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ぶきっちょ親子は異界の地にてクエスト手伝いで生計を立てる  作者: 広路なゆる


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20.獣族の街

「いやー、流石にちょっと緊張するね……」


 父が呟く。


「う、うん……」


 正直言って落ち着かない。


 周囲には獣、獣、獣……


 二足歩行をしているから獣人的な奴だろうか……


「大丈夫だよ……街の人……いや、獣さん達は襲ってきたりしないから」


 ユシアが言う。


「……」


 その割に、先ほどから、「旨そうな肉だ」とか「あらっ、美味しそう」などという物騒なワードが耳に飛び込んでくるのだが……


 俺達四人は、獣族の王都<ガドリナ>に来ていた。


 今は獣族の使者の方に付いて歩き、城へ向かっているところだ。


 その目的は<魔王>に謁見するためであった。


 数日前のこと、ユシアは再び、王に呼び出された。


 今回は俺達も最初から連れて来てくれた。


 少しは信用度が上がってきてくれているのだろうか。


 そんなことを思いながら、王に呼び出された時のことを何となく思い返してみる。


 ◇◇◇


「また、呼び立ててしまい申し訳ない」


 ユシアを玉座の間に招き入れた王は謝罪から入る。


「いえ、私のようなものであれば何なりと」


 ユシアは頭を下げたまま答える。


「実は獣族の魔王から、最近、人間が獣族の国で暴れまわっているというクレームがあってな」


「……人間が?」


 ユシア同様、頭を下げているセナが深刻そうな声で聞き返す。


 俺と父もユシアとセナの後ろに陣取る形で、同じように頭を下げている。


 俺達は二人の従者ということになっているのだ。


 その方が色々と面倒なことにならないから許してとユシアに言われていた。


 ところで<魔王>からクレームってどんな状況!?


 どうやら俺達の知っている魔王とは少し違うようだ。


「いやいや、お前らのところの奴らも毎日のように暴れてるんだが!? と言ってやりたいが、やはり理性のないタイプの獣族がいる以上、同じ尺度で測るわけにもいくまい。無許可でこっちの国に入ってきた魔獣は、裁いてよいという協定もあるし……」


「はい……」


 ユシアが返事をする。


 協定か……そのおかげで大きな衝突には発展していないということか……


 しかし、獣族の国で、暴れている人間か……もしかして……


「と、いうわけで、すまないがワシの代理として魔王のところに赴いて事情を聞いてきてくれないか?」


「……わ、わかりました」


 ユシアは僅かに返答までの間を空けたような気もしたが、王の勅命を受諾する。


 え? 勇者が普通に魔王のところに行っちゃうんですか? と思いつつも、それから俺達は獣族の国へ向かうこととなる。


 父が一部、解禁したという転移魔法でアルネニオ公原まで行き、そこから魔獣の森であるミジュの森まで行った。


 ミジュの森の入り口には、獣族側の使者がおり、出迎えてくれた。


 そこから獣車というものに乗り、丸一日掛けてガドリナに到着した。


 車中では、この世界の魔王のこと、それから父に勇者のこの世界における地位などを教えてもらった。


 魔王については、獣族の王のことを一般的に魔王と呼ぶらしい。


 魔獣の王ということで、魔王……俺達のイメージとは若干、違うが、それがこの世界における魔王の定義ということだ。


 人族と獣族は、一部、獣族側の侵入などもあるが、中核層同士は国家同士の約束事を守る形で均衡を保っているらしい。


 そんなわけで、以前、父がユシア達に質問したように、<魔王がクエストのターゲットになる>というようなことがあれば、一大事だというわけだ。


 父による勇者などの職業(ロール)に関する説明については、いつの間に仕入れたんだと思いつつも、興味深い話であった。


 獣車の荷台にちょこんと座っているユシアの可憐な姿を見ても、とても最強には見えないのだが、こう見えて戦い方は肉弾戦上等のムキムキだ。


 照れまくるユシアを見て、照れてる照れてると俺らしからぬ上から目線で眺めたりもしたが、ふとした時に、突然、「トカゲが弱点なのは、内緒だよ……!」 と耳打ちされ、見事にカウンターをくらってしまった。


 俺の弱点はユシアかもしれない。


 また、魔法についてもセナから詳しく教えてもらえた。


「守、癒、援、無、重、光、闇、氷、水、火、風、電、土、木、金……ここまでが基本の十五属性……転、時、耐、消、心が希少五属性と言われ、全部で二十属性により構成されています」


 覚えられません……


「希少五属性について詳しく言うと、転移魔法の<転>、時空魔法の<時>、耐魔魔法の<耐>、消滅魔法の<消>、心握魔法の<心>の五つで希少というだけあって、所有者は限られています」


 父は希少属性との<転>を持っているということか。

 ……ちょっと羨ましい。属性は遺伝するのだろうか。


「一般的に一人の人に対して、一つから三つくらい適性があり、各属性、レベル1から9の十段階で格付けされます」


 ということは父にも更に転異魔法以外の適性があるかもしれないということか。


「ただし、レベル7,8,9はそれぞれ中間の7+、8+、9+があるため、実際には、十二段階です。レベルは7の時点で達人、8を取得すれば例外なく歴史に名を刻み、9は奇跡と呼ばれるレベルです。現存の人族で所持しているのはユシアの<守>属性だけです」


「流石、ユシアさん!」


「へへへ……恐縮です……」


 父のよいしょにユシアが頭を掻きながら照れている。


 しかし、守りが強みとは、ユシアとは戦闘スタイルについては気が合うかもしれない。


「参考までに、私は<氷>と<癒>が共にレベル7、<耐>がレベル5です」


「おー、達人レベル二つに、それにセナも希少属性持ってるんだね」


「<耐>は他に比べると、ちょっと地味ですけどね……」


 セナは少し控えめに言う。


「えー? そんなことないと思うけどなー」


 ユシアが眉を八の字にして言う。


「先ほど、一般的に属性は一つから三つって言ってましたけど、属性を四つとか五つ持っている人っていないのでしょうか?」


 父がなんとはなしに聞く。


「……ほとんどいません。ただ、突き抜けた例外というのはどの世界にもいる物です……魔法職<最上位>の賢者は<転>のレベル6、及び基本属性の十五属性で全てレベル8または8+を所持しており、歴史的にも類を見ない天才と呼ばれております」


 セナは心なしか物憂げに語る。


「す、すごいですね」


 父は素直に称賛する。


 でも、冷静に考えると、その人より格上の人が目の前にいるんですよね?


 ◇◇◇


 それにしてもガドリナの街を歩いていると、旨そうとか美味しそうという言葉の他に、気になる言葉がいくつか聞こえてくる。


「あの二人って、もしかして例の二人と関係があるのか」


「最近、魔王が二人の従者を連れ回しているらしい」


 といった内容だ。


 例の二人……この辺にもゲーム参加者がいるということだろうか……


 そんなことを考えている間にも、巨大な建物に到達する。


 これが魔王城というわけか……


 見た目は人族の城とそう変わりはない。


 中もダンジョンのようになっているとは思えないが……


「あー、やっぱり少し緊張するなー」


 ユシアが呟く。


「勇者が怖気づいてどうするんですか!?」


 父が冗談っぽく言う。


「えー? 勇者とかあんまり関係ないと思うんだけどー」


 ユシアは緩い雰囲気のしゃべり方で返す。


 どうやら俺達の考える勇者と魔王の関係ではないようだ。


「さぁ、こちらへ」


 使者に城内に案内される。


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【作者の別作品】

本作よりダークな雰囲気の作品ですがおすすめです。
<部長!そのスキルをいただきます!>
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