今はまだ、想うだけ
「自分の人生に自分が邪魔なんだよ…」
彼女は儚げな顔をして僕にそう言った。
僕は昔から少しだけ頭が良かった、ほんの少しだけ。だから高校もこうしてそこそこ頭の良い学校に入れた。 けどこれも偶然のようなもので、実際学校の中でも成績は中の下くらいのものだった。
ある日僕はいつもより少しだけ遠回りをして家に帰っていた。その日は曇り空でぱっとしない天気だった。 そんなときだった、道の真ん中に一人の自分と同じくらいの年齢の見た目の少女が立っていた。彼女はぼぅっとしているのか虚ろなのかよく分からない表情でただ空を見つめ、立っていた。
(なんだろうあの子、かわいいけど、まさか自殺か…!? でも自殺ならこんな車通りの少ないところに立っているわけ無いしな…もし自分が物語の主人公だったらきっとここで声でもかけているんだろうけれど、僕は違うし、ましてあの子もこんなぱっとしない男子に声をかけられても困るだけだろうしなぁ…)
自転車を漕ぎながら僕は彼女を横目にそんなことを考えていた。すると長く彼女を見すぎたのか、彼女は僕に気付いてしまった。が、僕は何事も無かったかのようにして曇り空の下を自転車で走り去った。
次の日も僕はまたあの道を通っていた。もしかしたらまた彼女がいるかもしれないと、そんな淡い期待を持って。しかし彼女は居なかった。
(やっぱり居ないか…まぁそうそうそんな運命の出会い的なものがこんな自分にあるわけ無いし、もし居たとしてもどうすればいいかわからないし、きっとあの子も『またあの人来てるじゃん』的な目で見てくるかもしれないし…)
などと僕は思っているが、きっとまた次の日もこの場所に通ってしまうのだろう。 この日は気持ちが良い程の快晴だった。
あれから僕は数週間程あの場所を通ってみたが、彼女を見かける事は無かった。どうして自分があの子が気になるのか分からなかった。単純にあの子が可愛かったからなのかもしれないが、それだけでは無いような気がする。何だかあのとき見たあの子の表情が何だか胸に残っていた。
(えっと、明日の天気は…曇りかぁ。そう言えば今年は何だか梅雨明けが早いとかなんだかで最近は晴ればっかだったなぁ、、曇りのほうが涼しいけどなんだか曇りの日って憂鬱な気分になるよなぁ…そういえばあの子を見かけた日も曇りだった気が…もし明日またあそこに行って、あの子がいなかったらもうあの場所に通うのは辞めよう。どうせあの子にも会えないんだから)
僕は勝手にそう決めて学校の準備をした。 曇りが楽しみな日が来るとは思ってはいなかった。
次の日、僕は友達に誘われ遊びに行ってしまいすっかり彼女の事など忘れていた。
(もうこんな時間かぁ、早く帰らないと怒られるなぁ)
僕は自転車を漕ぎながらそんなことを考え、いつの間にかあの場所を自然と通っていた。
(あー家遠いなぁ空も今日は星が見えないし……?何か忘れているような…)
空を見ながら自転車を漕いでいた僕は目の前にいた人に気づくのに遅れてしまった。
「!!!」
僕はなんとか身をひねり自転車を横に飛ばすことで衝突を防いだ。
(痛った…!さっき目の前にいた人は!?どうした!?ひいちゃった!?でもギリギリで躱したはずだし、でももし当たってたら…っ警察!? と、とにかく安全を確認しないと!)
「だ、大丈夫ですか?」
急いでぶつかりそうになった人に声をかけるとその人は少し驚いて言った、
「私は…大丈夫ですけど、あなたこそすごい勢いで自転車を蹴り飛ばして転んでいたけれど大丈夫ですか?」
彼女は自分に起きそうになった事態に特に関心を持っていないかのようにただ純粋に僕が心配な様子で訊いてきた。
「ぼ、僕は大丈夫ですけど、本当にごめんなさい。完全にこっちが余所見していたせいです…」
僕が謝罪を言い終わらにうちに彼女はその場を去ろうとしており、軽くこちらを振り返ると、
「私は大丈夫だから、お互い大丈夫なら特に問題にする必要も無いしね。それに、私だって道の真ん中でぼぅっとしていたからひかれても文句は言えないよ。」
彼女はそう言って歩いて行ってしまった。
(さっきの人暗くてよく見えなかったけどどこかで…?…あっそうだ!この前見かけたあの人だ!それにこの場所も!完全に忘れてた…声、かければよかったなぁ。でもどのみち気づいていても声なんかかけられなかっただろうし…はぁ…やっぱりこういうとこが…)
僕は自分に自信が持てない。ルックス的にも。よって人生でモテたことも無い。そんなことを悩んでいる人は沢山いると思うし、『こんな悩み、高校生特有のやつだ』とそういう風に悩んで落ち込むことがよくある。けれど、友達と一緒に遊んだりしているときは特にそんなことを思うことはほとんど無い。が結局、一人になって考えてしまう事がほとんどだ。そんな感じで自分の考えていることなんてどうせちっぽけだといつも感じる。楽しみだったはずの今そんな事は忘れて 、家に帰って夜に思い出して後悔して諦めていたに違いない。
(今日は偶然ここを通って、偶然あの子を見つけたけれど、きっともう関わる事は無いんだろうなぁ。僕に自信と勇気が有れば良かったけれど…まぁ、でも今日会えたからこれからもたまに通ってあの子を少し見るぐらいは…あれ…何だかストーカーみたい…?)
僕は下校の道の途中だからセーフだという謎の論理を立て、曇りの日はたまにあの道を通るようになった。