10.国境の森2
父視点
「父の防護を外していい。あいつらを守ってやってくれないか? アオイ……!」
私は、アオイに無茶なことを頼む。
二人のプレイヤーがどんな人物かはわからない。
だけど、わからないのなら、死なせるわけにはいかない。
「…………あいつらを守るってことでいいんだよね?」
アオイが確認してくる。
アオイは多分、”四枠の防護対象”を、別の誰かに変えるのには前向きではないのだろう。
だが、人魔は彼ら二人しか狙っていない今なら、きっと大丈夫だ。
「……頼む!」
「……わかった」
アオイは静かに返答する。
……つまり、終わりだ。
「ウ゛ぅうウ゛!!」
人魔が唸り声を強める。
と、同時に全身の口が眩く発光する。
「もう……だめ……」
女がそれを見て、絶望の表情を浮かべる。
「ガウ゛ぅうウ゛ぁアアア!!」
人魔が相手の表情を見て、攻撃を躊躇する気配など微塵もない。
激しく咆哮し、全砲門から光を解き放つ。
だが、その時、すでに砲門と同数のミサイルが人魔を取り囲っていた。
次の瞬間には、激しい爆炎が人魔を包み込む。
「ギゃぁあアア゛アああ゛ああ」
人魔が激しい悲鳴を発する。
人魔に感情があるのかはわからないが、自身が握っていたと思っていたであろう主導権が、いとも容易く逆転したことに、彼も驚いていることだろう。
「……」
一方で、攻撃者は何も言わず、涼しい顔でその光景を見つめている。
「え……? 何?」
助けられた形の女は状況を呑み込めない様子で、何やら呟いている。
きっとユシアさんやセナさんも状況が呑み込めないのは、同じだろう。
<APS(アクティブ防護システム)>
それが、BLUEさん……ではなく、アオイが武器とするステルス・アーマーの特徴だ。
アオイが防護の対象としたモノに対し、攻撃の意図が感じられた場合、事前に察知し、その対象を飛翔体ユニットから放たれる迎撃弾により、能動的に破壊し、防護対象を守護する。
飛翔体ユニットもステルス対象であるため、相手は自身がすでに包囲されていることにすら気づかない。
そして、恐ろしいのは、その精度だ。
これまでAPSが発動し、それを突破できたプレイヤーはいない。
まさに絶対防御というわけだ。
ユナイトにおいての兵器は現代兵器をモデルにしているものが多い。
人間は攻撃力の割に防御力が低い、とBLUEさん……ことアオイが言っていた。
その言葉の通り、ユナイトにおいても攻撃性能は非常に高いプレイヤーが多いが、一方で防御性能はそうでもない。
つまり、基本的にいかに相手を早く見つけ、仕留めるかが勝負の鍵となる。
だが、アオイにはそれが適用されない。
それを可能にしているのはアオイの私の息子……いや、もはや人間とは思えないプレイヤー・スキルだ。
普通の人間には、あんな飛翔体ユニットを操作しながら自分も普段通りに振る舞うなんてことはできやしない。
母さん……君にも見せたかった。
俺たちの息子は天才かもしれないぞ……
「ウ゛ぅう゛ぁぁぁ…………」
人魔は炎の中で、しばらく断末魔をあげていたが、次第にその唸り声も小さくなる。
そして、突っ伏すように倒れ込み、ついに動かなくなる。
「やったな……! アオイ!」
「あ、うん……」
私の祝福にも、控えめに返事をする。
アオイらしいと言えば、アオイらしいが。
「アオイさん……! すごいです! あんなやばそうな奴をこんなにあっさりと……! 本来、私達がやらなきゃいけなかったのですが……」
ユシアさんがアオイを讃えている。
アオイは照れくさそうにモジモジしている。
こんな時くらい堂々としていればいいのに。