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くろうさ  作者: 雪麗。
3/9

トレードマーク

頬に触れるものが上下し、虫か何か…とぼんやり思った所で覚醒する。

飛び起きた私のそばで転がった黒いものは喋る。

「伊那、おはよ!」

ああ、昨日の事は夢ではなかったんだ。

まだ少しついて行けていないけれど。

「くろうさ、おはよう」



昨日はあれから距離を保ったまま喋った。

そうしてとりあえずは危険なものではない事、机や椅子など物の名前も知っていてまるで現代人のようだという事がわかった。

「ペットのようだと思えばいい?」

と聞いたら

「ペットじゃあないよ!友達だよ!」

と怒り気味に言ってきたので、友達という事に。


簡単な自己紹介もし、だんだん打ち解けたのは良いがこちらは実家暮らし。両親は健在だ。三歳年下の弟もいる。

まだ嫁にも行っていない娘が突然独り言を言い始めたとなれば周りを巻き込んで大変な事になりそうなので、くろうさには声量の注意と喋るのは時と場所を考えるよう頼んだ。

「はぁい」

と聞いているようないないような返事だったが大丈夫なのか…。


恐る恐るつまんで机の上に置こうとしたら

「きゃきゃきゃきゃきゃ!」

「うわぁ!」

急に壊れた玩具のようにけったいな声で叫ぶものだから驚いた。

「ぷぅークスクス」

コイツは私で遊んでいた。人の話を聞いていないな。

という事で透明なプラスチックでできたケースを棚から取り出し、くろうさに被せた。

暫くすると出してもらえない事がわかったからか、泣きついてきたので出してやった。

手のかかる編みぐるみだこと。



そんなこんなで、夜はベッドの傍に置いてあるサイドテーブルの上に置いていたくろうさは移動してきて朝に私を起こした。


今日はくろうさの飾りを作る予定。

昨日、私が着ている服をじいっと見たあと

「ぼくも服が欲しい」

と言ったのだが、本当に私はそこまで器用ではない。

なので服は諦めてもらって、首に巻くものを作ってあげる事にした。


白いレース糸を選んでまたまた本とにらめっこ。糸が細くて編みづらい。

でも約束したしな。くろうさも楽しみにしているし、これだけはなんとか作ってあげたい。


………

……


「くろうさ、できたよ」

花のモチーフが連なっている、細長い巻き物。

あっ、くろうさは男の子…?

「わぁぁい!わぁぁい!」

くるくると回りながら喜んでいるので良しとしよう。


くろうさの首に巻く。首と胴体の繋ぎ目から見えていた綿も見えなくなった。

黒と白だけでもいいのだけれど。うーん。何か色が欲しい。

そこで、Tピンにピンクと黄色の小さな菱形のビーズを通す。もう一つのTピンには赤色を。

Tピンの先を丸くして安全ピンに通し、巻き物を留めた。

三色のビーズが光を反射して煌めいている。

「ふわあぁぁ…!」

くろうさの目が輝いているように見える。

置いてあげた鏡の前から動かず、つい私がふふっと声を漏らした。

「あ、ありがと!!」

「どういたしまして」


くろうさはその後二時間も鏡の前から動かなかった。

編んでいる途中でどこに針を入れたらいいのかわからなくなったり、どこで間違えたのか編み目が減ったり増えたりしていた事は内緒。

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