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ぶきっちょ親子は異界の地にてクエスト手伝いで生計を立てる  作者: 広路なゆる


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21.魔王城

 使者により、俺達は玉座の間に通された。


 玉座には、魔王はいないようだ。


 俺達は、玉座の前で、人族の王に謁見する時のように跪き、頭を下げて待機する。


 通路脇には、これまた人族の王と同じように護衛の者が並んでいる。

 直立する二足歩行の獣たちの頭部は、狼、猫、熊といったオーソドックスな獣っぽいものが中心だ。

 中には竜っぽい頭部の兵もいるが、ユシアは大丈夫そうにしている。

 気付いていないのか、我慢しているのか、はたまた二足歩行は大丈夫とか、そういうことなのだろうか。


「魔王のご入室です!!」


 しばらく待たされるのかと思いきや、すぐに魔王の入室を報せる号令が響き渡る。


 扉が開き、後方から魔王らしき人物……いや、獣物の歩き音が聞こえる。

 かなり大きな足音であり、巨体であることが窺える。


 頭を下げたままなので、魔王の姿を確認することはできないが、そのまま俺達の傍らを通り過ぎ、玉座の前に立つ。


「お待たせした。どうぞ頭をあげてください」


 魔王の第一声は、威圧を示すものや畏怖を与えるものではなく、誠実さを感じる物であった。


 ユシアやセナがそれに応じたため、俺と父もそれに倣う。


「……」


 魔王の姿を直視する。


 体長は2.5メートルくらいはありそうだ。

 頭部は狼、猫、熊の中間くらい……つまりはネコ目の獣っぽく目付きは鋭い。

 だが、太い捻じれた角が二本付いており、魔王らしさを感じさせてくれる。

 黒を基調としたゴツゴツした武装を着込んでおり、非常に重そうだ。


 その魔王が話を始める。


「よく来たな……魔王よ」


「……?」


 何言ってるんだ……? この魔王。やっぱりこの世界は全てゲームで、ここへ来て、ついにバグったか?


「いやいやいやいや、魔王じゃなくてですねぇ!!」


 ユシアが最近よく見せる焦った表情で否定する。


「魔人で最強なのだから、人族の魔王でなくて何なのだ?」


「人族には別に、ちゃんとした王がいますので!」


「会うたびに、この会話をしているような気もするが、人族は最強でないものが王となる不思議な種族だ」


「……」


 獣族の魔王が言っている内容を推測してみる。


 まず魔人という単語だが、魔力を持つ獣族を魔獣と呼ぶことを考えると、獣族から見れば、魔力を持つ人を魔人と呼ぶと言うことだろうか。

 モンスターである人を魔人ではなく、あえて人魔と呼称していたのはそのためであろうか?


 その理論でいくと、俺と父もいつの間にやら魔人の仲間入りを果たしている可能性が高いが……


 それはさておき、ユシアは魔人で最強だから<人族の魔王>と言ったところだろうか。


 ユシアは人族における勇者であると同時に獣族から見れば、魔王というわけか。


 つまり、獣族からしたら魔王であるからして、立場的には対等。


 故に獣族の魔王も敬意を払った対応をしてくれるのだろうか。


 しかし、ゲーム開始のあの日、父が魔王がいるのかと訊いた時、ユシアやセナが少し気まずそうにしていたのはこのためであろうか。


「恐れながら申し上げますが、分業は人族の強みにございます……」


「……そうか」


 ユシアの言葉に、魔王は相槌だけ打つ。


 ユシアにしてはやや挑発的な発言だと思った。

 恐らく、獣族の王は純粋な強さのみで決められている。


 ユシアはそれよりも強さは強さであり、政治とは別物であると暗に言っているのだ。

 獣族の魔王としては、それに同意するわけにはいかないのだ。


「それはそうと、それが噂の二人の従者か……」


「……!?」


 魔王が俺と父の方に目線を移して言う。


「…………そうです」


 ユシアは少しだけ間を置いたが、是の返事をする。

 未だに従者扱いするのは多少の抵抗があるのだろう。


 しかし……もしかして街で聞こえてきた<魔王の二人の従者>って俺らのことか?


 魔王の従者という響きは、噛ませ犬もいいところだが、どうやら()魔王にプレイヤーが接近しているわけではなさそうだ。


「お前が新たに従者を従えるとは多少、驚いた……これまで、そこの魔法使い以外と行動することはなかったからな」


「……」


 そうだったのか……


「……それについてはあまり詮索しないでいただけると有り難い……」


 ユシアは俺達、あるいはセナに気をつかったのか、これ以上の話は拒んだ。


「失礼……では、話を本題に移すが、すでに概要は聞いているだろうか?」


 魔王は拒まれた話を無暗に継続したりはせずに本題を切り出す。


「人間が獣族の領域で暴れているとだけ伺っております」


 ユシアが王に伝えられた内容を答える。


「その通りだ。偵察部隊によると、対象は二名、場所はナバススの森だ。対象はすでに相当数の獣族を仕留めているようだ。ナバススの森には知性を有する<知獣>はいないが、知獣に被害が及ぶ前に人族内でなんとかして欲しい」


 ニュアンス的には、知性を持たない獣族については致し方ないというような内容だ。獣族も案外、知性を持たない物に対してはドライなのだろうか。


「承知しました」


 ユシアが同意する。


 くして俺達はナバススの森へ馳せ参じることとなる。


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【作者の別作品】

本作よりダークな雰囲気の作品ですがおすすめです。
<部長!そのスキルをいただきます!>
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