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ぶきっちょ親子は異界の地にてクエスト手伝いで生計を立てる  作者: 広路なゆる


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29.トロココ平原

 トロココに到着して二日目の朝、遂にユグドラゴン護衛クエストが始まる。


「皆様、今年も総勢三十余名、お集まりいただき有り難うございます。勇者さま、賢者さまを初めとした三十士の方々も多数いらっしゃる中、壇上より大変恐縮ではございますが、本年の作戦統括を任命されましたので、甚だ僭越ではございますが、ご説明をさせていただきます」


 ギルドの広間にて、クエストに参加する冒険者達が集められ、ユグドラゴンクエストに関する説明を受ける。


「ユグドラゴンは北から南へ南下し、そのまま亜人の国へ行きます。本日、昼頃、トロココの西付近を通過予定です。事前の予想ではトロココへ突入する可能性は低いとのことです」


 素人考えで、放っておけばいいのではと思ってしまうが、放っておけない理由が続く。


「例年のことではございますが、トロココ西の平原には、ユグドラゴンの背中に自生する<ユグの果実>を好物とするエンペラーコガネが生息しています。奴らは西側からユグドラゴンを目掛けてなりふり構わずに突進してきます。この時期のユグドラゴンは非常に苛立っており、ちょっとした刺激で進路を変更する危険性があります。故に皆さんの主な役割はこのコガネを排斥(はいせき)することにあります」


 ユグドラゴンの任務と言いつつ、その実は虫退治というわけか。


「エンペラーコガネってランクは何相当?」


 父がセナに尋ねる。


「魔獣でもないので、ランクはE相当です。ただ、数が多い上に、ユグドラゴンに辿り着かないようにする必要があるので、簡単ではありません」


「……なるほど、なるほど」


「それより、ハルオさんは……」


 セナは少し心配そうに父を見る。


「ん……?」


「いえ、何でもありません……」


 ◇


「ハルオさん、本当に私らも参加しちゃって大丈夫なんかな?」


 ギルドの外で待機していたラクイが遠慮がちに聞いてくる。


「あ、ユシアさん、こちら昨日話したラクイさんとアリサさんです」


 父がユシアに二人を見せる。


「あー、あの時の……。別に参加規制とかしてるわけでもないし、多分、大丈夫だと思いますよー」


 ユシアは軽い感じで言う。


「ただし、自分の身は自分で守れる方、限定ですが」


 ユシアが付け加える。


「……だ、大丈夫です」


 ラクイは一瞬、息を飲むような仕草をするが、改めて参加を表明する。


「えーと、説明とかはハルオさんの方からしてもらえるのかな?」


「やっておきます」


「有り難うございます。それじゃあ、よろしくお願いしますね」


「こちらこそ有難うございます。精一杯やらせてもらいます」


 ラクイはユシアに会釈する。


「……あの人達、大丈夫なんですか?」


 ウミが小声で聞いてくる。


「うーん、まぁ、大丈夫じゃないかな」


 実力はわからないが、なんとなく生命力は強そうだ。


 ◇◇◇


 間もなくユグドラゴン到着予想である昼頃だ。天気の方は良好とは言えず、曇り空。雨が降っていないのはまだいいが、霧が掛かっており視界が悪い。


 肝心のユグドラゴンであるが、実は、随分と前からドンドンと打ち上げ花火のような地鳴りが聞こえており、少しずつ近づいて来る。


 足音はかなり近くに感じるが濃霧のせいで、未だに姿が確認できない。


「今年は例年より遥かに高難度かもなぁ」


 ユシアが少し緊張した様子で呟く。


「来るぞぉお!」


 参加者の誰かの声が聞こえる。


 その瞬間、霧の中からにゅっと巨大なワニガメのような頭が現れる。


「でか!!」


 父が素直に反応した通り、流石に息を飲む大きさだ。


 頭一つで四畳半の俺の部屋くらいはありそうだ。


 全長で言うと、五十メートルくらいはありそうだ。


 霧のせいで完全に視認することは難しいが、甲羅はないが、亀のような寸胴な体をしており、背中には樹木が生い茂っている。

 ここにエンペラーコガネが大好物とするユグの果実を実らせるという植物が自生しているのだろうか。


「うわぁ、こりゃ見に来て正解ですわ。こんな陸上生物、あっちの世界じゃ絶対見れませんから」


 ラクイも興奮気味だ。


 アリサはラクイの傍らで黙っているが、目を丸くしている。


「さぁ、皆さん! もうすぐコガネが来るエリアです! 頑張ってユグドラゴンを守りましょう!」


 セナが号令をかけると早速、羽音が聞こえてくる。


「お出ましだな!」


 霧の中から、丸っこい形状をした甲虫が飛び出してくる。


「ひっ……」


 ウミが少しひきつるような声をあげる。


 まぁ、案の定というか……


「こっちもでかい!!」


 ラクイはそんなことを叫んでいるが、嬉しそうだ。


「きゃああああ!!」


 ウミは一般的な女性らしい反応で、悲鳴を上げながらも、マシンガンを体長一メートルはありそうなコガネに向けて乱射する。


 彼らはただ好物の実を食べに来ただけと考えると少々、気の毒ではあるが、マシンガンはしっかりと効いているようで次々に駆除されていく。


「よーし、やるぞー!」


「[氷弾]」


 ユシアは剣で、セナも範囲の広い拡散弾のような氷の魔法で次々に飛来するコガネを蹴散らす。


「わぉ、これが噂の魔法ですか。ついでに、いいもの見れました。では、私達も微力ながら手伝います」


 ラクイとアリサは威力がアサルトライフルよりも高く、それなりに連射性も高い重機関銃モデルらしい攻撃で援護してくれる。


[紅蓮炎弾(ぐれんえんだん)]」


 付近では、オレンジ色の燃え盛る火の玉がコガネを消し炭にしている。


「やぁ、勇者さま、調子はどうだい? 全く……力をセーブするのって大変だね……」


 火の玉の術者であった男が話し掛けてくる。


「げっ……賢者っ」


 ユシアは彼に会うたび毎回この反応をしているのだろうか……


 近くには彼のパーティーのメンバーらしき三人の女性もいる。


 これが真性ハーレムという奴か。


「やぁ、君……あの時はお世話になったね」


 賢者が父に話し掛けてくる。


「あ、その節は失礼しました」


 父は丁寧に対応する。


「まぁ、せいぜい気を付けてくれたまえ」


 そう言うと、賢者もさっさと戦闘を再開してしまう。


 皆がそれぞれに兵器、魔法、武具を用い、コガネからユグドラゴンを守る。

 ユグドラゴンは動きはゆっくりと、だが巨体であるが故にそれなりの速度を持って、進んでいく。


「…………」


「…………」


 二名ほど何もせずに戦況を見つめている。


 端から見れば、怖じ気づいて立ち尽くしているように見えなくもないだろう。


 一人は一発の攻撃の威力が高過ぎる上に連射できるタイプではないため。


 もう一人はアサルト・モードにしないと相手からの攻撃がない限り動けないため。


「……なぁ、アオイ……私達さ……役立たずだね……」


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【作者の別作品】

本作よりダークな雰囲気の作品ですがおすすめです。
<部長!そのスキルをいただきます!>
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