1 祝福
──魔法一日一回∞の祝福──。
それがわたし、クレーティア・アートンの祝福だ。
わたしが住むブレーニング王国は神に愛され地として、そこに住む者には一つの祝福を与えられると言われている。
真偽のほどは神学者様か神巫女様のような方々にしかわこらないけど、祝福を与えられるのは五歳の子どもでも知っていることだ。
わたしも小さい頃から母様に寝物語として聞き、四歳のとき自分に祝福があるのを実感したものだ。
ただ、祝福は人それぞれで、祝福の度合いも人それぞれ違う。
魔法の祝福、料理の祝福、商売の祝福と、なにか一つ、与えられ、祝福教会で確認してもらうことができる。
巫女様の説教によれは、祝福があることはわかってもそれがどんな祝福であるかまではわからない。なので何百年と続く祝福教会がそれまでに祝福情報を基に、与えられた祝福がなんであるかを教えてくれるのだ。
「初めて聞く祝福ですね」
とは、相談した巫女様の言葉だ。
この国の子は、六歳のときに祝福際で巫女様から祝福がなんなのかを聞く習わしがある。
その際は、多少のお布施を渡すので、貧困を方々は受けなかったり、よくある祝福なら聞くこともなかったりする。
お母様はよくある裁縫の祝福だったので、祝福際には参加せず、お父様も文才の祝福と言う稀ではあったけど、昔からある祝福なので、やはり参加しなかったそうよ。
「一日一回の……なにかしらね、この文字? 絵? よくはわからないけど、そのまま魔法が一日一回使えると言うことでしょう」
そのくらいわたしでもわかるよ~。と、六歳の子どもでしたが、場の空気を読んで「そうなんですか~」と答えておきました。
試しにと、巫女様が指先に火を灯し、同じくやってみなさいと言うのでやってみたら簡単にできた。
魔法は才能だけど、使いこなすには訓練と努力が必要だ。だけど、わたしは、簡単に、当然のように、あっさりとできてしまった。
「一度見た魔法を使えると言うことかしら?」
巫女様の言う通り、一度見た魔法は使えたし、それがどんなに高度な魔法でも使えた。それを見込まれて治療院でお手伝いを頼まれ、わたしも皆が喜んでくれるならと了承した。
「……一日一回って言うのが難点よね……」
最初は高度な魔法が使えることに喜んだし、喜ばれもしたけど、一日一人しか治療できないってこと。一人を治療したらあとはお払い箱。六歳の子どもに治療院の仕事は厳しいだもん……。
治療院のお手伝いは十日もしないで終了。家へと帰されました。
しょうがないと諦め、日々の生活に戻った。
役立たず宣言されたものの、魔法が使えることは有用だと恨むことなく日々を過ごした。
そんな幸せな日々を過ごしていると、お母様が病気にかかった。
難しい病名で、どんなものかは教えてもらえなかったけど、お母様が日に日にやつれて行き、お医者様も見放す治らない病気なのはわかった。
「お母様を苦しめる病気なんてどこかにとんでいけ」
そんな魔法があるのならと、強く念じた──ら、次の日、お母様がベッドから起き上がっていた。
「奇跡だ!」
診断したお医者様がそう叫び、お父様や妹弟は泣いて喜んだが、わたしはそれどころではなかった。だって、お母様が治ったのはわたしの魔法が原因だと確信してしまったからだ。
前々から自分の魔法に、一日一回の魔法に疑問を感じていた。
この魔法不便よね。こうしたらもっと便利なのにと変えたら、あら出来た。
そのときは改良も出来るのね、としか思わなかったけど、いろいろ改良しているうちに、違和感を感じ、疑問が増えていった。
一日一回の魔法は一度見た魔法を使えると言う意味ではないと確信したのは、お母様が病気にかかり、家の手伝いをするようになり、自分の料理下手に嘆き、「わたしよ、料理が上手くなるようになれ~」とか、自分に魔法をかけたらあら出来た。
「……マジですか……」
あまりのことにスラム言葉が出てしまうくらいびっくりしたものだ。
一日一回の魔法──いや、∞が関係している。とはわかっても、どう言う意味かはわからない。ただ、一度見た魔法を使えると言うものではないのはわかった。
「……なんなのよ、∞って……?」
心の底から怖くなり、魔法を使うのを止めてしまい、お母様が日に日に衰えていく姿に∞のことも忘れて行った。
そして、わたしは∞の怖さを忘れ、お母様の回復を願ってしまったのだ……。
だからと言って後悔はない。また、家族が病気にかかったらわたしは躊躇いなく魔法を使うだろう。これは祝福。呪いではない。なら、わたしは、魔法を使うことを躊躇わない。
けど、出来ることなら∞の意味を知りたい。どんな意味があるかわからない状況では下手なことはできないもの。
「誰かわたしに∞の意味を教えて」
と、わたしはまた自覚もなしに魔法を使ってしまうのだった……。