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第2話 フィアナ・イレクセントの華麗なるド庶民生活



 出会って数秒。俺はその人に一目ぼれしていた。


 王宮に嫁いできた守銭奴魂溢れる女性の名前は、フィアナ・イレクセント。

 庶民の少女で、取り立てて秀でた所もなく、特別な技能に優れているわけでもない。


 そんな彼女が王宮に嫁ぐ事になった理由は、血筋が評価されて……というものだった。

 始まりはこんな具合。

 休戦状態にある隣国との不安を解消するために、どうやってか勇者の血筋を引いた人物を見つけた者が、ジルコニアスの嫁にしようと言い出したから、だ。


 ジルコニアスに不満はない。

 国に住まう人々達の不安は知っているし、常から取り除けないか考えていたからだ。

 むしろ積極的に考えるべきだと思っているぐらいで。


 だが、相手の者の都合もあるから、無理強いはしないつもりでいたのだが……。


 まさか真っ向から拒絶される事になるとは思わなかった。

 それも、「金稼ぎが出来ないから」などという理由で。


 一応ジルコニアスは相手に好かれようと、色々な方法(贈り物をしたり、会話を盛り上げようと女性の流行を勉強したり、出会いの場が多くなるようにスケジュールを考えたり)を試みたのだが、効果はまったく出なかった。


「ふんふんふーん」

「……」


 とにかく一度話をしなければ、と嫁となってしまった相手の女性。フィアナの元へと向かうのだが、開け放たれた部屋の中身を見て絶句してしまった。


 ノックはした。

「はいはーい、どうぞ」と、彼女の返事も聞いたので失礼はなかっただろう。そこは問題ない。


 なら、何が問題なのかと言うと……。


「フィアナ。これは一体?」

「ああ、ジルコニアス様ですか。今、内職をしているので、部屋が散らかっていてすみません」


 そう、部屋が内職の道具で溢れかえっていたからだ。


 城下町では祭りの時期が迫っているらしいからその準備だろう。

 色とりどりの飾り付けが、足の踏み場もないくらい溢れかえっていた。


「あー」


 何といえば良いのか分からない。

 言葉に詰まった。


「フィオナ。お前がそんな事をする必要はないんだぞ?」


 この国の姫となるのだから、金に困る事も、金がなくて生活に困る事も無いのだとそう言うのだが、返って来た言葉は予想の斜め上をいくものだった。


「あ、お気になさらず。趣味です。むしろ呼吸ですから」


 彼女は生命活動をしているようだった。


 それに対するジルコニアスの反応は(えー……)と、内心で戸惑うしかない。



 それからもフィアナは惜しみないド庶民生活を全開にして、王宮出の日々を送っていた。


 部屋で内職をしているのはまだ可愛い方で、勝手に王宮の庭園で農作物を育て始めたり、見張りをまいて市場でそれらを売りさばいていたり、と。


 さすがにそれは問題だと言う事で、許可なく外出しないように警戒を強めれば、今度は王宮の下働きの者達に変装して働き出す始末。占いをしたり、人生相談をしたり、自作のアクセサリーなんかを作って売って、ちょっと流行らせたり……やりたい放題だった。


「ジルコニアス様、非常に申し訳ありませんが、どうかあの野猿……ではなく、フィアナ様を何とかしていただけませんか?」


 彼女付きの使用人である女性が、やつれた顔でそんな事を言って来た時はさすがに困った。


 というものの、すでにジルコニアスもフィアナ自身に色々と言ってきているのだが、まったく耳を貸さないからだ。


 乙女ゲームに転生したと分かった時は、王子としての将来は日ごろから良い聞かされていたので、まあ元々そうなる人生だったし、とフィオナの事もそう思っていたのだが、実際に身に降りかかられると大変な問題だった。


 ゲームの通り。シナリオ通りに事が運ぶのなら、普通にやっていても収まるべき所におさまるのだろうが。

 

 その間の下働きの者達や、召使、使用人たちの苦労を思うと「放置できないだろうな」、と思うしかない。


 これは近いうちに何とかしなければならないだろうな、と決意するのにそう時間はかからなかった。




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