02.森
「え……何してるの…………父ちゃん……」
「何って…………ユナイト……?」
「え……そ、そうだよね……」
いや、納得してる場合じゃないよ! と心の中で自分に突っ込む。
「あれ、おかしいな……俺はさっきまでBLUEさんと……」
「BLUE……!? それ……俺だけど……」
「え゛ぇっ!?」
父はめちゃくちゃ驚く。
「あー、アオイ……青い……BLUEか……なるほど……」
いや、納得してる場合じゃないよ! と今度は父に突っ込む。(心の中で)
「え……あの……すごく認めたくないんだけど……もしかして……」
「うん……父、ORUHA……」
父は気まずそうに言う。
ハルオ……ひっくり返して……ORUHA……なるほど!
いや、納得してる場合じゃないよ!
「え……父ちゃん……ネカm……」
「やめるんだ」
父は顔をふさぐ。
そして突然、虚ろな目で呟きだす。
「あー、これはあれか……ひょっとして夢だな……」
「あー、確かに……」
「ははは、なんだ夢かー……」
「ははは」
親子二人で笑いあったのはいつぶりだろう……って、なんだこの状況。
GYAAAAAAAAA!!
「「……っ!?」」
現状について冷静に考えてしまいそうになったその時、付近から、けたたましい咆哮のようなものが聞こえてくる。
「なんだろう……? 人って感じではなさそうだけど……」
確かに人というよりは獣のそれに近いだろう。
咆哮と共にパキパキと森に落ちた木々が踏み鳴らされているような物音が聞こえてくる。
厄介なことに、その物音は徐々にこちらに近づいて来ている。
「わぁああああああ!!」
近づく物音に緊張していると、なぜか女の子が一人、叫びながらこちらに向かって走ってくる。
「だからドラゴンは止めた方がいいって言ったじゃないーー!!」
それを追うように、もう一人……女性が、やはり叫びながら走ってくる。
……ドラゴン……とは?
と、思っていると、二人の女性に続いて、ドラゴンが現れる。
「えぇ……」
何がどうなっているんだ? という気持ちが声になって漏れる。
ドラゴンは体長十メートルくらいであろうか。
小学生の頃、博物館で見たティラノサウルスの標本くらいの大きさはありそうだ。
それくらい大きなトカゲに翼が生えているのだから、これはもうドラゴン以外の何物でもないだろう。
シンプルなドラゴンの形状をしているが、鱗はゴツゴツしており、いかにも防御力の高そうな雰囲気を醸し出している。
「……っ!? あなた達! こんなところで何を!?」
後から追い掛けてきた方の女性がこちらに気付き、叫ぶ。
女性は長めの黒紫のマントのようなコートのような物を羽織り、口元にマントと同じ色のマスクをしている。
いやいや、あなたこそ、まるで魔法使いのような衣装をお召しになって、何をされているのですか?
NPCであろうか?
しかし、49FまでのユナイトにはNPCやモンスターの類は一切、実装されていなかったが……
「と、とりあえず、どうする?」
俺は仕方なしに父に尋ねる。
「と、とにかく助けるぞ!」
「う、うん……」
まったく状況が呑み込めていないがひとまず同意する。
「お、俺が行くから、あ、アオイもあの二人のこと守ってくれよ……! ちょうど二人だろ?」
「……わかった」
父の言葉に同意する。
「あ、あなた方! 危険です! 武具も持たずに! あいつはAランクモンスターのアイロンクラッド・ドラゴンですよ」
「うぉおおおおおお!」
その言葉を無視するように、父が前に飛び出す。
魔法使いさんは、「武具も持たずに!」と言うところを見るとステルス・アーマーのことを知らないということだ。
魔法使いさんが困惑の表情を浮かべている間にも、ドラゴン父に狙いを定めて、飛行しながら突進してくる。
父はそれを正面から待ち構えるように腰を下げて、右腕を引く。
父の右腕の周りにうっすらと赤いアーマーが浮かび上がる。
「……効いてくれよ」
そして、ドラゴンと交差する刹那、父は渾身の右ストレートをドラゴンの顔面に叩き込む。
連続した爆音と炸裂音、うめき声が辺りに響き渡り、ドラゴンは激しい爆発と共に炎に包まれる。
ドラゴンは、地上に失墜し、しばらくもがいた後、あっけなく動かなくなった。
「え……」
攻撃した父も口をぽかんと空けて驚いている。
「うそ……あの鎧竜を……?」
最初にドラゴンから逃げてきた女の子が声をあげる。
父……というかORUHAさんの打撃は、ライナーが爆轟風で変形する自己鍛造弾をモデルにしたものが搭載されており、貫通力は砲弾の五倍。
戦車の装甲すら豆腐のようにぶち破る。
ふと改めて女の子を眺める。
「……」
少しハッとする。衣装の奇抜さも去ることながら、容姿が際立って美しかったからだ。
彼女は、騎士風の恰好をしていた。防御性能よりも敏捷性を重視したような装備は、白を基調とし、紺色があしらわれており、細身の身体によく似合っている。
腰には剣を携え、凛とした姿は趣がある。
飾り気のない襟足くらいの長さの髪の毛は少しだけ明るい。
確か、こういう髪型のことをショートボブと呼ぶと姉貴が言っていたような……
「あなた達、一体何者ですか?」
「えっ……、いや、決して怪しい者では……」
父がそんなことを言う。
「そ、そういうそちらは、どちら様でしょうか?」
苦し紛れに聞き返す。
と、女性はなぜか照れくさそうにモジモジしながら返答してくれる。
「あっ、はい……私は冒険者の<ユシア>って言います。職号は僭越ながら、<勇者>やらせてもらっています」
「あ……はい、勇者ですね……――」
……――はい?
「え゛っ!!?」
「「「??」」」
少し遅れてやってきたマスク魔法使いの女性が俺たちを見て、変な声を上げる。
「ん……? どうしたの<セナ>」
「あ、えーと……いや、な、なんでも……」
「……?」
セナと呼ばれる魔法使いの女性は動揺しているように見えた。