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ぶきっちょ親子は異界の地にてクエスト手伝いで生計を立てる  作者: 広路なゆる


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28.西の街<トロココ>

 ギルドの個室から出てきたユシアが呟く。


「今年もユグの季節ですかぁー」


 当然、シンプルな疑問が湧いてくる。ユグ……とは?


 まず、なぜ個室から出てきたかというと、ギルドから直接発注を受けたからである。


 普段、クエストはギルドが提示した物を冒険者が選んで受注するのだが、今回はギルド側から特定クエストの受注要請があったのだ。

 ユシアとセナが依頼を受け、俺、父、ウミの三人は外で待機していた。


「ユグドラゴン……Sランクのモンスターです」


「え、Sランク!?」


 父が眉尻を上げて驚く。


 確かにSランクというのは初めてだ。


 ってか、それよりもドラゴンは大丈夫なのか……?


「ユグドラゴンは、ものすごく巨大なドラゴンです」


「あそこまで突き抜けて大きいと、もうなんか平気なんだよねー。だいたいアイロンクラッド・ドラゴンがボーダーくらい。それより大きければ大丈夫です!」


 ユシアがあっけらかんとそんなことを言う。


 アイロンクラッド・ドラゴンでも結構大きかったが、そんなに大きいのだろうか。


「ちなみに今回のクエストは撃退でも討伐でもありません。ユグドラゴンは周遊する特性を持っており、毎年、この季節に西側の最大の街<トロココ>付近を通過するんです」


 確か、クラクスマリナは人族の国の東の方にあるとセナが言っていたっけな。つまり、ちょうど反対側ということか。


「ユグドラゴンに悪意はありませんが、ただ移動するだけでも街に入ってしまえば大変な被害となります。なので、そうならないように精鋭達がユグドラゴンを護衛・誘導するというわけで、毎年恒例となっています」


「お祭りですね! いいですね」


 ウミがよくわからないことを言っている。


「まぁ……そんなところです」


 え、そうなの?


「それじゃ、祭に乗り遅れないように……トロココ、久しぶりに行きますか!」


 ◇◇◇


「え、なにこの街はぁああ!?」


 ウミが騒がしい。


 まぁ、その気持ちもわからなくはない。


 魔馬車に引かれ、半日、俺達は西の街<トロココ>に到着していた。


 街の風景はクラクスマリナより幾分、近代的な感じではあるが大差はない。しかし、街にいる人々には多少、差異があった。


「耳長!? エルフ? けもみみ!?」


 ウミはテンション高めだ。

 確かに人族に紛れて、耳長や獣耳に尻尾という人達がいくらかいる。


 獣耳なら、獣族の街にもいたが、あちらは顔面からして獣であったが、こちらは顔は人で、一部分が獣であり、人間から見た親しみ易さとしてはこちらが上なのは致し方ない。


「あれ? これって珍しいの?」


 ユシアが逆に驚くように言う。


「珍しいし、尊いし……」


「と、尊い?」


 ユシアは不思議そうな顔をしている。


「西側は亜人族の国が近いので、物流等のために、亜人の出入りが許可されています。東側は国防観点から基本的に出入りが禁止されています。実は、全くいないわけではないんですけどね」


 説明係となりつつあるセナが懇切丁寧に教えてくれる。


「人族の国は<北と東が獣族の国>、<南東が海>、<西から南西が亜人族の国>と隣接するような配置です」


 形的には、獣族の国である千葉と埼玉に、囲われる東京みたいな感じだろうか。


「まぁさ、とりあえずギルドに行きましょう!」


「……そうですね」


 ユシアの提案にセナが同意する。セナは心なしか少し浮かない顔をしていた。


 ◇


「いやー、ここのギルドも久しぶりだねー」


 ユシアもこちらにはあまり来ないのだろうか。


 トロココのギルドは、クラクスマリナよりも更に大きかった。


 内装も少し豪華な感じがする。


 ギルドからの依頼クエストということで、案内された来賓室へ向かうところであった。


「これはこれは勇者さまじゃありませんか」


 後ろから男性の声がする。


「げっ……賢者」


 振り返ったユシアが露骨に、不味い物でも食ったような顔をする。


 俺も振り返る。

 そこには一人の優男がいた。


 黒髪の坊ちゃん刈りで、中性的なイケメン。身長は平均的だが、すらっとしたモデル体型。白いブラウスに深い青のベストを着込んでいる。ベストは丈が長く、裾が後方にたなびいている。


 ユシアは一転、にこりと微笑み、賢者とやらに挨拶をする。


「ど、どうも……お久しぶりです…………では!」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、久しぶりの再開なのだから……」


「うっ……」


 ユシアは見事に逃走に失敗する。


「あれ? しかし、随分と従者が増えたみたいだね」


 賢者は俺達を見渡しながらそんなことを言う。


「ええっと、従者じゃな……いや、そうなんですよ……色々ありまして……」


「……見慣れない顔ぶれですが、三十士に入っていましたっけ?」


 さんじゅうし? 三十士か? 剣士職、魔法職、魔法剣士職のトップ10、計三十人で三十士ということで合っているだろうか。


「いや、彼らは未登録なので……」


 登録って何でしょう? 住民登録なら確かにした覚えはありません。


「はっ!? 奇特にも<七位>を重用(ちょうよう)していると思えば、ついに未登録を!?」


「っ……!」


 ユシアは一瞬、歯を食い縛るような表情を見せたが、にこやかな笑顔に戻る。


 セナは浮かない表情で、賢者から目線を逸らしているようだ。


「だいたい何で七位なんだ? 仮にも、勇者なら、もっと上位……そう……例えば、僕と組めばいいの――」


「お前よりセナさんがいいからに決まってんだろ?」


「なっ!?」


 なんと父が賢者の懐に突如として現れ、啖呵(たんか)を切る。


「は、ハルオさん!?」


 セナが目を丸くして驚きながら、父の名を口にする。


「……転移魔法……!? ハルオ……?」


 賢者も多少、驚いているようだ。

 自身の得意とする転移魔法をよくわからない未登録の従者が使用し、国の最高峰の一人である自分に不敬とも取れる行動を取られれば、困惑もすることだろう。


「あんまり……うちのパーティーメンバーのこと、悪く言うのは止めてもらえます?」


 父は恐い物がないのか、後に引けなくなったのかはわからないが、追い打ちをかける。


「…………そうだな……失礼した。配慮に欠けていたよ……」


「あっ、はい、なんかこちらこそすみません」


 事が荒立つことなく謝罪されたのは、予想外だったのか、父も少し後ろめたさを感じるように謝罪する。


「やめてやめてー! 二人とも喧嘩はよくないよー!」


 ユシアが二人の間に割って入る。


「いや、喧嘩はしてないですが……」


 賢者が言う。


「あっ? 本当? な、ならよかった」


 ユシアは少し恥ずかしそうにしている。


「そ、それじゃ、賢者さん、また! あ、えーと、賢者さんも、ユグのクエストに来るんですよね?」


「そうですが……」


「そうですか。それじゃあ、その時にまた会いましょうー……それではー!」


 ユシアが半ば強引に別れる方向に話を持って行った。


「ごめんなさい、ハルオさん。あの人も性格はちょっとアレだけど、悪い人じゃないから……」


 賢者が去った後、ユシアがフォローする。


 俺は心の中で、本当か? と少し疑いに掛かる。


 ◇◇◇


「あー、あいつ、むかつくなー」


 ギルドの来賓室の一室にて、賢者、<第三位>剣豪、<第四位>勇士、<第四位>上魔士、賢者以外はいずれも女性……の四人のパーティーは(くつろ)いでいた。


「どうかされましたか? 賢者さま。賢者さまは、間違ったことは言っておられないと思います」


 ソファーに腰かけ、机に足を乗せて寛ぐ賢者の愚痴に、勇士が反応する。


「いやな、さっき、勇者に会ってな、何で七位の魔士と組んでるの? という至って素朴な質問をしたら、勇者の新しい従者とかいう未登録の奴に突っかかられてな……僕、何か間違ったこと言ってます?」


「はぁ、何と不敬な……賢者さまは、間違ったことなど一つも言っておられません。七位ごときが、仮にも最上位である者と恥ずかしげもなく同行するなど私には到底できません。そういう輩を連れ回す勇者さまも勇者さまですが……」


 剣豪も賢者を擁護する。


 上魔士は最近、パーティーに加わったため、少し緊張しているのか三人の話を注意深く聞いている。


「だよな。でさ、そいつがよ、転移魔法が使えるみたいで、ドヤられたのが妙に(しゃく)に障ってな」


「転移魔法を!? それは確かに稀有な事態ではありますが……まぁ、才能もないのに希少属性を持つ者がいないこともありません。どうせ、レベル2か3でしょう……」


 勇士は少し驚きつつも客観的事実を述べる。


「あー、あいつ、死なないかなー……」


 賢者の何気ない発言に、剣豪と勇士の二人はくすくすと笑う。


 それを見た上魔士も、彼女らに合わせるように笑ってみせる。


「あー、あいつ、ユグドラゴンのクエストで不運にも死なないかなー……」


 ◇◇◇


 夜のこと、父に連れられて、トロココの街を探索することになった。


 俺はあまり乗り気でなかったが、父に押し切られる形で夜街に繰り出す。


 いつの間にか父が誘ったのだろうか、ウミもちゃっかり付いて来ている。


 こんなに夜遅くに街に繰り出すのは、少しばかり罪悪感がある。

 石造りの街並みは俺達の和の心とは掛け離れているかもしれないが、人類共通で(おもむき)を感じるようにできているのだろうか。


 静かで、昼間より空気が冷涼なせいか、これからユグドラ祭だというのに、祭の後の静けさのような……そんな少しだけノスタルジックな感覚に襲われるが、それが逆にワクワクするような不思議な感覚だ。


「って、あれ? アオイさんにハルオさん、それに……天王洲 海じゃないですか!?」


「……?」


 こっそりと胸を躍らせていると、突如、俺達のことを知っていると思われる声に、話し掛けられる。

 この声は……


「どうも、ラクイです。覚えてますか?」


 先日、国境の森で会ったラクイだ。

 後ろにはラクイのパートナーであるアリサもいる。


 昼間、特に索敵に反応はなかったが、この街にいたのだろうか。


「あー! ラクイさん! どうもです! そちらこそ、ご存命で何よりです」


 父が対応する。


「ってか、何で天王洲 海が……!? あ、あのどうも初めまして、ラクイと申します。ハルオさん、アオイさんの友達です」


 ラクイがちゃっかりウミに挨拶する。友達になった覚えはないが、そもそも友達になるなんて契約をするわけでもないしな……などと、しょうもなないことを考える。


「えーと、まぁ、俺達、組んでるんですよ」


 父が言う。従属化していることは隠したような言い方だ。

 従属化していることは、言うと不利になることはあるだろうか……俺には、ぱっと思いつかないが、まぁ、言わない方が良さそうな気もする。


「へぇー、あの天王洲 海と仲良くできるなんて羨ましいですな。あのー、握手とかお願いしても?」


「ごめんなさい、今はそういう立場ではないので……」


「…………ですよね~」


 ラクイは残念そうだ。


「……のぞ……っと」


 ラクイは何かを言いかけて、止めたように見えた。


 ウミの姉、天王洲 臨のことを聞こうとしたようにも見えた。


 だが、止めたようだ。


「ところでラクイさん達はどうしてこの街に?」


 父が聞く。


「いや、最近は、あっちこっち、いろんなところに行ってますよ。この街にも、さっき着いたばかりで。こんなよくわからない状況ではありますが、どうせなら悔いのないよう、この世界をできる限り見て周ってやろうと思いましてね」


「そうだったんですね。この街に来たのは、やっぱりユグドラゴンですか?」


「何ですか? それ?」


「あ、知らないんですね。えーとですね……」


 ・

 ・

 ・


 父はユグドラゴンについてざっくり教える。


「はえー、そりゃ面白そうですねー。そんな巨大なドラゴン……ぜひ見てみたいです。私らも少し見学させてもらいますかな」


 こうして、ラクイ達もユグドラゴンクエストへ参加することとなった。


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【作者の別作品】

本作よりダークな雰囲気の作品ですがおすすめです。
<部長!そのスキルをいただきます!>
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