09.国境の森
「気を付けてください。既にターゲットの目撃エリアに入っています」
セナが警告を口にする。
この森は、確か……国境の森と呼ばれていた。
国境ということはそのままの意味だが、<国の境界>ということだよなと、ふと思う。
そう言えば、この世界における国はどういう風に別れているのだろうか……
そろそろそういった情報も収集していく必要があるな。
「そう言えば、今回のターゲットは人型と言っていましたが、人型のモンスターって珍しいんですか?」
父が質問し、セナが答えてくれる。
「人型がターゲットになることですか……少なくとも、私達は初めてです」
「――っ!?」
その時、突如、遠くの方で、森には似つかわしくない、爆発音が聞こえてきた。
「何でしょう……!?」
セナの疑問に、ユシアが答える。
「ターゲットの可能性がある! 行こう!」
「了解!」
父も呼応し、俺達は爆発音のする方へ、急いで向かう。
◇
「!?」
現場に到達すると、人の形をしたものが三人いた。
いや、二人と一体と言った方がいいかもしれない。
二人は一体と対峙していたのだ。
「アオイ……あの人たち、ひょっとして……」
父が呟くように言う。
「うん……プレイヤーかもしれない」
確信があるわけではなかったが、直感的にそう感じた。
一人目は黒髪ロングの女性で、前髪は綺麗に揃っている。確かこういうのを前髪パッツンというと姉貴が言っていたはずだ。特徴的な赤い大きめの花の髪飾りをサイドに付けていて、服装もやや暗い赤でパーティーにでも行くかのようなドレス風の装いだ。はっきり言って、森の中ではかなり目立つ。
もう一人は男性で、髪色は脱色しているのか薄めで少し銀髪がかっている。服装は、全体的に白に近い薄い灰色でまとめている。心なしか肌も色素が薄く見える。全体的な彩度が女性とは対照的だ。
二人はまだこちらに気付いていない。
「な、何なの……あのおぞましい姿は……」
セナが呟く。
二人が対峙しているモノの姿に対する率直な感想だろう。
その人型は、人の形をしているものの、全身に無数の口が付いており、生理的にかなり嫌悪感を覚える姿をしている。
視覚可能なドス黒いオーラのようなものを纏い、全身の口は、常時、唸り声をあげ、涎が垂れている。目は、白目を剥いた状態で、とても理性があるようには思えない。
「すごい邪悪な魔力が漏れ出してる……! あれ、結構やばい奴だよ!」
ユシアがそいつの危険度を簡単な表現で表してくれる。
「あんなに全身から涎出してたら、脱水にならないか?」
「ウ゛ぅうウ゛うううう!!」
父が謎の心配をしているのを余所に、その人魔は強いうなり声をあげる。
頭部の口からは非常に強い光が漏れ出しており、今にも目の前の二人に、その光を解放しようとしているように見える。
「やめるんだ!!」
父は大声を上げながら、勇み出る。
「っ……!?」
プレイヤーらしき二人組がそれに気づく。
父は構うことなく、人魔に対してミサイルを発射する。
人魔の放つ閃光とミサイルが交差し、強い衝撃が発生する。
結果として爆発だけが起き、敵、味方、その他含め、誰も被弾していない。
「お前! 何して!?」
女が父に疑問を投げかけるが、父は特に返事しない。
「あの人達も……プレイヤーなのですか?」
ユシアが俺に確認する。
「多分、そうです」
「りょ、了解」
ユシアはひとまず納得してくれる。
「効いてくれ……!」
その一方で、父は畳み掛けるように貫通弾入りのミサイルを二発、人魔に向けて、発射する。
しかし、人魔は素早く動き、それを回避する。
「……くっ! 意外と素早いな。闇雲に撃っても当たらないか」
プレイヤーらしき二人組は、父が人魔と対峙する姿勢であることを見てか、人魔から距離を取ろうとする。
しかし、人魔は唸り声を上げながら、二人を追跡する。
「くっ……! あくまで、ターゲットはこちらか……」
男性が嘆くように言う。
人魔の複数の口から光が漏れ始める。
「嘘でしょ……!? なんて強大な魔力なの!? あの一つ一つが高位魔法に匹敵する……!」
セナが緊迫した表情で伝えてくれる。
「やば……!」
逃げようとする女が呟く。
そして、その予想通り、人魔の複数の口からレーザービームのように細い光線が二人を襲う。
「きゃぁああああ!!」
アリサの悲鳴が響き渡る。
「くっ……」
幸い、直撃は免れた。しかし、二人の”ステルス・アーマー”は激しく損傷しているようだ。
攻撃を受けたことでステルス・アーマーが露わになったことで、彼らがプレイヤーであることが確信となる。
そして、次の攻撃は耐えられないかもしれない。
「くっ……私は守るのは苦手なんだ……!」
父が嘆く。
そして、俺に言う。
「父の防護を外していい。あいつらを守ってやってくれないか? アオイ……!」
あいつらのことは全くと言っていい程わかっていない。
こちらの手の内を見せてもいいのだろうか?
最悪の場合、助けた後で襲ってくる恩知らずかもしれない。
それでも……
「…………あいつらを守るってことでいいんだよね?」
俺は念のため確認する。
「……頼む!」
「……わかった」
俺は、セナに設定していた防護対象4をプレイヤーの女に変更……プロテクト・モードをアサルト・モードに移行する。