33.西の街<トロココ>祭の後
父視点
こんな奇跡があるのか。
妻は死後、この世界で生まれ変わっていたということか?
「っ!?」
その時であった。突如、攻撃を受ける。
「きゃっ!!」
「せ、な、那月! 大丈夫か!?」
「はい……」
「よかった」
「いちゃいちゃしているところすみませんね」
「っ!! お前ら……」
そこに現れたのは見覚えのある二人であった。
それはラクイとアリサであった。
「……戦うのが目的か?」
「おや……妙に呑み込みがいいですね」
「わかった。なら、街の外にしないか。そちらも邪魔が入るのは本意ではないだろう?」
「……わかりました」
ラクイは俺の提案を受け入れる。
◇
私達はクラクスマリナの隔壁の外側は、開発されずに更地になっている場所へ移動する。ウミと出会った場所だ。
「それで、帰るのが目的か?」
私は襲撃者に尋ねる。
現世に帰るためのエレベーターに乗るためには、プレイヤーを倒す必要があるらしい。
「いえ、我々はすでにプレイヤーを狩っています」
「っ!?」
「我々はゲームをやる気がないやつを狩るのが役目です。例えば貴方達が逃がした千川と代川なども我々で処理しております」
「どういうことだ? お前ら、もしや……」
「お察しの通り……ゲームマスター側の人間です」
「なっ!?」
「というわけで、あなた方はゲームをやる気がないという判定が下りましたので、狩らせていただきます。悪く思わないでください、仕事なので」
「っ!!」
ラクイはそう言うと、機関銃を構え、そして乱射する。
「ハルオさん! 危ない! [氷壁]!!」
那月……いや、今はセナが氷の壁を張り、機関銃を防ぐ。
「そんな薄い壁では防げないわよ!」
アリサはそんなことを言いながらロケットランチャーを発射する。
「くっ……」
セナが張った氷壁は爆発と共に崩壊する。
さらに次の瞬間には、一筋の光の線が薙ぎ払われるように発生する。
「伏せて!」
「っ!!」
私はセナを押し倒すように伏せる。
光の線はぎりぎり上をかすめる。
その延長戦上が接した先で大爆発が発生している。
「お、お前ら、ゲームマスターだからってチートしてるんじゃないだろうな!?」
「いえ、ゲーム設定上、可能な範囲の兵器しか使用していません」
「本当かよ……!」
「まぁ、ゲーム設定上可能な最上級の兵器であるのは確かです。例えばこんなことも可能なんですよ」
ラクイから無数の光が照射される。
それはまるでレーザー光線の予告線であるかのようで。
その隙間はとても避けられるレベルのものではなく、そのうちの一本が私の身体に接していた。
「くっ……」
そして、レーザーが放たれる。
「…………」
が、しかし、レーザーは私の身体を貫通することはなかった。
レーザーと私の間には、半透明の盾状のエフェクトが発生し、私を保護していた。
「はぁ……はぁ……間に合ったみたいだね」
「アオイ……」
そこには、息子がいた。
「これは……?」
その半透明の盾状のエフェクトはパートナーである私も見たことがなかった。
「APS with [隔壁]」
「隔壁……? もしや……」
「ひそかに練習してた守属性魔法……」
「あっ! 私と同じ……」
そこにはユシアさんもいた。
「あれ? でも何で[隔壁]浮いてるの? この魔法は身体から離すことはできなかったはず……」
ユシアさんの言う通り、盾状のエフェクトがふわふわと空中を漂っている。
私には少し心当たりがあった。
アオイのAPSの要である飛翔体ユニットに守族性魔法の隔壁を掛け合わせることで、強力な防衛網を張り巡らせているのだろう。
「へえー、ステルス・アーマーと魔法の融合か。面白いじゃん」
襲撃者であるアリサがそんなことを言う。
「ってか、現地の人は悪いけど、干渉できないようにさせてもらうよ」
そうアリサが言うと、セナとユシアさんに、ばってんマークのエフェクトが発生する。
「え、何これ……!?」
ユシアさんは困惑するように言う。
「現地の人にはこの戦いに干渉できないようにさせてもらった」
「おい、それもゲーム設定上可能なのか?」
「これはGM権限機能だね。とはいえ、こちらの攻撃も通らないようにしたのだから、そちらにとっても不都合ではないだろ?」
「……」
確かにそうだ。
「さて、続きだ。これはどうかな?」
アリサが右腕を前に出す。ステルス・アーマーが浮かび上がる。そこには放射能標識のマークが印字されている。
「おいおい、それも許されてるのか?」
「これは実装が見送られた兵器だよ」
「なっ……」
「そっちも魔法とかいうの使ってるんだからお互い様でしょ! くらえ……! ダーティ・ボム!」
「やばっ……」
アリサはミサイルを発射する。
と同時にそのミサイルに別のミサイルが叩き込まれ、爆発する。
「っ!!」
「アオイ……!」
アオイのAPSが発動したのだ。
アオイが防護の対象としたモノに対し、攻撃の意図が感じられた場合、事前に察知し、その対象を飛翔体ユニットから放たれる迎撃弾により、能動的に破壊し、防護対象を守護する。
しかし……
「破壊するのはいいけど、いいのかなー、撒き散らしちゃって……」
アリサが私が懸念した通りのことを言い、ニヤリとする。
「……」
が、しかし、よく見ると爆発のエフェクトは透明な光のようにキラキラと輝き、そして次第に消滅していく。
「え……なにこれ……」
アリサも動揺している。
「APS アクティブモード with [消滅]……もう一つ、練習してた魔法……上手くいって良かった……」
アオイがそんなことを言う。
「えっ!? うそ!? “消”属性の魔法!?」
ユシアさんが口をぽっかり空けて、驚いている。
転、時、耐、消、心の希少五属性の魔法の一つ、消の魔法ということか?
「どうなってんのよ!!」
アリサはそんなことを言いながら、ステルス・アーマーの全砲門を開こうとしている。
ラクイも同様だ。
「父ちゃん、ラクイを頼む」
「お、おう!」
俺は最大火力をぶち込むため、ラクイに突撃する。
無謀にも思えるが、そんなことはない。
ラクイから放たれる無数の光は力を失い消滅していく。
「なっ!?」
「効いてくれ……!」
「っ!?」
俺は渾身の右ストレートをラクイの腹部に叩き込む。
「ぐぉおおおおおおおお!!」
隣では、アリサが放つ攻撃も発射前にことごとく破壊され、次第にアリサのステルス・アーマー本体が剥がれていく。
「はっ!? チートしてんのそっちじゃないのよぉおお!」
◇◇◇
「殺すの?」
ステルス・アーマーを完全に破壊され、倒れるアリサをアオイが見下ろしている。
「いや、特にそういうつもりは……」
「っ!?」
「え、父ちゃん、この後、どうすればいいの?」
「えっ、えーとな……」
どうすればいいんだ? アオイよ、親にも分からないことはあるんだぞ。
「えーと、特に決めてないんだけど、ちょっと聞きたいのですが、この世界はなんなの?」
アオイがアリサに尋ねる。
「はっ? そんなこと? なにってどう見てもただの異世界でしょ」
「えぇ……」
アオイは困惑している。俺もだ。
「我々が存在する宇宙の外側も含めれば、都合のいい世界の一つや二つないわけがないってことじゃない?」
なぜ疑問形なのでしょう。
「いや、実はゲーム開発用に作ったAIが自己進化しすぎて、作った人にも理解不能な領域なのよ。頼めばだいたいその通りにやってくれるし」
「はぁ……すごいですね」
わかるぞ。突飛過ぎて、それくらいしか感想が出てこないよな。
「あの、特に殺すつもりもないのですが、一個だけ頼みがあります」
「なに? 聞くだけ聞くわ」
「姉ちゃんに生きてるって伝えて欲しい」
「っ!?」
「俺と父ちゃんがこっちに来て、母ちゃんは昔、死んでしまって、今、家族で姉ちゃん一人なんだ……」
「アオイ……」
お前ってやつは……
「うぇええええええん」
!?
泣いている。アリサが……
「ちょ、アリサ……」
ラクイが焦ったような顔を見せる。
「だってさー、めっちゃ姉思いのいい弟じゃーん」
「そ、そうだけど……」
「大丈夫、お姉さんがなんとか伝えておくわ」
「あ、ありがとうございます……」
その後、アリサとラクイは去って行った。
やる気がなさそうなら、そのうち、また討伐しにくるとのことであった。仕事なので。とのことであった。ちゃんとゲームに参加してれば襲撃することはないとのことであるが、それならば、どうやらまたお目見えすることになりそうだ。




