5 生徒
一期生二期生とはあるけど、朝の朝礼は一ヵ所でやる。
私塾に通う生徒は四十三人。でも、毎日通える娘はいないので、十五人も集まれば今日はいっぱいだな~と思うくらいになる。
「おはよー、みんな!」
今日はまだ四人で、一期生の娘だけだった。
「おはよー」
「「「「おはようごさいま~す」」」」
と、仲良くハモって挨拶を返してくれるのは、わたしと同じ男爵家の令嬢で、いつも四人で行動している娘たちだ。
本当ならは「ご機嫌よう」とか「お久しぶりですわ~」とか、お嬢様言葉で挨拶するんだけど、この私塾ではこれが普通。そんな堅苦しいことなんてしてられないわ。
挨拶は思いが込められていれば簡単で充分。堅苦しいのは社交だけでいいのよ。
「ミルティーたちは昨日の月光祭にいったの?」
仲良し四人組のリーダー的立場のミルティーに尋ねた。
月光祭とは男爵家以下の子弟が集まる社交の一つで、主にダンスを学ぶために開かれるものだ。
「うん、いったよ。今回は集まりが少なくて相手を捜すのも大変だったわ~」
令嬢の教育の場として強いけど、男爵の息子も参加する。月光祭はダンスもするので、相手がいなくちゃならないし、将来の繋がりも築かなくちゃならない。
「騎士爵の子は来なかったの?」
一代限りの爵位だけど、騎士爵は騎士になったら授かるもの。騎士の親が子を騎士にすると言う流れが続き、八代、九代と続く家も珍しくない。
そうなると貴族としての付き合いが生まれ、礼儀が求められる。
まあ、武門の家に礼儀だなんだっていらないんだけど、すべての家が男を産むわけじゃないし、一人だけとも限らない。長女だけだったり女の子だけだったりと、婿を迎えたり嫁に出したり、男爵家や子爵家に養子にだしたりと、繋がりが生まれて複雑になってくる。
どうなるかわからないから騎士の家も貴族の教育を施す。繋がりや付き合いで、男爵や子爵の社交にもでなくちゃならないのよ。
……まあ、男爵でも大変なんだから騎士の家はもっと大変でしょうよ。金銭的に、ね……。
「来なかったわ~」
「あっちも大変だしね」
「ドレス代もバカにならないし」
「ほんとよ。お陰でまたお小遣いを減らされちゃったわ」
貴族の付き合いにはなにかとお金がかかる。
夜会やお茶会、祭に出るのにもお金を払って参加しないとならないのよ。たまったものじゃないわ。
「ねぇ、ティア。またアルバイト紹介してよ」
「あ、わたしも。背が伸びたからドレスを買わなくちゃならないのよ」
貧乏男爵令嬢に外聞など気にしている余裕なはい。いや、あるのはあるけど、バレなければよし。強かに生きなきゃ男爵令嬢はやってられないのよ!
「じゃあ、また屋台やる? そろそろ小莓がなる季節だし、孤児院の子に頼めば安く仕入れられるわよ」
王都の周辺になってるもので、店や冒険者ギルドに頼むより安く済むし、孤児院の子も安く買い叩かれなくて済む。両者両得ってことですよ。
「ティアはそう言うとこが頼もしいよね」
「まあ、お陰で暮らせてるんだけどね」
「じゃあ、休みが合う日にやりましょう。なので、ミリー様。よろしくお願いします!」
屋台はミリーんところの厨房があってこそ。ご協力くださいませ。
「結局あたしまで巻き込まれるのね」
「もぉお、ミリーちゃんにはまた服作ってあげるからお願い~!」
ミリーちゃんの腕に抱きついた。
その放漫な体が示すように、ミリーは母性が強く、頼られると嫌とは言えない性格。真摯にお願いすれば受けてくれるのだ。
だからってタダではお願いしないよ。ちゃんと利益を与えないと友情(笑)にヒビが入っちゃうしね。
「まったく、わかったわよ。ちゃんと服を作ってよ。わたしも育ち盛りだからすぐ服が小さくなるのよ」
「また胸自慢かー!」
発展途上のリリーがペシとミリーの胸を叩いた。
「この凶器め!」
「少しはこっちに分けなさいよ!」
ささやかな胸の持ち主が援護して来る。
「や、止めてよー! 大きいの気にしてるんだから!」
まあ、男の子の目が集まっちゃうしね、年頃の女の子には辛いでしょうよ。
……普通なわたしはそんなことないからどう辛いかは知らないけど……。
女の子同士のちょっとしたおふざけをしていると、二期生の娘たちが教室へと入って来た。
おはよう~と挨拶を交わし、とめどないおしゃべりが始まった。
昨日はなにしてただの、髪が纏まらないだの、なに一つ有益な情報はなく、ためになるものではないけれど、わたしはこの時間がなにより楽しかった。
皆が笑ってられる世界。それはとても貴重なものだと感じられるのだ。
ちょっと大袈裟な表現だけど、この幸せな時間がずっと続いて欲しい。なんて考えてしまうのはわたしがまだ子どもだからなんだろうな~。
淑女になりたいと思いながら自由でいたい。なかなか矛盾な自分に呆れてしまうわ。
皆とおしゃべりしながら考えていると、朝礼の鐘が鳴った。
賑やかだった教室は静かになり、それぞれの席へと戻り、それぞれが淑女の仮面を被った。
なにか身も蓋もない言い回しだけど、まだ未熟なわたしたちは淑女ではない。まだ身も心もただの少女。仮面の力を借りなければ淑女にはなれないのだ。
と、言うことをこの私塾で学びました。
教室のドアが開き、リゼン女史が入って来た。
一ミリの隙もない完璧淑女たるリゼン女史(二十九歳)はミオネート伯爵の内政にかかわる方で、歴史と算数を教えてくれる先生でもある。
「全員起立」
二期生代表のカーテェリアが号令に、わたしたちも起立する。
「リゼン先生、おはようございます」
カーテェリアに続き挨拶する。
「おはようございます。今日は十人ですか。まあまあの集まりですね」
少ないときは三人とかあるからね、十人も集まればマシなものでしょう。
「では、授業を始めます」