13.アルネニオ公原2
「ここから先がアルネニオ公原です!」
ユシアが元気に案内してくれる。
なるほど、確かに森が終わり、広大な低木地帯が広がっていた。
今日、この場所に来たのはクエストのため……ではなかった。
本日の目的はアルネニオ・オオトカゲの卵を調達するためであった。
今日の朝の出来事をふと振り返る。
◇◇◇
「人魔の件、無事、解決しました!」
ユシアが元気に報告してくれる。
Uランクということで、手伝い分の報酬も多めにもらえ、懐事情が大分良くなってきた。
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【所持金】
2,210,785ネオカ
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「またしても、お二人に討伐してもらってしまったため、何かしらのお礼がしたいです!」
「そ、そんなの……」
すでに報酬はもらっているし……
「えっ、では、恐縮ですが、手料理をお願いしたく」
「はい!?」
俺がお約束の、そんなのいいですよという日本人らしい遠慮を見せようとするも、父は謙虚ながら、謎の判断力の速さを見せ、即答する。
「て、手料理ですか?」
「はい、手料理です」
若干の困惑を見せるユシアに対し、父は、さも当然であるかのように答える。
「も、もしかしてユシアさん、紫色のエキゾチック物質を生成しちゃうタイプじゃないですよね?」
確かによくあるパターンではある。
「し、失礼な! 私はこれでも勇者なんですよ!」
少々、不安になる回答だ。
「むきーっ! こうなったら、一番すごいのを作っちゃうぞ!」
ユシアが強気に意気込む。
「それで……何を食べたいのでしょうか?」
傍らで聞いていたセナが重要事項を確認する。
「オムライスでお願いします」
お、オムライス……だと……?
ってか、そもそもオムライスで通じるのだろうか。
「オムライス……!」
ユシアが復唱する。
語尾が上がっていないということは疑問系でない。
つまり伝わっているのか?
「アオイもオムライスでいいの?」
「あ! ……はい」
ユシアが若干、下から覗き込むように聞いてくる。
突然、聞かれたので思わずイエスで返答してしまったが、実際にイエスで問題ない。
何を隠そう! 俺は無類のオムライス好きなのだ。
「ということは、最高級の卵が必要ですね」
セナが卵について言及する。
「さ、最高級のたまご……!?」
なぜかユシアが青ざめる。
「最高級の卵となるとアルネニオ・オオトカゲの卵ですね……」
セナが何やら謎の生物の名称を口にする。
「さ、流石にアルネニオまで行くのは大変だからチキチン・チキンの卵でいいよね? 値段の割においしいし! さっ、急いで市場に買いに行こう!」
もう決まりましたとでも言うように、とことこと歩き出そうとするユシアに、父が呟くように言う。
「一番すごいのを作るんですよね? 息子のために……」
「!?」
◇
このようにして、アルネニオ公原にいるというわけだ。
ユシアはお礼のためなのに、二人に来させたら悪いからと、セナと二人で行くと言ったのだが、なぜか珍しくセナが付いてきて欲しいと頼んだのだ。
アルネニオ公原は、国境の森の更に先にあった。
「アルネニオ公原はどこの国にも属していないんだ。だから、公原ってわけ。公原からこっち側は人族の国、向こう側は<獣族>の国だよ」
「獣族!?」
父が聞き返す。
「そうそう、獣族」
ユシアは淡々と返答する。
「モンスター達の国ってことですか?」
「んー……正確にはちょっと違うかなー」
「そろそろ、ちゃんとお教えした方が良さそうですね」
セナが切り出す。
「まず、モンスターには、通常、大きく分けて二種類のタイプがあります」
父は、ふむふむと聞いている。
「<魔獣>と<普通の獣>です。魔獣とは大なり小なり魔力を帯びた獣のことです。基本的に魔獣の方が危険度は段違いに上です。例えば、お二人が最初に遭遇したアイロンクラッド・ドラゴンは魔獣です。その他、ミノタウロス、マーメイド・ガーゴイル、イビル・ピクシー……全て魔獣に分類されます」
ということは、今までクエストで討伐してきたモンスターは全て魔獣ということか。
「次に、モンスターの定義ですが、モンスターは<理性がなく攻撃性の高い生物>を指します」
「なるほど……」
父は相変わらず、ふむふむと聞いている。
「理性がなく攻撃性が高い生物であれば、魔獣であっても、そうでなくてもモンスターに大別されるわけです」
「了解です! ということは、向こう側の森。<ミジュの森>の更に向こうには、魔獣が国を築いているということですか?」
「そうです。それは決して不思議なことではありません。なぜなら……魔獣にも理性を有する者がたくさんいるからです」
「なんとっ!?」
「魔獣のうち、半分くらいは理性があるのではないでしょうか。理性を有する魔獣は基本的に人間を襲ったりはしません。アルネニオ公原の獣族側の国境には、人族、獣族共同で築き上げた魔獣が忌み嫌う魔法壁が施されています。なので、ほとんどの魔獣は、安易にここを越えてくることはありません」
「ほぇー、割としっかりしてるんですねー」
「ですが、それでも……タガが外れてしまった魔獣はこの国境を越えてきて、人を襲うことがあります。まぁ、残念ながら、その数はそれなりにいるわけで、そういったはぐれ魔獣から人々を守るのが我々の仕事というわけですね」
「そんな背景があったとは、つゆ知らず……勉強になりました!」
「いえいえ。まぁ、そんなわけでアルネニオ公原には魔獣は、ほとんどいないため、逆に普通の獣が多く生息しています」
「もしかして、今回のターゲットは……?」
「そうです。今回のターゲットのアルネニオ・オオトカゲは、ここアルネニオにのみ存在する普通の獣に分類されるモンスターで、体長4メートル程のオオトカゲ。その卵は、世界一美味と言われています」
「危険度の方はどれくらいですか?」
俺が久しぶりに言葉を挟む。
「そうですね。ランクにしてEくらいでしょうか……」
「なら、それほど大変ではないですね!」
父はニヤリと笑う。
「……」
普通に考えれば確かにそうなのだが、アルネニオ・オオトカゲという単語を聞くたびに、ぴくっと肩を揺らしている人物がいるのはなぜだろうか。