19.宿
ユシア視点
やらかしてしまった。
結局、気絶して、オムライスを完成させること叶わず。
二人へのお礼も中途半端な形で終わってしまった。
「はぁ……」
溜息が出る。
勇者と呼ばれようと、こんなこともできないのかと少し情けなくなる。
「……?」
思いがけず、ドアの戸を叩く音が聞こえる。
「はい?」
「あ、あの……アオイです」
少し自信なさげな声が聞こえる。
「あ、アオイ!? 一人?」
「は、はい……父、どっか行っちゃったので……」
「……あっ」
セナとの魔法訓練であろうか。
とりあえず急いでドアを開ける。
「ごめんなさい、急に……」
「ど、どうしたの?」
「あの……えーと……」
アオイは照れくさそうに何かを手に持っていた小さな袋から取り出す。
「これ……」
それは小さな楕円形の物体……卵であった。
「チキチン・チキンの卵……」
「えっ……? どうしたの? これ」
「買ってきたんだ……」
「市場……? 売ってたの!?」
チキチン・チキンの卵は人気商品で大抵の場合、どの店でも昼過ぎには売れてしまう。
夜まで営業している店もそう多くはない。
「結構探したんだけど、一店舗だけあったんだ……運がよかったかな?」
「……っ」
「ごめん……迷惑だったかな? どうしても……どうしてもユシアのオムライスが食べたくて……!」
そんな風に思って……
「ううん! うれしいよ! 私も作りたい! チキンライス少し残ってるから、すぐ作るね!」
「ありがとう!」
アオイが微笑む。
「っ……」
こんな笑顔できるんだ……
何だか少し不思議な気分になる。
◇アオイ視点
――どうしてもオムライスが食いたい。
チキンライスではダメだ。俺が好きなのはオムライスなのだ。
卵……卵さえあれば、いいんだ……
<さ、流石にアルネニオまで行くのは大変だからチキチン・チキンの卵でいいよね? 値段の割においしいし! さっ、急いで市場に買いに行こう!>
ふと、ユシアが言っていたことを思い出す。
チキチン・チキン……市場……
俺の体は自然に市場へと向かう。
◇◇◇
入手できたはいいが、これどうするの?
フライパンとかで焼けばいいのか?
「……」
俺は生まれてこの方、一人で料理というものをしたことがなく、オムライスを上手に作るスキルなどない。
父に頼む……?
いや、しかし、父が料理している姿は見たことがない。それに、いつ帰ってくるかわからない。
最悪、明日の夕方までお預けになってしまう可能性がある。
耐えられるか? ……否!
となると…………