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ぶきっちょ親子は異界の地にてクエスト手伝いで生計を立てる  作者: 広路なゆる


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31.トロココ平原3

賢者寄り三人称

 勇者達のふざけているとしか思えない作戦であったが、初めて効果らしい効果が得られた。


 だが、先程の頭部への氷結系の攻撃で加速したことを考えればそれほど減速しているわけでもない。


 それに減速したとしても街へ向かう進路は変わっていない。


「私のせいで大変なことに……」


 賢者のパーティーの一員、上魔士のフェルが絶望的な表情で呟く。


 確かに実行したのは彼女だ。

 だが、彼女が誤解するようなことを言ったのは賢者自身であった。

 冗談が過ぎた。賢者自身も少なからず負い目を感じていた。


「フェル! いつまでへたれてるんだ! 終わっちまったことは仕方ない! 後でたっぷり反省会してやるから、今はこの状況を何とかすることだけを考えろ!」


「……っ! ですが……」


「僕は何か間違ったことを言っているか!?」


「い、いえ……!」


 フェルの目に力が入る。


「しかし、賢者さま、他に何か手立てはありますか?」


 勇士ルエリエが問う。


 この場に残っているのは第四位の上魔士<フェル>と第四位の勇士<ルエリエ>。


 もう一人のパーティーメンバーである第三位の剣豪<カシギ>はすでに街に転移させ、万が一に備え、住民の避難を指示しているはずだ。


 だが、現実的にあの大きな街の住民を全員避難させるなど不可能だ。


 何とかして奴の進路を変えるしかない。


「鏡などどうでしょう?」


 フェルが呟くように言う。


「モンスターに鏡を見せると困惑して方向を変えるかもしれません……」


 鏡……果たしてうまくいくか。

 だが、試してみる価値はあるかもしれない。


「よし、やるぞ」


「では、私が……!」


 ルエリエが名乗り出る。


 ルエリエは金属魔法レベル7を保有している。


 擬似的な鏡を作り出すことなど造作もない。


「いきます! ……[錬金]!」


 銀色の金属が円形をかたどり、ユグドラゴンの目の前に出現する。


 ユグドラゴンは思惑通り、困惑するように動きを緩める。


「鏡か……! なるほど!」


 勇者パーティーの転移使いが反応する。


 だが、鏡の効果も長くは続かなかった。


 ユグドラゴンは鏡への関心を薄め、再び直進を始める。


「くそっ……!」


 賢者は思わず悪態をつく。


 後ろを振り返る。


 もうこんな近くに……!?


 気付けば、街まで僅か三百メートル程度のところまで来ていた。


「賢者さま、どうしましょう……どうすれば……!?」


「……っ」


 思いつかない……


 ここまで来てしまった以上……


 賢者の脳裏を<討伐>の二文字が(よぎ)る。


「他に……他にないのか?」


「け、賢者さま……失礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか?」


 フェルが小さな声で遠慮がちに言う。


「何だ!?」


「賢者さまの<転移>でユグドラゴンを移動させることはできないのでしょうか?」


「……っ!」


「なるほど! 目から鱗です。なぜ、今まで思い付かなかったのでしょう……!」


 ルエリエの言葉はフェルのアイデアが革命的な名案とでも言うようであった。


 ……そんなこと、できるなら最初からやっている……!


 あんな巨大な物体、転移できるわけがない……!


「……いや、やめておこう。転移が成功してもユグドラゴンの進行を防げるとは限らない。賢明な方法とは思えない」


「そ、そうですね……失礼しました……」


 フェルは、まるで自分が悪いかのように謝罪する。


 賢者は思う。

 我ながら、なんとも無茶苦茶なロジックだ。

 うまくいくかわからずともやってみるしかない状況であるのに。


 ……失敗を晒すのが怖いのか?


「なるほど! その発想はなかった。こんなでかい奴できないと思い込んでた。やるだけやってみましょう」


「……っ!」


 そう言い放ったのは勇者パーティーの転移使いであった。


「ハルオさん、だ、大丈夫ですか? 転移を失敗すれば、とんでもないところにユグドラゴンを落としてしまうかもしれません」


 勇者のパートナー、第七位上魔士のセナが心配そうに言う。


「そ、その通りだ……」


 賢者もセナの意見に同調する。

 彼女の言っていることは百パーセント間違っていない。


「言葉で言えば、言葉通りになるんですよね?」


 転移使いが何かを確認している。


「自身にその器量がなければどうなるんですか?」


「不発に終わると思います」


 セナが答えているのは、具体詠唱のことか?

 具体詠唱などレベル3で、皆、卒業するはずだ。


「なら、リスク0ですね! 不発に終わったら、ちょっと恥ずかしいですが」


「……っ!」


 その恥ずかしさ故に、やらなかった奴がいる。


「た、確かに……」


「よし! ではやります!」


 セナの返答に転移使いは笑顔で返す。


「賢者さん、手柄、横取りしちゃってすみません」


「っ……! え……あ、別に構わん……」


 賢者の誇りを忘れたか。

 国を、国民を守るために最善を尽くさずして、何が賢者か……


 いつから忘れていたのだろうか。

 賢者とは、賢明である以前に、懸命でなければならない。

 国を守ることができるのは、賢明な賢者よりも、愚直な愚者であることを。


「ハルオさん! もう引っ張れないよ! ……これがダメなら、もう私の盾を使うしかない……」


 勇者が歯を食い縛るように言う。


 ユグドラゴンはもう街まで五十メートルのところまで来ていた。


「すみません、そっちの方も準備、お願いしますね」


 転移使いのその言葉を聞いて、賢者は決意する。

 こいつが失敗したら、僕がやる。


「それじゃ……」


 転移使いは目を瞑り、深呼吸する。

 そして勢いよく目を開き、右の手の平をユグドラゴンに向ける。


「ユグドラゴンを右に100度旋回!! で……[転移]!!」


 ◇◇◇アオイ視点


 ユグドラゴンは直進を続ける。


 だが、その方向は南西の亜人族の国。


 恐らく、例年通りの進路に復帰した。


「…………うおぉおお! 賢者さま、すげえぇええ!!」


「えっ?」


 賢者がキョトンとしている。


「流石はレベル6の転移魔法の使い手! いや、この分だとレベル7は確実! もしかすると8もあり得るかもしれない!」


「あ、あの……これは――えっ!?」


 セナが何かを言おうとしたのを父が止める。


 ユグドラゴンと街の間、頭部側で戦っていたのは勇者パーティーと賢者パーティーだけ。


 他のパーティーは、きっと……もどかしい中、尻尾側でコガネからユグドラゴンを守ってくれていた。


 彼らからすれば、この転移は賢者がやり遂げたと思うのは至極、当然であった。


「このままでいいです。このままの方がいいです」


「……はい」


 父の言葉に、少し戸惑いの表情を見せつつもセナは納得する。


 きっと俺達はこの世界の表舞台に立つべきではない。


 いや、父、あなたはその割には目立ち過ぎじゃないか?


「ま、まっ――」


 賢者も戸惑うように何かを言おうとしている。


「うおぉおお! 進路は戻ったがコガネはまだ来るぞーー! 野郎共、最後まで油断するなーー! 今日は最高のディナーが待っている!!」


「おぉおおおおお!!」


 だが、冒険者達の耳には届かない。

 その冷めやまぬ興奮を、不憫な昆虫へと向けるのが彼らの性分であるからだ。


「…………」


 立ち尽くす賢者にユシアがぽんと肩を叩く。


「……?」


「きっと貴方にもできたよ! お手柄は貰っといてもらえるとこっちも有り難いので!」


「……」


「よーし! コガネだコガネだ! フェルさんも行こう?」


「え? あっ、はい……」


 ユシアは困惑気味のフェルの手を引き、他の冒険者に混じるように、コガネに突撃していく。


 ◇


「…………」


「…………」


 賢者と共に立ち尽くす二名……賢者含め計三名。


「……お前ら……何をしている?」


 賢者が口を開く。


「哀しいかな……コガネへの攻撃手段が皆無……」


 俺は初めて賢者と会話したような気がする。


「……そうか」


「「「………………」」」


 沈黙が流れる。


「ハルオと言ったか?」


「あ、はい……そうです」


 突然、賢者さまに名前を憶えられた父が多少驚いた様子で返事する。


「お前ら……何者だ? それほどの力を持ちながら、なぜ未登録などという立場でいるのだ?」


「そうですね……俺達は……部外者……とでもいいますか……」


「部外者? まぁ、いい……他人の力の使い方に、とやかく言うものではない……」


「恐れ入りますぅ……」


「しかし、僕は貴方を唯一無二の<愚者>として、好敵手に認定することにした」


「へ……?」


 ()くして、父は<勇者の従者>兼<賢者のライバル>となったのであった。


「……なんか私、馬鹿にされてないか?」


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【作者の別作品】

本作よりダークな雰囲気の作品ですがおすすめです。
<部長!そのスキルをいただきます!>
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+注意+

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