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第4話 ジルフォードと言う恋敵



「あの、会わせたい方ってどなたなのですか」

「隣国の王子、ジルフォード・アギナウム・デッシュ。第三皇子で王の座は継がないらしいが、商才があるらしくてな……。そちらの方で名を挙げて兄を補佐しているらしい。数年前の食糧難の時も、ずいぶんと助けられた」

「まあ!」


 数日後フィアナを連れて引き合わせたのは、件のライバル王子ジルフォード。

 王子なだけでとりえのないこちらとは違って、明るく陽気でとにかく才気あふれる青年だ。


 我が儘を言って、出会いの場を設けたのだ。


「ああ、お初にお目にかかります。フィアナ姫」


 実際会ってみればその通りで、フィアナはすぐにその性格に打ち解けてジルフォードと話すようになった。


「さすがですわ、お目が高い。その素材は私も前々から目をつけていたのです。薬にもなるし、食料にもなる、栽培法方法も簡単ですし」

「やはり、存在を広く知られていない所が難点かと。自生している場所も限られていますし。栽培方法を確立できれば良いんですけどね」


 自分には理解できない次元の話だった。


 なんの取り柄もないただ見目がそれなりに良いだけの自分などについているより、彼女はよほど幸せだろう。


 これから先困難は色々あると思うが、彼と共に一緒になった方が幸せになれるはず。……。

 こうして会話をこなして行けば、二人は自然と距離を縮めて言って、本来のイベントも徐々に発生していくようになるだろう。


 これでいいはず。初恋は実らないものなのだ。







 そんな風に王宮での他国の王子との接点を持ったフィアナは、二つの国を富ませる様な新しい商品の開拓に夢中になって、自国を富ませる為にと、仕掛けの溢れる月の塔に挑むようになり、新たな生きがいを見つけていった。


 一か月も経つ頃には、溢れる庶民力を大暴発させていた頃に比べ、すっかり落ち着く様になっていたのだった。彼女の来訪を歓迎していなかった者達も、その影響ですっかり丸くなった。フィアナ自信が元々、多くの人に好かれる明るい元気な性格だったのが幸いだったろう。


 それでも時々は、庶民生活が恋しくなるのかひっそりと内職をしていて、手伝わされたりするのだが……以前と比べれば全然許容範囲内だった。


 そんな時にまた久予想外の方面から、打撃を受けた。

 そんな展開は予想してない。盲点だった。


「ジルフォード王子が婚約されるんですって」


 召使達の楽し気な噂を耳にして、凍り付くフィアナの横顔など長く見れた物ではない。


 こちらの初恋が終わったとたんに、まさか彼女の初恋が終わる事になるとは誰が予想できるのか。


 イベント発生時期をずらした事で何かの変化があったのかもしれない。


 そうであったらフィアナの失恋はジルコニアスのせいとなる。

 罪悪感で胸が押しつぶされそうだったが、そうもしてられない事情があった。


「ええ、そうよね。分かっていたわ。あんなにも素敵な方ですもの。お相手の一人や二人くらい、いてもおかしくないわよね」


 落ち込んだ、彼女をどうするかと言う事。


「私ったら馬鹿みたいだわ。貴方だって気づいていたんでしょう? 別に好きでもなんでもないけれど、貴方と言う婚約相手がいながら、他国の王子にうつつを抜かす私の心中なんて酷いものよね。別に貴方の事なんかこれっぽっちも好きでもなんでもないけど」


 何故に二度こちらの心臓をえぐりにくる。


 しかし、らしくもない彼女の荒い言葉は、おそらくこちらに責められる為なのだろう。


 辛い気持ちを相手にしかられてごまかそうとでもしているのかもしれない。


 ならば、ジルコニアスのやる事は一つだ。


「そんな事、させない」

「え?」


 フィアナがそれを選ぶなら。こちらはあえて、それに逆らおう。


 同じ初恋に敗れた者同士だというのに、それではこちらだけ悲しみ損ではないか。


「今は私以外誰もいない、泣きたいのなら泣いても良いんだ。私は誰にも言わないから」

「……っ。貴方はひどい人ですね。女の人に辛い思いをしろだなんて言うなんて」


 それでも彼女はこちらの言葉に抵抗せずに、泣き始めた。


 途中までは淑女らしくしくしく泣いていたと言うのに、終盤は大泣きだった。

 どうにもただそこにいるだけでは手持無沙汰と言うか、薄情者に見えそうな絵だったので、こちらは仕方なく頭をなでたり背中をさすったり。


 泣いて泣いて、泣き終わった後は、彼女はとてもすっきりした顔をしていた。




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