05.街
「ユシアさんやセナさんの装備って割と軽めな感じですけど、大丈夫なんですか?」
服を買いに行く道中、俺は意を決して二人に質問する。
「あ……うん」
ユシアはあまりしゃべっていなかった俺が言葉を発したことに少し驚いたようであったが、すぐに返事をしてくれる。
「実はこれ、こう見えて結構いい奴なんですよ」
「へぇー」
「魔力の前には、物理的に堅い装甲はあまり効果的ではありません。この装備にはそれなりの魔力が埋め込まれてるってわけです」
「なるほど……」
なかなか興味深い話だ。
「それじゃあ、極論、魔力さえ埋め込まれていれば、軽装でも問題ないってことですかね?」
「はい、そうです。ただしですね、そういう高魔力で軽めの物はとんでもなく高価なんですよ」
「そうなんですね……」
「それで、どんなお店にしましょうかね?」
ユシアが尋ねる。
「そ、そうですね……五億ネオカで買える一番いいものを扱ってる店をお願いします」
◇
「ほ、本当にこれでよかったんですか?」
ユシアがたじたじになりながら確認する。
「は、はい……!」
俺は少しだけ、ユシアの言う通り……本当によかったのか? と思いつつも、比較的、力強く返事する。
俺は有り金のほぼ全てをはたいて、五億ネオカの服を購入した。
しかし、こんな高価な服があることに驚いたが、高魔力の服装は、どうやら金持ちに、かなり需要があるようであった。
買ったのは、<着るアンデッド>などという異名を持つらしい<オリハルコン>を繊維状に加工した……Tシャツだ。
店員には、かなり怪しまれたが、勇者さまと上魔士さまの威光のおかげで何とか乗り越えることができた。
確かに高い買い物ではあったが、このような異界の地で生き残る上で、かなり重要になるであろう防御力を高められるのであれば、悪くない投資であると思う。
アオイ買うのか……じゃあ、自分も……という少々、軽い感じで父もオリハルコンのタンクトップを購入してしまったため、俺達はいきなりほぼ無一文となった。
「本当に本当によかったんですか?」
ユシアが再度、心配そうに尋ねる。
「これで完全に退路が無くなりましたね。明日からのクエストよろしくお願いします」
監視されるために同行するのは何だか気持ちが悪い。
どうせならお金のためという大義名分があった方がいい……などと俺なりにポジティブに考えてみる。
「っ……! はい、こちらこそよろしくお願いします」
ユシアは少しホッとしたように微笑む。
◇
装備を購入し、僅かに数日分だけ残った宿泊代を使い、俺と父は、ユシアに紹介してもらった宿に入室する。
木造でベッドが二つある部屋だ。
「……」
「……」
しまった……別室にできる余裕があるくらいのお金は残しておけばよかった……
俺はつい先ほどの決断を少し後悔する。
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【所持金】
10,023ネオカ
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父と二人きりになる。
来たばかりの時はすぐにドラゴン襲撃があったので、こっちに来てから改まって二人きりになるのはこの瞬間が初めてであった。
「……」
「……」
きまずい……
今まで必要に迫られた会話であったため、なんとか普通に話していたが、改まって二人きりになると、何を話していいのやら……
「……今日は、わけわからない日だったな」
「……!」
などと話していると、父がそんなことを言う。
父も少し照れくさそうにしている。
「そうだね……」
「いやー、しかし、まさかBLUEさんがアオイだったとはなー」
父は苦笑いするように言う。
「…………そう言えば……なんで……ユナイトやってたの?」
「えっ!? えーと……まぁ、アオイがはまってたから……」
「……?」
それはつまり……
「きょ、共通の話題というか……」
「……!」
……俺と話がしたかったってことか。
「……全然、目的果たせてなかったじゃん」
「いや、ハマり過ぎて、なんか言うのが恥ずかしくなっちまったんだよ! 引かれるかもしれんて」
「なるほどね……確かにまさか50Fに到達してるとは夢にも思わなかったよ。父ちゃん、ゲームとかやってたの?」
「え? まぁな……実は那月……いや、母さんとの出会いはゲームのオフ会だったりする」
「え……?」
全然知らなかった。そうか。俺が小学生の時に母さんが亡くなったから、そういう話もできなかったのだな……
「……父ちゃん……俺のこと恨んでないの?」
「え……?」
「……」
「……そうか……アオイ、そんなこと思ってたのか……」
「……」
「この際だからはっきり言っておく! アオイのことは全く恨んでないぞ!」
「……!」
「トラックの運転手はめちゃくちゃ恨んでるけどな!」
「……」
その時、長く自分を縛っていた何かがすっとほどけたような感覚がした。
「父ちゃん、ごめんね……」
「何を……何を謝ることがある」
「頼むよ……謝らせてくれよ……」
「……!」
父は太い腕で俺を引き寄せ、胸の中に抱き寄せた。俺は泣いた。
俺は下を向いていたから、父がどうだったかはわからない。