キーワード短編小説
1つ目です
「双子、洞窟、犯す」のキーワードでふ
「・・・今日は初めて教会に行く日ね。ハリー、ジェイク。二人とも気をつけるのよ」
巨大な縦穴洞窟の中に作られた国には一つの宗教があった。
「母さん分かってるよ。俺達はもう十六歳なんだよ?」
教祖は存在せず姿はおろか名前を知る者もいない。
「「行ってきます」」
人々がそんな宗教を信じる理由は唯一つ。
◇
俺は洞窟の中心にそびえ立つ中央教会のドアを開ける。
「ハリー兄さん、僕少し怖くなって来たかも」
少し後ろではジェイクがオドオドとしている。
中では祭壇の前に神父が背を向けている。ドアの音を聞くなり勢いよく振り返る。
「おぉ!イリアの双子達か。待っていたぞ大きくなったな。今日は誓約の日だ!」
この国で十六歳になった者はその誕生日に中央教会を訪れ、『誓約』と言う儀式を行う。国民全員が信仰する名も無き宗教への唯一つの誓約。
真実を知ろうとしない事。
たったこれだけの約束を守る為にこの教会の人間達は日夜祈りを欠かさない。誰に祈っているのか、何を祈っているのか答えを知る者は居ない。
「さぁ、この紙に血文字を」
「はいよ」
神父は小振りのナイフと紙を手渡してきた。紙には何やら文字が書いてあったけど長いから読まない。ナイフで人差し指を少し切って渡された紙にサインをする。
ハリー・マルクルと。
ジェイクも同じ作業を終えたようだ、
「ほら、帰りたいんだ。」
「これで君たちも誓約を終えた立派な大人だ。くれぐれも禁忌を犯さぬ様にな」
ニコリと微笑んだ神父は俺とジェイクから受け取った紙を祭壇の炎にくべる。紙は燃え上がり残った灰は炎の上昇気流で宙を舞っていた。
◇
「ねぇハリー兄さん」
教会からの帰り道、夕飯時か早く帰ろう。
「さっき神父さんが言ってた禁忌ってあの約束の事だよね」
ジェイクはハリーに声を掛ける。
「『真実を知ろうとしない事』。なんであんなに守られてるんだろう。教祖がいない宗教なのに規則を守るって」
だんだんと細くなっていく弟の声に耳を傾け適当に返事をして俺達は帰り道を急いだ。
「俺にはこの国の事は分からな、やっぱし約束破ったら悪い事でも起こるのかな?」
◇
「二人ともおかえり。どうだった?ちゃんと誓約はできたかしら?」
夕飯を作っていたのかエプロン姿の母さんが玄関にやってきた。この匂いはシチューかな。
「ただいま母さん。俺、ちょっと部屋に居るよ。ご飯できたら呼んで」
俺は二階へと続く階段へ向かう。
「あ、ハリー兄さん、待って」
ジェイクはハリーの後ろに続いて階段を登る。
「そろそろご飯出来るわよ」
後ろから聞こえる声に俺は振り向くことなく部屋へと向かった。
◇
「兄さん、『真実』って何のことなんだろ」
ジェイクは二段ベッドの下から上にいるハリーに向かって話しかける。
「意外と俺が見てる景色は全部偽物なのかもな」
俺はベットに仰向けに寝転がり天井を見上げてみる。あの木材の木目、人の顔みたいだな。
「そんな。これも全部偽物だなんて僕は信じれないよ。」
いつになく語気を強めるジェイク。
「それに僕は知りたいんだ。禁忌を犯してでも僕はこの世界の真実を」
ジェイクは窓の外に広がる儚く冷たい岩肌に眺めていた。
「ご飯できたわよー」
母さんの声が聞こえる。シチューが出来たみたいだ。
「今から下りるよ」
俺は一階に下りるため二段ベットから出る。ドアノブに手をかけて捻る。ふとハリーの頬を風が撫でる。
「窓開きっぱなしじゃねぇか」
二段ベッドの下、今は物置になっているスペースに設けられた窓を閉める。
窓の外に広がるのは暗く冷たい岩肌。
「相変わらず暗い所だよなここ」
◇
「・・・Jの処分を遂行した。残るのはHだけか」
「・・・この前二人に減ったと思ったのにもう一人になっちゃったか」
◇
「・・・今日は初めて教会に行く日ね。ハリー。気をつけるのよ」
巨大な縦穴洞窟の中に作られた国には一つの宗教があった。
「母さん分かってるよ。俺はもう十六歳なんだよ?」
教祖は存在せず姿はおろか名前を知る者もいない。
「行ってきます」
人々がそんな宗教を信じる理由は唯一つ。
「おぉ!イリアの一人息子か。待っていたぞ大きくなったな。今日はの誓約の日だ!」