07.宿2
「つまり……ハルオさんが使った魔法で不可抗力的に私のところに来てしまった……そういうこと?」
「はい……本当にごめんなさい」
「もう……着替えてる時に、急に降ってきたからびっくりしたよ……」
「はい……本当に申し訳ありませんでした」
「転移魔法が使えるって結構すごいことなんだけどなぁ……」
「はい……本当にお詫び申し上げます」
あれから素早くパジャマを着込んだユシアに対し、俺はひたすら謝罪を繰り返す。
「二人ともわざとじゃないと思うから……今回だけは許すけど、もうこんなことしちゃダメだよ……私だって、一応、女の子なんだから……」
一応どころか本格派の女の子だと思います。
「あの、本当、すみませんでした……! ……それでは!」
俺は深々と謝罪し、そのまま立ち去ろうとする。
「あっ、ちょっと待って!」
「えっ……?」
思いがけない制止に、驚く。
「折角だし、少しお話でもしていきませんか?」
この状況の俺に拒否権なんてあるだろうか。
……いや、冷静に考えると、普通にある。
だけど、俺も本当は少しだけユシアと話がしたかった。
「…………はい……」
かなり緊張しながらも何とか返事をすることができた。
「あの……以前ここに来た経緯を教えてもらったときに、ユナイトというゲームは50人25ペアで戦うゲームだと言っていませんでしたか?」
「っ……! 確かに言いました」
「えーと……だとすると、他のプレイヤーがアオイさん達と同じようにいるってことはないのでしょうか?」
「っ……!」
どきりとする。その可能性は考えていなかった。
「……ごめんなさい、今のところは何もわかっていない状態です」
「……わかりました」
ユシアは、またしばらく黙りこむ。
きっとユシアは自分達の世界のことを憂慮しているのだろう。
つまり、俺達のことを脅威と捉えている……
「仮にそんな人たちがいたとして、皆さんがアオイさんやハルオさんのような方ならいいのですが……」
「……」
監視対象としながらも、ある程度は信用してくれているのだろうか。
……だとしたら、少し嬉しい。
「この話は一旦、このくらいにしておきましょう! 教えていただいて有難うございました!」
「あ、はい……」
「それにしても……アオイさんとハルオさんって親子なんですよね……?」
「え? はい……?」
「そのわりに……あんまり性格似てないですよね」
「そ、そうですかね」
「アオイさんはハルオさんと比べて、何と言うか…………えーと、そう! 地味ですよね!」
「っ……!」
はい、俺を正確に表現する二字熟語だと思います。
「あぁあぁあ! ごめんなさい! 私、何言ってるんだろ!? ご、語彙力がなくて……!」
ユシアは頭を抱えるような仕草をしながら懸命に謝罪する。
「い、いや……確かに……そうですよね……ここに来てからの父はすごく頼りになるというか……本当はこういう人だったんだって、自分も少し驚いてます」
「……失礼なこと言っちゃって、本当にごめんなさい。ハルオさんは確かに行動力があると思います……でも……勇気なら……アオイにもあるんじゃないかな?」
「……?」
「私、ちゃんと見てましたよ。アオイが私たちとアイロンクラッド・ドラゴンの間に、割って入ってくれたのを……!」
……さりげなく、なんで俺の方は呼び捨てに変更されているのでしょうか。
「……正直に言うと、お二人にレベルの上げ方を教えるのは少し憚られました」
ユシアが少し申し訳なさそうな表情で言う。
「……」
「でも、魔力指数を測定すると、その人の心の清らかさみたいのも少しだけわかってしまうんです」
「それで、俺は地味だったってことですかね?」
「ち、違いますよ! それはもう通常時から滲み出ているというか……」
「……」
「って、また私なんか言ってる!? も、もうその件は許してくださいよ! って、なんで私が許しを請う立場に!? 元はと言えばアオイがワープして来て……!」
ユシアは、この一瞬だけで表情が三から四種類くらい目まぐるしく変わる。
ワープについては本当に不徳の致すところです。
「と、とにかくですよ! アオイの魔力には邪悪さが感じられなかったんです!」
「……!」
邪な感情がないわけではないのですが、それは検知されずに済んだようだ。
「あ、あの……何だかんだ言って、このタイミングでお話できてよかったです。あなた達のこと信じても大丈夫そうだって、なんとなく思えてきました」
「あ、ありがとうございます……」
そう思ってもらえたのなら、結果的に父のうっかりワープもグッジョブだったということか?
「ああああアオイぃいい! どこだぁああ? せっかく少し話せるようになったというのにぃいいいい」
「!?」
部屋の外……廊下? いや、隣の部屋? から咽び泣くような声が聞こえる。
「え? もしかしてここって……」
最初、ワープしたのか一瞬、わからなかったくらいには、似た雰囲気だと思ってはいたが。ひょっとして……
「いやー、実は別の宿探すのが面倒になっちゃってね。……てへっ」
ユシアはかわいらしく少しだけ舌を出す。