20 ミオネート伯爵領
「……綺麗に整備された道ですね……?」
ミオネート伯爵家の馬車は異様と言って良いほど振動がなく、馬車酔いになることはなかった。
……お尻の痛みは今も続いているけどね……。
揺れが少ないから気がつくのに時間がかかったけど、町に入ってから馬車の走りが王都より滑らか。まるで板の上を走っているかのようだわ。
「ええ。シャグリー様が幼少のときに提案して、領事として仕事にしましたからね」
ミオネート伯爵様のことは授業で習った。道のよさが経済を回すと。
道がよいだけではなく、ゴミ一つ落ちてない。王都より綺麗なんじゃないかしら?
「街の皆さん、なぜ手を振ってくるんですか?」
道行く人たちが馬車に向けて笑顔で手を振ってくる。馬車に手を振るとなにかいいことでも起こるの?
「この馬車はミオネート伯爵家のもの。そして、この馬車はシャグリー様しか乗らない。この地にいる者なら誰でも知っていることよ」
「……そ、それって、どう言うことでしょうか……?」
なにかとっても異が痛くなることしか想像できないんですけど!
「ミオネート伯爵家は、あなたを養子にすることを考えているわ」
「へ? 養子? な、なぜですかぁ!?」
なぜ? どうして? ふぁあっ?
「慌てないないの。あなたの祝福は強大よ。国全体に影響を与えるほどにね。その力を知った者はあなたを利用しようとするわ。それは理解できる?」
「え、ええ、まあ……」
まだ∞のことは知られていないけど、国全体に影響を与える祝福のことはかなりの人に知られたことでしょう。
「ミオネート伯爵家は、あなたを守るけど、それでも伯爵家の権力では守れないこともある。だから、あなたをミオネート伯爵家の養子にするのよ」
それはまあ、なんとなく理解できる。けど、家族と離れるなんて嫌だわ。
「心配することはないわ。養子にすると言う話を広めて、他からのちょっかいを防ぐためよ。本当に養子にするかは情勢次第ね。それに、シャグリー様は女性の権利を大事にする方よ。あなたの尊厳を踏みにじることはしないわ。それはわかるでしょう?」
それはもうわかる。女性が勉強できるよう働いてくれたのはミオネート伯爵様だからね。
「一年。ミオネート伯爵家であなたを預かる。親御さんの許しも得ているわ」
「か、家族は大丈夫でしょうか?」
「騎士団、ミオネート伯爵家、警士隊が協力士合ってるから大丈夫よ」
それなら安心ね。わたしが住むところは貴族町。柄の悪い人や不審な人がいたらすぐわかる。防犯意識も高いところだからね。
「手紙は出していいですか?」
「ええ、たくさん出しなさい。王都への馬車便は毎日出ているからね」
「はい。ありがとうございます」
家族はもちろんだけど、ミリーたちにもたくさん出さないと。あと、ナナオに渡るよう魔法をかけないとならないわね。
そんなことを考えていたら馬車はミオネート伯爵領の城に到着した。
五年前に建てた城は立派なもので、庭園も素晴らしいものだった。ミオネート伯爵領が豊かなのがよくわかるわ。
馬車はエントランスにつき、外から馬車の扉が開かれた。
「あなたから降りなさい。ミオネート伯爵家の客人として迎え入れるのだから」
男爵の娘が伯爵家の客人などおこがましいけど、これも貴族としての勉強。気を引き締めて馬車から出た──けど、すぐに心が折れそうになった。
エントランスには数十人ものメイドさんが左右に並んでいるとか、わたしの心を折りにきてるとしか思えないわ……。
「クレーティア様、いらっしゃいませ」
侍従さんみたいな男性に挨拶されると、続いてメイドさんたちに挨拶された。
リゼン女史に後ろから突っつかれ、気を引き締めながら笑顔を作った。
「よろしくお願いしますね」
にっこり笑って皆さんの歓迎に応えた。
「お初にお目にかかります。当家執事のミロードと申します。クレーティア様の来訪を心から歓迎いたします」
「ええ。よろしくお願いしますね」
どうぞと城へと導かれ、中へと入った。
外も凄いけど、中もまた凄い。ミオネート伯爵家の財力がよくわかりと言うものだわ。
そのまま客室へと通され、リゼン女史と年配の女性、そして、わたしの年齢と同じくらいの若いメイドさんと向かい合った。
「こちらは、侍女長のライリン。そして、世話係のハミー。あなたのお世話をしてくれるわ」
侍女長さんの身分はわからないけど、なにか迫力がある。おそらく長年ミオネート伯爵家に仕えた人でしょうね。
「クレーティアです。まだ未熟で知らないことばかりですが、よろしくお願いします」
「はい。我が家だと思ってお過ごしください。シャグリー様より自由に過ごさせろと指示を受けておりますので」
「自由時間には町へ出ても構わないわ。お供をつけてにはなるけどね」
それはしかたがないか。客人としての立場だしね。
「はい。ありがとうございます」
これから一年。わたしはミオネート伯爵領で過ごすのか。穏やかな日々であることを切に願うわ。
思い出した頃に投稿




