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ぶきっちょ親子は異界の地にてクエスト手伝いで生計を立てる  作者: 広路なゆる


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25.街

 朝は苦手だ。


 お布団から出るのが、その日、最大の苦行と言っても過言ではないだろう。


 そんな俺も最近は、嫌でも決まった時間に起床する習慣がついてきた。


 目覚まし代わりに父が八時の索敵を使用する。


 ……近辺に敵の反応あり


「…………あと、ごふ――」


 って、流石にまずいか。


「おはよう、アオイ」


「お、おはよう……」


「とりあえず街を出よう」


 父は言う。


「逃げるの?」


「いや、逃げはしないけど、相手が好戦的だった時、街の中で戦うわけにはいかないだろ?」


 確かに……


「こっちだ」


 父は寝ぼけ眼の俺を誘導する。


 ◇


「ふぅ……とりあえずここまで来ればいいか」


 クラクスマリナの隔壁の外側は、開発されずに更地になっている箇所がある。


 ここなら人がほとんど通ることもなく、万が一、交戦になっても町民に被害は出にくいはずだ。


「ユシアとセナさんはどうする?」


 一応、確認しておく。


「今回は緊急だ。二人だけで対処しよう」


「了解」


「それじゃ、出るぞ」


 堀の掛橋を渡る。


「「「あ」」」


 そこには一人のプレイヤーがいた。


 俺、父、その人物の声が重なる。


 橋の柱が死角となっていたせいで、お互いに気づいておらず、ばったりと遭遇してしまったのだろう。


 この人物に関しては俺もすぐにプレイヤーだということがわかった。


 それは相手が芸能人……二卵性双生児姉妹のアイドルデュオ<シーサイド>の一人、天王洲(てんのうず) (うみ)であったからだ。確か、インタビューか何かで姉妹で、ユナイトをやっていると聞いたことがある。そして一年くらい前に活動を突如、休止するという発表があったのだ。


 予期せぬ遭遇に、その姿を直視する。

 黒髪のふわっとしたポニーテールで、長めの横髪が揺れている。

 姉貴によると、この横髪のことを業界では、触角と呼ぶらしい。

 まるで虫みたいだなと思った記憶が微かにある。


 顔面の造形は人生有利過ぎるだろうと思えるくらいの仕上がりで、目元の違いなのかユシアに比べると少し強気な印象だ。


 なぜ、この期に及んで、こちらでは目立つブレザーを着用しているのかは不明だ。


 天王洲 海はバックステップで距離を取る。


 しかし、気になる点が一つ。


 天王洲 海が一人でいることだ。


 姉の(のぞむ)は見当たらない。


 俯くようにしながら、幾分、ユラユラと体を揺らしており、少々、不気味だ。


 念のためエコノミー・モードに切り替えておくか……


「……らあぁあああ!!」


 などと、思ったそばから、俯いていた顔をあげ、突然、叫び声をあげながら腕を前に出す。

 追い詰められた表情をしているように見える。


「ちょ、ちょっと待って!」


 父の制止を無視して、天王洲 海は弾丸を乱射する。


「わぁああああ!!」


 俺達は、あまりスマートとは言えないが、あちこちに走り回ることで何とか自力で弾丸の雨を回避する。


 おかげで街からある程度、離れたところまで移動できた。


「っ……!」


 天王洲 海はしくじったというように、唇を噛み締めている。


「アオイぃ! エコノミーなのか!?」


「あ、すまん、言い忘れてた」


「了解」


 エコノミー・モードのため、直接的な危機に瀕しない限りAPSは発動しない。


 父は理由を聞くこともなく、すぐに納得する。


 天王洲 海のステルス・アーマーのモデルはサブマシンガンであろうか。


 アサルトライフルに比べて威力は低いが連射性能に優れ、扱いやすい兵器だ。


 特徴的なのは、アーマー内蔵型ではなく携行型を使用している点だ。

 携行型は普通の銃のようなタイプだ。

 普段は透けており、攻撃の時だけ具現化する点は変わらない。

 内蔵型に比べ、特段のメリットはなく、落とすリスクがあるため、あまり使われないが銃はやっぱり持ちたいというタイプの人はこれを使用することがある。


「ちょっと天王洲さん! いきなり撃ってくるってひどくないですか?」


 父が聞く。


「そういうゲームでしょ!?」


「……まぁ、そうなんだけど……」


 が、一撃で論破される。


「と、ところで、お姉さんは?」


「……っ!」


 ただでさえ、不安定そうな表情が更に歪む。


「…………」


「どうしたの……?」


 父は追い討ちをかける。


 センシティブなことかもしれないが、自衛のためにも確認しておく必要がある。


「私を……私を残して、帰っちゃったよ!!」


「……」


 正直に答えたのは少し意外だった。


 しかし、状況は良いとは言い難いが、いくつか想定されたパターンの一つではあった。


「だから、貴方達を倒して、私も帰るんだ!」


 ところで帰るとはどこへでしょうか。


「ちょっと待って。流石にさ、二対一で勝てると思ってるの? 嫌かもしれないですが、私達と一緒に……」


 ユナイトとルールが同じであるなら、パートナーを失ったプレイヤーは一定時間後に消滅してしまうが、

 ・別ペアで同じように一人になってしまったプレイヤーと合流し、生き残っているペアを狩る

 ・別のベアに従属化することで、そのペアの奴隷となり協力する

 のいずれかを選ぶことで消滅を避け、敗北時のレーティングの減少を抑えることができる。


「……っ!」


「仮に貴方達と組んだとしても化物みたいな奴らに殺されるのがオチだ……だから、ごめんなさいぃ!!」


 再び、天王洲 海が攻撃モーションに入る。


「アオイ……()けるな」


 父が咄嗟にそう言う。


「えっ? あ、うん」


 マシンガンの機械的な銃声が鳴り響く。


 無数の弾丸が無抵抗の俺達に降り注ぐ。


「なっ!? 何で避けないの!」


 発砲者本人が驚いている。


「避ける必要がないので……」


 父が最多勝の千川と戦っていた時のユシアのようなことを言う。

 まぁ、確かに父の言うとおりであった。


 弾丸は全て俺達に到達する手前で速度を失い、自由落下する。


<着るアンデット>の異名は伊達ではないようだ。


<オリハルコンのTシャツ>により発生する魔法壁により、天王洲 海の放つ弾丸は完全に無力化されている。


 五億もしたんだ。これくらい働いてもらわないと……


「何がどうなってるの……?」


「話すと長くなるけど、とりあえず……どれだけ撃っても結果は変わらないと思うけど……」


 早い段階で、現地人<最強>の人物に、この世界についてのレクチャーを受けられた俺達は、そうでない人達に比べ、圧倒的、優位な立場にあった。


 まぁ、それも父が現地の人を命懸けで守ろうとしたことから始まったのだ。

 結果的には、守る必要がない人達であったのだが、その行動が彼女らの信用を得ることに繋がったのだ。


「そんな……」


「どうかな? 無駄な争いは止めないか」


 父は天王洲 海に語りかける。


 しかし、結果は芳しくなかった。


「………………い、嫌だ……従属化されるくらいなら…………()()()()()()()


「っ!? しまっ――」


 天王洲 海は目を見開き、自身の兵器の銃口をこめかみに(あて)がう。


 そして、見開いた瞼を、今度は強く瞑る。


「!? ……なに?」


 だが、自殺は未遂に終わる。

 天王洲 海のステルス・アーマーの攻撃部分は無力化された……というか、俺がした。


 防護対象としていた天王洲 海が直接的な危機に瀕したと判断され、APSエコノミー・モードが発動したのである。


「……っ。何なのこれ……? 何なの……?」


 天王洲 海は今にも泣き出しそうに顔を崩す。


「あまりに理不尽だ……私は……一人になって、まともに戦うこともできないで……最後には、死を選ぶことすら許されないの……?」


「…………ご、ごめんなさい……次は止めないよ……だけど、教えて欲しい。どうして組むことより死を選ぶのですか?」


 俺は自分のしたことが正しかったのか、わからなくなってしまったが、それでもやってしまった以上、確認しないわけにはいかなかった。


「従属化は嫌……! 私達は……わ、私は、ゲーム初日に戦闘に敗れ、従属されそうになった……」


 天王洲 海は頭を抱え、その場にうずくまりながら語り出す。


「その人達も貴方達みたいに何もしないって、優しく提案してきた。私はそれを受け入れようとした。だけど……直前で見えてしまった、気付いてしまった……! その人達が……劣情(れつじょ)(もよお)していることに……!」


「……」


「それはもう必死になって逃げて、その時は九死に一生を得た……」


「……だから、従属化はしない! 死んだ方が……きっと……まし……」


「じゃあ、俺を従属化していいよ」


「え?」

「は?」


 天王洲 海と父がそれぞれ声をあげる。


「い、今なんて? アオイくん」


 普段は呼び捨ての父がなぜか君づけで聞いてくる。


 実は残っているペア側のプレイヤーの一名が従属化されると、乗っ取りが成立し、主従の逆転が行える。


「俺が降参して父ちゃんと天王洲 海ペアに従属化される。これでいいじゃん」


「…………」


 父と天王洲 海は何も言ってくれない。

 説明が不十分であろうか。


「実際のところ、消滅するとどうなるのかはわからないけど、最悪の場合、死亡だよな? だとしたら、このまま消滅させるのは目覚めが悪い。彼女がどうしても従属化されたくないのなら、こうするしかないじゃん」


「いや、だとしたら私がその役割を担う……!」


 父がそんなことを言いだす。


「いや、俺が言いだしっぺだから俺がやる」


「いや、子供にそんなことやらせるのは親として許されん」


「は? 親とか関係ないだろ、横取りするなよ!」


「あ? なんだ? アオイ、ひょっとして海さんに従属化されたいのか? そういう趣味か?」


「はいはい、じゃあ、そういうことでいいですよ」


「あ! 開き直りか……やるな……じ、実は隠していたのだが、父にはそういう趣味が……」


「嘘つくなっ! 父ちゃんはただの母さん好きだろ!」


「っ!? う、そうだが……そうなんだが……!」


 俺達は久しぶりに親子喧嘩した。


「……」


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【作者の別作品】

本作よりダークな雰囲気の作品ですがおすすめです。
<部長!そのスキルをいただきます!>
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