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3杯目

「ところで。七絵は何しに来たんだ?」


カウンターの向こうから、ひやりとした空気を流しながら聞こえてきた。


「あ!そうだ!お兄ちゃん!!アリスのお菓子持ってきたんだった。はい、これ!」


七絵ちゃんが思い出したように、側に置いていた紙袋からお菓子を取り出す。


「あと、祐太さんが、あの話考えてくれたか?だって。……あ!もうこんな時間!やばい!!」


時計を見て慌てて帰り支度をする七絵ちゃんを、私はただ、ぽかーんと見るしか出来なかった。


カランカラン!


来た時と同じように賑やかな音を立てて、七絵ちゃんが出ていった……。


えーっと、最後の1枚は……というか。

これ、どうしたらいいの?


私の前には、七絵ちゃんのカードが残されたままだった。


「あ、あの……。」


仕方がないので、カウンターの中の『お兄ちゃん』に声をかける。


「はい、なんでしょう?……あー、それ……。」


並べられたカードと私を見て『お兄ちゃん』は困ったように少し考えてから言った。


「あの、もし、途中で気になるようでしたら 、それ、写真撮らせてもらってもいいですか?今度お店に来てもらった時に、ちゃんと説明させますんで。」


確かに気になる。最後の1枚。

でもなぁ、何だか、忙しそうだったし。

うーん。


「あー、それとも、こんな騒がしい店は、もう嫌になりました?」


う。そう言われると弱い。


「いえ、美味しかったですし、騒がしいのも嫌いじゃないですから、また来ますよ。……写真は別に構わないですよ。じゃあ、ついでに私も記念に撮らせてもらいますね。」


遠慮よりも、結果が気になるので、素直に写真を取ってもらうことにした。私も、カード3枚並べたものを撮影して、スマホの待ち受けにした。


カウンターから出てきた『お兄ちゃん』は、持ってきたスマホで撮影すると、手早くカードを片付けた。


そして。


「そういえば、まだ自己紹介してませんでしたね。俺、この店の店長をしています、山田和宏と言います。えっと、花子さん、でしたか?よければ、また食べに来てくださいね。」


と丁寧にご挨拶された。


「あ、私、山本花子と言います。今日この街に来たばかりなので、あの、その、……いろいろ教えてもらってもいいですか?」


ええ、どうぞ。とにっこり微笑まれたので、私はとりあえず、日常に必要そうな情報をあれこれと聞いていく。


さっきの騒がしさが嘘のように静かな店内で、私は思いの外、長居してしまったことに気がつくと、お会計をして店を後にした。


さて、とりあえず明日からの生活品を見に、商店街へ向かう。さっきの喫茶店に、ケーキ屋さん、パン屋さん、中華料理屋さん、などなど、……とりあえず自炊できなくても食べることには困らないかな。


ずっと実家暮らしだったので、正直、自分の料理の腕は信じてない。実家の母は「料理なんて慣れよ、慣れ。」なんて言っていたけど、……初日から頑張ってやる必要もないよね、と自分に言い訳しつつ、飲み物と、明日の分の菓子パンなどを買い込み、家に戻ってきた。


さて、荷ほどきをしますか!

と張り切ってみたものの、2時間もしないうちに、段ボールはすっかり潰されてしまった。


「ふー、これで終わりかな。」


さて、と、じゃあ行ってきますかねー。

ガスが明日からなので、今日のお風呂は半ば諦めていたけれど、さっきの喫茶店で店長さんに、駅前から送迎バスが出ているスーパー銭湯があることを教えてもらったのだ。


着替えとタオルと……、と準備して、商店街の反対側、駅の方へと向かう。


美味しいご飯と、大きなお風呂。

可愛い猫がいる喫茶店。


引っ越し初日から、なかなか面白いことばかりだったなぁ。


「この状況を楽しむといいですよ。」


七絵ちゃんの言葉が頭に浮かぶ。

失業してこれからどうしよう?という不安が、今は楽しい!に変わっている自分に気がつくと、不思議な気持ちになる。


……最後のカード、どんな意味だったのかなぁ。


スマホの待ち受け画像を見ながら考えているうちに、スーパー銭湯行きのバスがロータリーへ入ってきた。


やっと部屋の片付けが終わりました。


七絵ちゃんがカードを忘れてしまうほど慌てているのには、理由があるのですが、本来は、お勧めされた行動ではないと分かっていますので、それについての指摘は受け付けておりません。


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