11.国境の森3
「た、助けてくれて有難う……」
プレイヤーらしき二人が敵意はないということを示すかのように両手を上げながら俺達のところへ訪れ、お礼を述べる。
「えーと、あの、確認ですが、ユナイトのプレイヤーさんですよね?」
父が二人に確認する。
二人は一度、顔を見合わせた後、男が答える。
「そうです……」
◇
その後、お互いに情報を提供しあい、二組が似たような状況にあることを確認しあった。
二人は女性がアリサ、男性がラクイというらしい。
「えーと、ところで……そちらの二人は?」
ラクイが少々、訝しげに眼を細めて、ユシアとセナの方を見る。
「あ、こちら現地で知り合いましたユシアさんとセナさんです。開始日に偶然、出会った後、いろいろと良くしてもらっているんです」
父が簡単に紹介する。
「そ、そうなんですね……すでに現地の方と交流を深めているとは……恐れ入りました」
「まぁ、ほとんど偶然ですけどね」
「……えーと、こちらの事情は把握されているんですか?」
ラクイが小さい声で尋ねる。
「だいたいは伝えてあります。私達が生計を立てるために、お二人のお手伝いさせていただいている形です」
「なんと奇特な……」
「今日も、人型の撃退の依頼をユシアさん経由で受けて……」
「あっ!!」
父が話を続けようとすると、急にユシアが声をあげる。
「そうでした……! 依頼でした……!」
「……?」
父はユシアの言葉に、ピンと来ていないのか不思議そうな顔をしている。
「戻って、報告しないと!」
「あ……!」
父もピンと来たようだ。
「私達、先に戻ってますね。報告は済ませておきますので、お二人はもう少しお話しされていて構いませんよ」
「わ、わかりました。すみません」
父の了解を確認すると、ユシアとセナは、そそくさとその場から離れた。
◇◇◇
ユシア達が去った後、俺達も場所を移すこととした。
ラクイとアリサは俺達を近くの町の喫茶店のようなお店に連れて来てくれた。
その町は、王都<クラクスマリナ>程ではないが、それなりに栄えた町であった。
「ちなみに、ラクイさんとアリサさんはこの数日、どうやって過ごしてきたんですか?」
父が質問する。
「あ、はい……我々は開始時点であの怪物と遭遇した森に配置されました。その後、この町で、衣食住を確保できるようになりました……一応ですが、ネオカがそのまま使えるのはご存知ですかね?」
「はい。知っています。最初は驚きましたが……お気遣いありがとうございます」
父が丁寧に返答する。
「いえいえ。その後は、特に面白いこともないのですが、この世界のことをもう少し知る必要があると思い、今日になってあの森に戻ったというわけです……」
「そうなんですね。ちなみに他のプレイヤーと遭遇したりしましたか? 実は私達はお二人が初めて遭遇したプレイヤーだったのですが」
「こちらも初めてでした。ただ……実は、今日、この森で、壊れたステルス・アーマーを三体発見しました」
「……!」
父は少し険しい表情に変わる。
「そ、そうなんですね……」
「この森は不吉だ、離れようと……アリサと相談していた矢先に、あの人型と遭遇してしまったというわけです」
「なるほど……災難でしたね……」
「はい……」
「今後はどうするつもりですか? こちらが拠点とする街に来ますか?」
父が二人を誘うように言う。
「お誘い有難うございます。……ですが、それは止めておきます」
ラクイは申し訳なさそうに答える。
「この町を拠点に活動したいと思います」
「そうですか、わかりました。でも、もし困ったことがあったら、私達のいる街に来てくださいね」
「……ありがとうございます」
緩い協力関係を約束したところで、俺達はアリサ・ラクイのペアと別れ、王都<クラクスマリナ>に戻ることとした。
◇◇◇
何とも純粋な二人が立ち去る。
「本当にあれでよかったのー?」
アリサがパートナーに尋ねる。
「まぁ、よかったんじゃないですか? 流石に、こんな状況で、殺すわけにはいかないでしょ……」
「まぁねー……実際、彼ら、見た目・思考に反して強そうだったしー」
「まぁ、焦る必要はないですよ。……ないですが、彼らは気づいているんですかね?」
「絶対、気づいてないって! 見るからに偽善者っぽいもん」
アリサが毒づく。
「そ、それは関係ないと思いますが……ですが、そうですね……彼らは忘れている。ユナイトというゲームが本来どういうゲームであったかを……」
ラクイは遠くを見るように呟く。