬢までには落ちてこない高額で希少なものなのだ。
「わたしも欲しいな~」
「それ以前にお風呂が欲しいわ」
「そうよね。男爵令嬢にはすぎたものだし」
この会話も何度目かしらね? 男爵家の資産では体裁を整えるだけで精一杯。毎日体を拭けるだけでも贅沢だわ。
「わたし、冬までには湯沸かし石を買うんだ!」
「マリーベル、それ死亡フラグよ~」
「そのときはミルティーを道連れにするわ」
「なぜわたしを巻き込む! ラニールにしなさいよ!」
「なんのとばっちりよ」
仲良し四人組は今日も元気よね。
四人組がギャーギャーやっている間にわたしは髪を乾かすのは終了。これまたミオネート伯爵様が考案した化粧水を肌に塗る。
肌を保湿してきめ細かくするという世の女性が欲しがるものなのに、私塾ではふんだんに使っても起こられない。それどころかしっかり塗れと勧められてるわ。
「よし。わたし綺麗っと」
私塾ではそう自分を褒めるのも大事と教えられる。女たるもの美を疎かにするな。疎かにする女は淑女にはなれない、ってね。
「ほらほら、四人組。今度はあなたたちが遅れているわよ」
「ティア、いつの間に!? ズルい!」
「ズルくないズルくない。身嗜みの早さも淑女に必要なスキルよ」
四人組に笑いを残して更衣室に入り、ラテァアさんが浄化しててくれた服に着替えた。
着替えたらまた化粧台へと向かい、髪をとかす。
「ティアの蜂蜜色の髪、サラサラでステキよね。わたしもそんなサラサラだったらよかったのにな~」
「ゆるふわなミリーの亜麻色の髪もステキじゃない。男の子には人気だし」
体も男の子に好まれる体型だ。ミリーを慕ってる男の子はたくさんいるわ。
おしゃべりしながらも髪をすかし終わり、クシは使用後の箱に入れる。
服を整え、鏡でチェック。うん。完璧。
ミリーも終わり、お互いをチェックし合う。
「淑女は一日して成らず」
「淑女は一日してならず」
ミオネート私塾の教訓。淑女は毎日の積み重ね。どんなときも忘れることなかれである。