12.アルネニオ公原
三人称
とあるユナイトプレイヤーのペア、ヨタとデンヤは辛うじて、ミジュの森を抜け、アルネニオ公原に辿り着く。
もっとも彼らは、その名称を知っているわけではないが、ミジュの森が、彼らにとって過酷な森であったことだけは確かだろう。
「何なんだあの森は? やばすぎる……」
ヨタが嘆くように言う。
「あぁ、だが、生きて抜けた。俺達はやったんだ……!」
デンヤの言葉には、ミジュの森から離れられたことによる安堵感が垣間見えた。
アルネニオ公原は、高い木が少なく、比較的見晴らしがよかった。
何より、ミジュの森とは、凶悪な魔獣がそこかしこに蔓延っていないという大きな違いがあった。
地獄のような森を彷徨っていた二人にとってはまさに天国のような場所であった。
二人はどこに向かうか決めていたわけではないが、穏やかな公原をミジュの森とは反対方向に進んだ。
きっと今日は穏やかに眠ることができる……そう思うだけで少し幸せな気分になれた。
そんな二人に弾丸の雨が降り注ぐ。
認識できるのは、フルオートの射撃音、そして自身らの装甲がボロボロに破壊されていくことだけであった。
「ま、待って……降さ……かはっ……」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! ゴゥトゥヘィブン!! 穏やかに眠れやぁ!!」
狂喜の高笑いが機械的な射撃音と共に響き渡る。
「ん……? 代川、あいつらなんか言ったか?」
「さぁ? 貴方の声で聞こえなかったけど?」
「ま、どうでもいいか……ようやく狩れて、最高の気分だ……」
「そうね♪」
千川、代川はユナイトにおける最多勝レコードホルダーであった。
2247勝もの勝利を築いてきたその戦術は、待ち伏せである。
初撃で高威力の重機関銃をぶち込み、一瞬で制圧する。
「見たかよ? あの表情をよ?」
「うんうん、見た見た! やっぱり生って最高ね……♪」
彼らは中毒になっていた。
不意を突かれた対象が見せる刹那の絶望……その表情に取り憑かれていたのである。
◇◇◇
千川、代川は可能な限り、アルネニオ公原に居座り続けた。
アルネニオ公原には、魔獣と呼ばれる危険な生物は少なく、また、比較的、見晴らしもいいことから、プレイヤーが油断していることが多かった。
待ち伏せの達人の二人にとっては、低木があれば十分であった。
ターゲットを発見してから、目視可能な距離で定時索敵の範囲外ギリギリの位置に移動することも彼らには難しくなかった。
そして、今日も鴨が現れる。
千川が代川に合図を送る。
「ふふふ♪ ここへきて二日連続とは、ついているわ。鴨がネギを担いで……いや、卵を抱えて、おいでなすった」
千川・代川は少し年の離れた二人組を発見する。
なぜかその二人は、巨大な卵をお腹に抱えている。
「見たことないコンビだな……鴨としては、悪くないわね♪」
「……なんかプレイヤーじゃないのも混じってるな」
二人の少年の近くには、現地風の装いの美女二人が帯同していた。
だが、二人は、大多数の男性並みの美女への関心を持ち合わせていなかった。
「まぁ、いいか。一緒にやっちまおう……」