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14 ナナオ

 目を覚ましらたら知らない部屋にいた。


「……どこ……?」


 なんとも質素な部屋だこと。まるで治療院の病室みたいね……。


「いや、治療院だ」


 わたしが所属している治療院ではないようだけど、造りは治療院造りだわ。


「……わたし、なぜここにいるの……?」


 確か私塾帰りに布を買いにアーケン商店街にいって……あ、そうだ! わたしたち、賊に襲われたんだったわ!


「……わたし、生きてる……」


 あのときの恐怖が蘇り、震えが襲ってきた。


 自分自身を抱き締めて泣いていると、ドアがノックされた。


 急いで涙を拭いて布団を被った。こんな姿見られたくないもの。


「クレーティア様。失礼しますね」


 女性の声がしてドアが開く音がして入ってくる気配がした。

 


「お水を置いていきますね。なにかあれば呼び鈴を鳴らしてください」


 看護師さんだろうか、とても優しい声の人だ。おそらくベテランさんなんだろうな。


「……あ、ありがとうございます……」


 まだ顔を出せる勇気がないので毛布の中から感謝を述べた。


「はい。今日はゆっくりお休みください。御家族には警士隊から連絡がいっているはずだから」


「……はい……」


 ドアが閉められ、また一人になった。


 しばらく毛布の中で縮こまり、気持ちが落ち着いてから毛布から顔を出した。


「……夜なのか……」


 そのことすら気がつかないとか、わたし、相当参ってたのね。


「……わたし、弱いな……」


 魔法の光に照らされた部屋の中で弱音を漏らしてしまった。


 十四歳のわたしに賊をどうこうできるとは思ってないわ。思うなんて傲慢もいいところよ。でも、弱い心に落ち込んでしまうのよ……。


 ベッドから起き上がり、カーテンを開けて外を見ると、中庭が見えた。


 治療院には入院している方の気晴らしのために中庭が造られており、ちょっと散歩したり運動できたりくらいの広さと草木が植えてあるわ。


 今は夜なので魔法の光で一画しか見えないけど、気持ちを落ち着かせるには充分だ。


 しばらくぼんやりと見詰めていると、照らされた一画に誰かが入ってきた。


「……あの人だ……」


 黒髪の女の人に間違いないわ。


 そう理解するとわたしは部屋を飛び出した。


 治療院には入院している人もいるので夜間看護師がいる。患者さんの様子を見たりと、廊下を歩いていることもあるのたが、誰にも遭わず廊下を駆けた。


 中庭に出ると、黒髪の女の人が幽きのように地面を這いずっていた。


「ダメですよ。まだ体が癒えてないのだから」


 黒髪の女の人へ駆け寄り、這いずるのを止めさせる。


「……いや……やだ……帰りたい。帰りたいよ……」


 呻くように泣くように黒髪の女の人の口から漏れていた。


「大丈夫。帰れますよ。あなたが帰りたい場所に。だから大丈夫。大丈夫だから……」


 こんな言葉ではこの人の心は救えないでしょう。わたしの想像もしえない過酷なことがあったのでしょう。言葉だけでは救うことも癒すこともできないわ。


「……なら、帰して。帰してよ。今すぐ……」

 

 意外と強い声が返ってきた。まだ心は死んでないのね。


「……帰るより先に体を癒さないと。その姿で帰ったら驚かれちゃうわ」


 心が死んでないのなら助けられる。なら、こちらも心を強くしなくちゃならないわ。


「まず、治療院でしっかりと体を癒しましょう」


「……でも、あたし、手が、ない……」


 今、何時かわからないけど、もう日付は過ぎてるはず。


 わたしの魔法一日一回∞の祝福は日付を過ぎるとリセットされる。これは何度もやって確かめたから正しい情報だと思うわ。


「あなたのお名前を教えてくださる?」


 黒髪の女の人の腕をつかみながら尋ねた。


「……ナナオ。アイバ・ナナオ……」


 不思議な響きの名前ね。どこの国の人かしら?


「ナナオさんか。わたしは、クレーティア・アートンです。よろしくね」


 なるべく普通の声音で自己紹介をする。


「これは秘密だけど、わたしね、最上位の回復魔法を使えるの。失った体でも復活させられる魔法をね」


 この国の者は神様から祝福を一つだけ与えられることを説明する。


「聖魔法を使えるの?」


「ん~。わたしの祝福って特殊で、祝福教会の巫女様でもわからないの。ただ、一回見た魔法は使えたり、思いや願いも魔法になっちゃったりするんだ」


 ただ、わたしの祝福は特殊で、かなり強力なものだとは理解してるわ。


「……あなた、転生者……?」


「転生者? なんですか、それ?」


 転生って、生まれ変わりのこと?


「この国、魔法学園とかあったりする?」


「え、ええ。まあ……」


 なんなのかしら、いったい?


「クレーティアは男爵令嬢だったりして?」


「ええ。男爵の娘よ」


 そう答える、ナナオさんは黙ってしまった。本当になんなの?


「……クレーティア。わたしね、カイエルド王国により召喚された聖女なの」


 突然の告白。え? どういうこと?


「え? 召喚? 聖女? え?」


 まったく意味がわからず、なにも飲み込めなかった。


 ど、どういうことなの~!?

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