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16杯目

「あ、あの……」


えっと。これは一体どうしたらいいんだろう?

そんな気持ちを込めて店長に視線を送っても、すっと逸らされてしまった。

うう、ひどい。


「そんな顔しないで、ほら、これもどうぞどうぞ!」


ぐいぐいという擬音が聞こえてきそうなほどの圧を感じつつ、私は精一杯笑顔で返事をする。


「あ、ありがとうございます。でも、私、一人暮らしなので沢山頂いても食べきれないんです」

「あら、そう?じゃあ、ご実家に……」

「もー、お母さん、もういいでしょ。花ちゃん困ってるんだから。ほらー、お兄ちゃんも黙ってないで助けてあげなよ。ねー、ハナ」


にゃーん、と声を上げつつ、ふらりとどこかへ立ち去る猫のハナちゃん。賑やかな店内じゃお昼寝できないよって言っているみたい。


「だって、やっと花子さんに会えたんだもの。ちゃんとお礼しなきゃって、母さんずっと思ってたのよ?それにね、和くんとも仲良く……」

「ちょ、ちょっと母さん!ほら、もう挨拶はいいでしょ、席に着いて。まったくもう……やっと帰ってきたと思ったら、すぐこれだ」

「ふふ。そんな顔見るのも久しぶりね。はいはい、座りますからね」

「まったく……。あ、いいよ花子ちゃん。今日はお店はいいから座ってて」

「そうそう。今日は、お母さんの帰宅祝いと、花ちゃんとの顔合わせでもあるんだからね。花ちゃんとお母さんは主役なの。座って待っててね」


そう言って、七絵ちゃんはさっと立ち上がり、出来立ての料理や飲み物を運ぶお手伝いにキッチンへと向かっていった。


そして残された、私と……店長と七絵ちゃんのお母さん。つまり、喫茶店 太陽の先代奥様。長年、喫茶店でお仕事されつつ、お子さん二人を育てられた方。

接客業というのもあるんだろうけど、すごく……。


「ふふ。私の顔に何かついてる?」

「あ!いえ、あの、……笑顔が素敵だなぁと思いまして……。すみません、初対面で失礼でした」


危ない危ない。すっかり自分の世界に入り込んでたみたい。

すごく笑顔が素敵。それは本当。


「あら、ありがとう。若い子にそう言ってもらえるなんて、私嬉しいわ」

「そんな若い子だなんて……私、もう26なんですよ」

「まだ、26よ。私からすると、和くんも七絵も、まだまだちっちゃな子供みたいなものだし、花子さんも、学生さんくらいの気持ちで若々しくね」

「学生、ですか……それはさすがに……」

「ふふ。それくらい元気で明るくても大丈夫ということよ」

「はーい、お喋りはそれくらいにして、お料理並べるから机空けてねー」


会話のタイミングを見ていたのか、七絵ちゃんから声がかかる。

両手には出来立ての美味しそうなお料理。

いつものメニューじゃないものもあるかな?良い匂いにお腹の虫が元気になっている感じがする。……あともう少しだから今日は鳴らないで、と思いつつキッチンに目を向けると、こちらを見ながら優しく微笑む店長と目が合った。

ああ。

私、やっぱり……。


そんな私のことを見ている母娘には気が付かず、私はまた自分の世界に入り込むのだった。



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