06.宿
この世界に来たあの日から一週間くらい経った。
「今日もいい仕事をしたな!」
宿に着くと、今日もモンスターをサクッと討伐した父が嬉々として言う。
「父ちゃんのおかげでね……」
俺は少し皮肉っぽく父に言う。
「まぁまぁ、そう言うなって!」
父は苦笑いしながら答える。
「……」
あれから俺達はユシアとセナと共にギルドの依頼をこなした。
仕事のランクはGが最低で、Aが通常時の最大。Aランク以上の依頼というのは、滅多にないらしく、主にCランクやBランクの仕事を請け負った。
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【所持金】
320,657ネオカ
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ミノタウロスの撃退、マーメイド・ガーゴイルの撃退、イビル・ピクシーの撃退などいくつかのクエストをこなしたものの、大抵は獲物を見つけるや否や、我先にと突撃していく父の一撃で終わってしまい、未だに俺は何の活躍もしておらず、若干、消化不良ではあった。
少しは遠慮して欲しいものだが、彼曰く……
実は相手が紙耐久、攻撃極振りタイプでアオイに危害を加えたらどうするんだ!?
との、ことらしい。
少々、過剰にも思えるが、俺のためらしいので、あまり強くは言えない。
とはいえ、CやBでも報酬は十分であり、一時、一文無しに限りなく近づいた俺達も生活していく上では、不自由なく過ごすことができていた。
それでも部屋は別室にはしていなかった。……父が勝手に決めてしまっただけだ。
◇
「あ……そういえば……」
父が何かを唐突に思い出したかのように口を開けている。
「ん……? どうした……?」
「レベル上がったけどさ、魔法とか使えるようになったのだろうか?」
また随分と別の話に飛ぶなぁ。
「どうなんだろうね……魔法の使い方についてはまだ何も聞いてないね」
「しかし、そう言えば、実はまだ魔法って見てないよな?」
「そうだね」
意図的に見せていないのかもしれないが……
「遠征先から帰る時も、歩いて帰っているけども、転移魔法とかで帰れたりしないものかね?」
それは実は俺も少し思ったが……
「そんな便利な魔法なんてないのかもね」
「そうかもしれないなー。でも、なんとなく憧れるような、転移魔法って。できないもんかねぇ、例えば、こんな感じで……」
父は右手の手の平を俺に向ける。
「アオイをユシアさんのところへ[転移]!」
「え……?」
父の太い腕の周りに魔法陣のようなエフェクトが発生する。
「え……? え……?」
父の焦った顔が見えていたが、次の瞬間には父がいなくなる。
「……あれ?」
一瞬、何が起きたのだろうと思う。
目に入る情報……すなわち部屋の雰囲気の変化も乏しく、父がいなくなった以外は、一見、何も変わっていないように思えたからだ。
だが、脚の方が何やら柔らかで暖かいことに気がつく。
俺は嫌な予感を伴いながら、恐る恐る下を確認する。
「え、えーと……あ、アオイ……さん? 何やってるのかな……?」
そこには肌色成分多めのユシアが心なしか顔を桜色に染めて、フルフルと小刻みに揺れている。
その瞬間、この世界……いや、今世との別れの可能性を視野に入れる。
しかし希望を失ってはいけない。
生きるため自分に最大限できることを実行する。
それは……そう……JAPANESE SHAZAIだ。
「本当、すみません」