15.アルネニオ公原4
千川寄り三人称
はぁ……!? 何でプレイヤーでもないよく分からない女が突っ込んで来るんだ?
千川は動揺する。
そもそも潜伏しているのに、何で正確に俺達の位置がわかるんだ!?
だが、相手が向かってくる以上、こちらも迎え撃つ他ない!
千川、代川は待ち伏せ戦略を完全に放棄する。
「うおりゃああはああ!!」
一人、突進してくる謎の女に重機関銃をぶち込む。
「!?」
しかし、彼らの弾丸が女に命中することはない。
女は、信じられない速度で動き回り、身体能力だけで弾丸の軌道上から逃れる。
「なんなの!? あいつ!?」
「知るか!? とにかく撃ちまくれ!」
「わかってるわよ!」
だが、一向にターゲットに命中する気配はない。
そう言っているうちに、女は、どんどんと距離を縮めてくる。
だが、千川、代川にも打つ手がないわけではなかった。
「あれを使うぜ」
「わかったわ」
千川の言葉に、代川が相槌をうつ。
それはちょうど昨日、入手したニューウェポンであった。
ヨタ、デンヤを”倒して奪った”ステルス・アーマー……散弾銃だ。
千川、代川はありったけの散弾を撒き散らす。
「うらぁああああ!! いくらてめぇの動きが速かろうが、この広範囲は避けきれねえだろう!?」
「うん、まぁ、避けられないけど、避ける必要もないよね?」
「……うっ!?」
信じられないことに放たれた散弾は謎の女の手前で全て停止している。
「私は常に防壁魔法を使ってるので、並の攻撃は防がせてもらっちゃいますよ」
魔法? 何のことだ?
というか、並だと? 散弾とは言え、ステルス・アーマーなら、ぶち抜くくらいの威力はあるはずだ。
千川は目の前で起こっていることが信じられないというように、目を見開く。
どうする? 機関銃に戻す……いや、奴にそんな隙はない……!
「っ!?」
悩んでいる間にも女は一気に距離を詰め、そして、片手で剣を振り上げる。
「剣と魔法の世界へようこそ……そして、さようなら」
女の目に明確な殺意が宿る。
「……っ!!」
衝撃と恐怖で千川の顔は極度に強張る。
これが……絶望……か……
「って、あれ……? 殺すのはまずいか」
謎の女は剣を振り下ろすのを止める。
「ちくしょおおおおお!」
「っ!? やめっ……!」
代川が何を血迷ったのか効かないと分かっている散弾を撒き散らそうとする。
「君はちょっと寝ててね」
「かっ……!」
代川は剣の腹で頭をバシっと叩かれ、そのまま倒れ込む。
「えーと、質問です」
女は、ニッコリしながら千川に話し掛けてくる。
「現地の人には手を出していない?」
「だ、出していない……!」
「これからも現地の人に手を出す予定はない?」
「何でわざわざ出さなきゃいけねえんだよ! つーか、お前、何なんだ!? 俺達が用があるのはあっちなんだよ!」
決して嘘はついていない……!
「まぁ、そうだと思うけど、こっちにも色々、事情があるんですよ……それに、あっちの二人は私と同じくらい、もしくはそれ以上に強いかもしれないですよ?」
「なっ……!?」
「んー……」
「……なんだ?」
女は千川の目をまじまじと見る。
千川は吸い込まれるような感覚に陥る。
「んじゃ、その言葉信じます」
「……っ」
それはまるで、神の慈悲を受けたような……
体が弛緩し、力が全く入らない。
◇
「えーと、殺さない……で、いいんだよね?」
「あ、はい……」
戻ってきたユシアの質問に、呆気に取られたように父が答える。
「……ユシアさん、めっちゃ強い……」
父が小声で言ってくる。
完全に最多勝ペアを圧倒していた。
そして、見た目に反して、ムキムキな戦い方だ。
「それじゃあ、戻ろうか」
ユシアが言う。
俺は父に一点、確認する。
「そう言えばさ、父」
「ん……?」
「[転移]って使えないのか?」
できれば、さくっとクラクスマリナに戻りたいのだが……
というか、卵を取ってからすぐに転移を使っていれば、面倒な遭遇もなかったのではと今更ながら思う。
「いや、[転移]は現在、研究中なので、封印してます」
研究中……?
「なるほど……」
まぁ、確かにまた失敗したら、ユシアにこっぴどく怒られそうだ。
潔く諦めて、歩き出す。
「そう言えば、ユシアさん、どうやってあいつらの位置、わかったんですか?」
父が質問する。
ちょうど俺も気になっていたものだ。
「あー、実は、私、ちょっと魔覚には自身があるんだよね」
「……魔覚?」
聞きなれない単語だ。
「え、うん……六感の一つの……」
ん……? 六感……? 五感のことか?
「視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚……」
「魔覚」
俺が五感を言うと、ユシアが最後に一つ、付け足す。
まぁ、きっと第六感的な奴でしょう。
気配を感じる感覚……概ねそんなところだろう。
「あっ……そう言えば」
「ん……?」
ユシアが思い出したように言う。
「いや、もう一組の方は何してたんだろうなーと思って。来なくてよかったけど……」
「え……? もう一組?」