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眠り屋  作者: 三千
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四章 涙


「はじめまして、ぼく、にんぎょ、こんにちは、」


事務所の玄関にて。

目の前にいる、この背の高い金髪のイケメン。


僕は、開けたドアをすぐに閉めようとして、ドアノブにかけた手を引こうとしていた。


そしてここに、ドア一枚を使った攻防の火蓋が切られる。


僕が無言のまま閉めようとしたドアの向こう側で、ドアノブにガチャリと食らいつく音がする。


そして、ドアノブを引っ張り合う、という下らない戦い。


攻防は長期戦の様相を呈したが、敵はドアの隙間に足先をねじ込むと、カタコトの日本語で叫びながら、その半身をも押し入れてきた。


「すみません、ちょっと、はなししたい、いいですか? ぼくは、にんぎょです、それで、あの……」


「にんぎょ」と言われると、「人魚」としか、漢字を変換することができない。


「…………」


そして。


僕と彼との身長差は歴然だ。


彼の肩より下を、僕の上半身で押すという多少なりとも屈辱的な体形に、僕はいわれのない憤りを感じながらも、さらに力を込めてドアを引き戻す。


そう、僕にも意地というものがある。


「不審人物からのご依頼は、お断りしていますっ。どうぞ、お引取りを」


失礼極まりない言い方だが、仕方がない。

自分を「にんぎょ」だなんて、言っちゃう人だから。


けれど、この戦いを永遠に繰り返すのか、負けるわけにはいかぬと思ってノブを握る手に力を込めた矢先、突然にその長きに渡った戦いに、終止符が打たれた。


外で声がする。


「先生、何やってんですか‼︎ お客様ですよ、あ け て く だ さ い」


ドンという破裂音のようなドアを叩く音がして、僕はびくっとして後ろに退いた。


ああ、何というバッドタイミング。


その乱暴なやり方での戦いの幕引きに、お客もあんぐりと口を開けている。


「さ、どうぞ、どうぞこちらへ」


手招きつきで、丁寧に金髪の青年をリビングへと促したこの女性は、先日僕が雇ったばかりの事務員兼お手伝いの、京子きょうこさんだった。


京子さんとの馴れ初めは、取り敢えず置いておいて。


僕はすかさず近づいて、小声で囁いた。


「京子さん、この方変なんですよ。ご自分のことを人魚、だなんて言うんです。ちょっと普通じゃありません、おかしいですよ、僕は話しませんからね」


金髪碧眼長身イケメンの彼は、京子さんによってソファに座らされ、キョロキョロと辺りを見回している。


しかし、当の京子さんはこの僕を置き去りにして、さっさとキッチンへとお茶を淹れにいってしまった。


置いてきぼりにされて、手持ち無沙汰になる。


僕は、僕が立つすぐ脇のボードに置いてある、今時珍しいだろうレトロな黒電話の本体と受話器を結ぶ、クルクル巻きになっているコードに指を突っ込んでは両手で伸ばしてみたりをしながら、なるべく金髪の方を見ないようにと視線をあちらこちらへと泳がせていた。


「はじめまして、ぼく、にんぎょ、おんなのこ、さがしてほしい」


脳内で、こんな風に変換してみる。


「初めまして、僕は人魚というものです。ある女の子を探し出してもらいたいんです。どうか力になってください。矢島さん、どうぞよろしくお願いします」


ああ、そうか。

名前なのかも知れない。


そう考えると辻褄が……あう。


僕はフゥとため息をつくと、一向に戻ってくる気配のない京子さんを諦め、彼の向かいに座った。


「あー、ミスター……ニンギョ、あー、えっとアイム……」


「あらあら先生、英語、からっきしなんですね」


キッチンから声がかかる。


その外見からはまるで想像つかない歳の、まあ言っちゃうけど四十路を軽く超えている京子さんに、僕は勝てる気がしなかった。


最近では、夢魔を操りながら人の夢へと入り込み、そこにある問題を解決に導く、ちょっとかっこいい仕事をこなしている僕でも、だ。


そう、こんな現実離れした世界で仕事をしている僕にでも、「人魚」とはねぇ。

それはない。

ないない。


「女の子、夢の女の子、見つけて」


どうやら夢に関係する依頼には間違いなさそうではある。


「……では、あなたの夢の中に出てくる女の子の顔を覚えて、捜し出して欲しいということでしょうか」


英語は話せない。日本語でどうだ。


「そう‼︎ その通り」


親指を立てて、グッドのジェスチャーをする。


あ、日本語オッケー、人魚でも親指を立てるんだ、ってね。


やれやれ、仕方がないと渋々だが手帳を取り出し、ペンを走らせる。


「どうして、その女の子を捜すのですか?」


そこで京子さんが、盆の上でコーヒーカップをカチャカチャと鳴らしながら、入ってきた。


人魚さんの前に差し出す。


彼は不思議そうな表情を浮かべながら、じっと差し出されたコーヒーカップを見つめていた。


その様子を見て、僕は思った。


珈琲派ではなく紅茶派、なのか?

外国人でも、コーヒーは飲むよな。

それにしても、外国人なんだから、人魚さんって、名前が漢字ってのもおかしいのか。

じゃあ、Ningyoさんってこと?

それって、ファーストネームなの?


難しい顔を作ってはいるが、下らないことを考えていたのを見透かされたのか、京子さんがもう一つのコーヒーカップを、僕の前にガチャンと音を立てて乱暴に置きながら、にらんでくる。


京子さんには僕の頭の中が透けて見えているような気がしてならない。


僕は姿勢を正して、話の続きを促した。


「どうして、その女の子を?」


金髪がゆらりと揺れる。


色素の薄い長いまつ毛は、芸能人やモデルで生計を立てていけるのではないかというような、そんな綺麗な顔を際立たせている。


見ようによっては、何を考えているか分からないような、少しきつい目にも見えるのだけれど。

憂いを漂わせるその美しいマリンブルーの瞳。


「好き……好き、だから」


僕は一呼吸置くと、ため息を一つついた。


「はああ……そういうのに、弱いんですよね、僕」


僕は、カップを取り上げて、コーヒーを一口啜った。


✳︎✳︎✳︎


その日の夕方、僕は目の前の光景をにわかには信じることができず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。


「人魚、だから」


行くあてのない金髪碧眼長身イケメンは、カオルと名乗った。


「名前は、カオルです。人魚は、名前じゃなーい」


そして、僕の事務所兼自宅に泊めてくれと言う。

探し人が見つかるまでの間、という約束で居候を許したのだった。


そしてこの状況。


カオルを風呂に入るよう促した後、アケミマートで購入したLLサイズのパジャマや下着を持って、ノックをしてから脱衣所に入る。


そして、何とビックリ……なんてもんじゃあない‼︎


脱衣所のドアに薄っすらと浮かぶ、ぬらりとうねる影。


僕は水族館の水槽の中で気持ち良さそうに泳ぐ、魚を思い浮かべてしまったのだ。


そう、それは正に魚の尾っぽ。


今の時点で、シルエットしか見えないけれど、これは確認するまでもなく、カオルは正真正銘の人魚ということになるのか。


うわ、まじで。

うわ、まじか。


しばらく呆然としていたけれど、ノックをしてから、カオル、と控え目に声を掛ける。


「はーい」


カオルのこの能天気な返事。


「ドア、開けてもいいかな」


もしかしたら、人間に見られるなと人魚の仲間に念押しされているかもしれない。

そして、見られたら泡になってしまうぞとか、バレたらお前の家族も消してしまうぞとか、いかにも偉そうな人魚の世界の支配者とかに、脅されているかもしれない。


そうなっては、カオル自身も泡になって消えてしまい、僕が受けた依頼もぱあになる。


めんどくさいことに首を突っ込みたくない僕は、思った。

それはそれで、いいかも。


もう一度、遠慮気味に訊く。


「あの、少し開けても良いかな、って言うか、見てもいい?」


「オッケー、いいよー」


さらに、力の抜けるこの返事。


僕はこれまであまり他人の秘密に近付かないようにしていたし、こういった秘めごとに関わる件については消極的な態度を一貫して貫いてきた。


そんな軽くオッケーされると、本当にいいのかな、という気になる。


しかしまあ、カオルの姿がまさかの人魚であっても、驚きのあまり卒倒することだけは避けなければ。


精一杯、頭の中を人魚のイメージでいっぱいにする。


人魚が一匹、人魚が二匹、人魚の男バージョンが一匹、人魚の男バージョンが二匹……


そして力一杯、バタンとドアを開け放つ。


その後、冒頭に戻る。


僕は顔面蒼白、今にもぶっ倒れそうな頭を抱え、呆然と立ち尽くした。


「人魚、でしょ」


だから何、そのドヤ顔。やめて。


✳︎✳︎✳︎


「違うんですよ、とにかく違うんです‼︎ 僕が思っているというか、世間一般が思っている人魚と違うんですよ‼︎ 」


その後、悲鳴をあげながら、黒電話で京子さんに助けを求めた。


「いや、だからね、普通は尾っぽが一つじゃないですか。それが三本あるんですよ‼︎ 三本‼︎ いえ、そうじゃなくって、ほらタコって足が八本あるじゃないですか。あんな感じで、それが三本っていうか、三尾っていうか、三匹っていうか……」


僕は自分が何を言っているか、分からなくなっていた。


ああ、この状態を混乱というのか。


「それでね、その三本が全部魚の尾っぽの形なんですよ‼︎ もちろん、ヒレのあるやつ‼︎ え、いや、大丈夫です、頭は打ってません、って、京子さん、ちょっと待って‼︎ 切らないで下さいっ」


耳元で、ツーツーと、お決まりの音が響く。

受話器を置くと、黒電話はチンと音をさせて沈黙した。


僕の想像を容易に飛び超えてきた、人魚男のカオルを見る。


すでに、人間の姿に戻り、ソファに座ってペットボトルの水を飲んでいる。


足、足、足だ。足になってる。ヒレだったのに、足になってるぅ。


「お風呂、気持ち良かった、水、上質ね」


あぁ、この何事もなかったようなカオルの態度。


別に見られても良いんだ、ああそう、良いんだ。

なんか取り乱した自分が少しだけ恥ずかしくなってきた。いや、かなり恥かしくなってきた。


しかし、この場にあのふてぶてしさNo.1の京子さんがいなくて良かったと心からそう思う。


きっと彼女は何が起こっても動じない。


そして取り乱した僕の姿を見て、失笑するに違いない。

そして、小馬鹿にするに違いない。


僕は諦めて、降参の白旗をかかげる。


「ずいぶんと不思議なことには慣れているつもりでしたが、これは心底想定外です。人魚というのは本当だったのですね。って言うか人魚って本当に存在するんですね。それだけは、まず納得せざるを得ません」


「そう、それで、女の子、捜してくれる?」


「あれ、少し日本語も上達しているようですね」


滑らかに話し始めた様子を見て、学習能力の高さを感じる。


「人魚の夢に入るのは初めてですが、何とかやってみます。でもやはり、事前の準備にご協力を頂きたく、その点はよろしくお願いします」


そうは言ってみたものの、本当に出来るかなあ……と情けなく心で呟いてみる。


「こちらこそ、よろしくお願いしまーす」


「今日はもう遅いので、このまま休んで、明日お話を伺うことにします。カオルはソファで寝て下さいね。水、ここに置いておきます」


テーブルの上には、ペットボトルの水と一緒に、僕が用意した水を張った洗面器が置いてある。


少しでも快適に過ごせるようにと、頭を捻って考えた結果が、これ。

果たして、利用価値はあるのだろうか、その点は大いに疑問だ。


カオルは僕が用意した毛布に潜り込んで、京子さんが家から持参していた私物のクマの顔のクッションを縦半分に折って丸めると、頭の下に引き入れて、目をつぶった。


少しして、ごうごうとあまり大きくはないが低い地響きのようないびきが聞こえてくる。


「このいびき、イケメンが台無しだなぁ」


そう呟くと、僕は灯りを消して、部屋をそっと出た。


✳︎✳︎✳︎


二日ほど、箱入り息子と評しても過言ではないカオルに付きっ切りとなり、僕も京子さんもヘトヘトになりながらも、着々と夢に向かい合う準備を進めていた。


たどたどしかった日本語もここへ来てかなりの上達ぶりを見せている。


最初は、夢の情況をこと細かく説明させようとすると、まるでつたない日本語だったためかなりの苦戦を強いられていた。


けれど、この二日でテレビを見たり雑誌を読んだりして、人間社会の情報もたくさん吸収しながら学んだこともあって、あれこれと身振り手振りでする、夢や自分に関する彼の説明に、僕が不足を感じることも少なくなった。


カオルから聞き出した夢の内容はこうだ。


毎日ではないものの、気がつくと夢の中だという。


海の中で人魚のカオルが気持ちよく泳いでいると、海面の方にやわらかい光とともに、ゆらゆらと揺れている人間の足が見える。


カオルが近づいていくと、女の子が一生懸命手足をばたつかせている。


彼女が溺れていると思ったカオルは、背後から暴れる彼女を大丈夫だからと落ち着かせると、彼女はカオルへと振り返って、こう言うのだという。


あなたの、その涙をください


そこでいつも夢が終わる。


「僕はいつも目覚めると泣いているんです。けれど、決して悲しい夢ではない」


語尾に力が入る。


そして、カオルが泣きながら目覚める理由。


「何度も何度も同じ夢を見るうちに、彼女に逢いたいと思うようになったのです」


「お知り合いの方ですか? それとも……」


表情を硬くし、あらぬ方向へと視線を泳がせる。

この質問に関しては、明らかに反応がおかしい。


「……よく、分からない」


このカオルのどっちつかずの返答によって、僕はひとつであるはずの道をふたつへと分かつように、考えを改めることとした。


まあ、矛盾の部分を今、指摘することは簡単だ。


けれど、タイミング的にはまだ早いような気がして、この返答には触れずに、先へと進めることにした。


今回の夢へのアプローチはかなり難しいものになるだろう。


場面展開が海の中という時点で、僕は少しだけ尻込みをしてしまっていた。

今までにない、消極的な気持ちになっていた。


それはそう、言うのも恥ずかしいのだが、実は僕は泳げない。


この事実は京子さんをかなり楽しくさせ、そして喜ばせた。


お腹を抱えて笑い転げる彼女を横目に、僕は難しい顔を作って、頭の中でカオルの夢の舞台を想像し、どこかに僕が潜り込めそうなところがないか、と考えた。


「ふふふ、では、う、浮き輪を用意してもらったらどうでしょう、ぶふっ」


京子さんを睨みつける。


「カオルくんやその女性に見つかってしまう可能性があるので、難しいですね。京子さん、笑ってないでもっと真剣に、何か良い方法はないか考えてくださいよ」


「じゃあ、潜水艦とか、あははあ」


「笑い過ぎです」


カオルが不安そうな顔を寄越してくる。


「はああ……また夢魔に頼むしかなさそうですね」


そして僕はソファのクッションを、まだひぃひぃと言っている京子さんへと投げつけた。


✳︎✳︎✳︎


なるべく夢自体には触らないようにと頼んで、カオルに成りすましてもらった夢魔にカオルの夢へと入ってもらう。


そして、カオルの眼を通して見て憶えてもらった、今回の依頼の主人公である女の子の顔を、今度は僕の夢の中で再現してもらう。


夢魔と相対あいたいする時は、たいていが僕が見る夢の中である。


夢を見ないと思い込んでいた僕にも、あることがきっかけで夢を見ることができるようになった。

けれどそれは周囲の人々と同じように毎回、そんなにたいした夢ではない。


しかし、そんな平凡な僕の夢でも、夢魔との取り引きの場にできるようになったのには、僕はこれは便利になったと諸手を挙げて喜んだのだった。


そして、そんな僕の夢の中で。


一度その顔を見れば誰の顔をも真似ることができる夢魔によって、再現された女の子の顔。


とても美しい顔だった。


その薄っすらとした、桜色の唇が動く。


あなたの、その涙をください


そう面と向かって言われ、僕の心臓が跳ね上がる。


これは、これは。


「どうやら、両想いのようですね」


この時点でカオルの話の矛盾点が、色を帯びて鮮やかに浮かび出す。


「知り合いで、しかも恋人同士。お二人は、お互いに愛し合っているみたいです」


僕ははっきりと彼女の顔を覚えると、夢魔に礼を言ってから夢から覚醒した。


目を覚ます時、取り引きとして夢魔からは二、三の頼みごとをされるが、どれもさして手を煩わせるようなことではなかった。


『瑠璃にもっと肉と野菜を食べるように言ってくれ。最近は、炭水化物しか摂っていないぞ』


「たぶん、次の個展に出す作品作りに没頭しているんでしょ。まあ、でもちゃんと伝えておきますよ」


お互い共通の知り合いの画家への、おせっかいと思われる願い。

僕は呆れながらも、了承の意を投げた。


しかし、そんなことより。


どうも分からないのは、カオルはどうして彼女のことを知らない、というような態度を取ったのだろうか。


あんなにも愛し合っているようであったのに。


この夢はカオルの所有物だ。


だから、彼女に好意を持っているカオル自身の都合の良いように、無意識のうちに少しづつカオル寄りの夢となった結果の、彼女のあの愛情あふれる表情であったかもしれない。


夢とは想いの結晶である。

そういった依頼主寄りの傾向は、今までの依頼の中でも存在した。


けれど、そうではあっても、恋人同士の見つめ合うそれのようにしか思えなかった僕は、考えを変えなかった。


「さすがに今回は、どこぞの夢魔のイタズラなどではないようですが……しかし、どこをどう捜したら良いのやら。まずは、カオルに話を訊くしかないようです」


目が覚めてからも、覚めているのかどうか判断のつかないような暗がりにしてある、僕の寝室にて。


僕はこれからどうやって彼女を探し求めてていくのかを考え始めたが、それをすぐに諦めてしまうと、目をつぶって眠りに入る。


隣からは、相変わらずのカオルのいびきが、遠くに聞こえていた。


✳︎✳︎✳︎


「あなたの、恋人でしょう」


呆れたように、僕が所見を口にすると、どうして、と目を見開いたまん丸なマリンブルーで、僕をじっと見た。


「……そうだとも言えるし……そうでないとも言えます」


知り合いかと尋ねた時の、あの奇妙な表情が思い浮かぶ。


妙子たえこと言います。でも、探して欲しいのは……」


そして、突然の沈黙。


どうやら言葉が出てこないというより、湧き上がってくる感情で胸がいっぱいになって話せないという状態のようだった。


それに気づいた僕は、そっと席を外そうとした。

けれど、腰を宙に浮かした途端、カオルは僕の手を引っ張って、ソファに座らせる。


「すみません、もう大丈夫です。お願いします、一緒に彼女を捜してください。そうでないと僕は、前にも後ろにも進むことができない。泣いてばかりの、みっともない僕を変えることができない」


僕はそんな弱々しいカオルを初めて見て、驚きと共感とを同時に覚えた。


おぼつかない日本語をフル回転で駆使し、僕に伝えようとして必死なカオルが、懸命に何かを訴えようとしている。


僕はできる限りの思いやりで彼に協力することを、心の中で誓わざるを得なかった。


「やれやれ」


彼の夢には深い愛情が込められている。


そして、またその夢の登場人物である彼女からも、彼を愛して止まない想い。


「あなたが持つ情報を共有させてくださいませんか。詳しく話すことはできますか?」


「はい、」


一息つくと、カオルは訥々と話し始めた。


「夢に出てくる彼女は妙子と言います。けれど、捜して欲しいのは、彼女の孫娘のしずくさんです。僕は人間になる前に、一度だけ雫さんに会っています。彼女は僕の涙を貰えないか、そう言いました」


目の前で握られているカオルのこぶしに、ぐっと力が入ったような気がした。


「……おばあちゃんが死にそうだから、もう長くないから、と。僕は、妙子が死にそうだと聞いて、驚きはしましたが納得もしました。人間には寿命があり、それはとてつもなく短いということを、僕は知っていたからです」


次には僕の、握っていた両手に力が入る。


「そして、僕の涙……それが妙子の願いだと知り、雫さんが持ってきた小瓶に涙を入れてあげました。その後、妙子がどうなったのだろう、もう亡くなってしまったのだろうかと、気掛かりで」


「それで、その雫さんを捜して欲しいということですね。顔は妙子さんのものですが、雫さんも同じような顔をしているということでしょうか」


「そうです、とても似ていました。瓜二つでした、だから僕の夢に出る妙子の顔を覚えてもらおうと」


「妙子さんは、あなたがまだ人魚だった頃の恋人、ということですかね」


「はい、人魚は不老不死です。歳もとらないし、何かの事故にでもあわなければ死ぬこともない。その代わりと言っては変かもしれませんが、固有種であるがゆえ人間に比べると数も限られており、繁殖も難しい。だから、人間になるには特別な許可が必要で……」


カオルの顔にみるみる陰が差し込んでいく。


「人間になって、妙子と一緒に歳をとりたかった」


涙がはらりはらりと、とめどなく流れつたう。


「その頃は人間になれるのはごく限られた、人間と人魚間の研究者の中から選ばれた者だけでした。僕は一生懸命勉強し、研究チームに入った。人間の繁殖能力の高さを人魚のそれに活かせないか、それがテーマです。僕は人間になることを志願し、待ち続けました。時間はどんどんと乱暴に過ぎ去っていき、けれどその間も時々、砂浜で妙子と会っていたので、彼女がどんどん歳を重ねていくのを理解はしていました」


カオルは一つため息をつくと、僕が上手に淹れることのできなかった苦いコーヒーを飲んだ。


「結局、僕は人間になれなかった。そんな僕を待ち切れず、妙子は結婚し、それっきりになりました。でも僕は、妙子に会っていた砂浜に、妙子に会っていた同じ時間に、別れた後もほとんど毎日通ってたんですよ。こんなことを言うのはちょっと恥ずかしいんですけど、逢いたくて。逢いたくて、死にそうだったから」


少しはにかんだような、いや哀しみを隠すようにして笑顔を浮かべる。


ああ、ここにも存在していた。

傷を抱えながら生き続ける者。


眠り屋を開業し、一筋に仕事をこなして、それぞれに色の付いた人の生きざまに出逢い、そうやって僕も生きる。


僕の中で生まれる、何かしらの「共感」。


それは依頼者に寄り添うものでなく、僕が生きていくために必要な「生」への共感でもあるのだ。


僕はそれを一つずつ素手で拾ってかき集め、胸の奥底へと仕舞い込んで、きっとこれからも生きていく。


「そこで雫さんに、出逢ったのですね」


うん、少しあごを引いて頷いてから、カオルは目を閉じた。


きっと、雫さんの顔を思い浮かべているに違いない。

妙子さんのそれと重ねながら。


「とても似ていて、嬉しくなってしまって。僕から近づいていきました。彼女に逢えて、もう一度妙子に逢いたいと思った。病気で死んでしまうからと、雫さんは言っていた。その前に何とか逢いたいと、再度人間になれるように申請したんだ。そしたら今度は、すんなり、許可が出て……こうして人間になれて、あっけないほど、簡単に……なれて、」


カオルは目を閉じたまま、口元を歪め苦々しく笑った。


僕は冷めたコーヒーの入ったマグカップを片しながら、帽子をかぶって身なりを整えてから言った。


「では、捜しにいきましょう。夕飯は少し遅くなりますが、京子さんが作ってくださったカレーです、きっと温めればまた美味しくなるはずですから」


✳︎✳︎✳︎


人魚には年齢の概念がないため、雫さんの予想年齢をカオルから引き出すのに多少の時間はかかったが、妙子さんとの関連性を絡めて予想した歳を、だいたい高校生くらいであろうと判断をつけた。


これまたこの辺だろうと当たりをつけた高校の前で、蜂の巣をつついたようにわらわらと出てくるたくさんの女子高生の中に、夢魔を使って覚えた顔がないかを確認していく。


「ストーカーとして通報される恐れがあるかも、と思っていましたが……」


僕一人であれば、職務質問されていてもおかしくない状況だ。


けれど、この金髪碧眼……以下略、のカオルが一緒であると、モデルの撮影やスカウトに見えるらしく、きゃーかっこいぃとか誰の彼氏ぃ? とか、そんな感じでスルーされていくようで、今のところ職質は免れている。


一週間、地元の高校を控え目にうろうろとしてみたが、成果は出なかった。


これは、高校生であるという判断を覆さねばならないか、考えを改めないといけないかなどと、そう思った矢先、とある女子校の前でカオルが指を指して言った。


「いました、あの子‼︎ 遠いから、よく見えないけど。違いますか?」


「ああ、本当だ。似ています、声を掛けてみましょう」


僕たちはスマホをいじりながらうつむいて歩く、一人の女子高生に近付くと、雫さんですか、と声を掛けた。


すると、少女が顔を上げる。


間違いなかった。

間違いなく雫さんだった。


夢の中の少女。


僕は驚きを隠せなかった。


夢魔が見せた若い頃の妙子さんに、本当に瓜二つ。

血は争えないと、断言できるほどの。


そして、僕はカオルにそっと目をやる。

彼女と顔を合わせるのはこれが二度目のはずである。

けれど、やはり同じように目を丸く見開いている。


それほどまでに、似ているのだ。


「…………」


目が合ったはずなのに。

また顔を伏せて戻すと、早足に僕とカオルの間を無言ですり抜けていく。


「待ってください、雫さんでしょ。彼のこと、覚えてますよね。ちょっと、ちょっ……」


僕らを無視して先を急ごうとする彼女の肩に、カオルが触れようと手を伸ばした時、パシっと音がして手が払い飛ばされた。


雫は、僕とカオルを睨んで、そして言い放った。


「おばあちゃんは、もう亡くなりました」


そして首から下げたネックレスを引き千切ると、


「これももう、要らないから」


手を離す。


チェーンの先にはガラスの小瓶が結ばれていた。


そして地面に落ちた瞬間、小瓶は割れて、散った。


中に入っていたのは、透明な雫。


これが、カオルの涙。


僕がそれを拾おうとすると同時に、彼女は走り出した。


あっという間にその後ろ姿は小さくなり、そして段々と狭まっていく小道の先へと消えていった。


「……取り敢えず、今日は帰りましょう」


僕は、呆然としているカオルの背中をそっと促して、二人帰途についた。


僕たちは雫が駆けて行った道を、一歩一歩踏み直すような足取りで、歩いていった。


僕の手の中にあるのは、チェーンだけ。

ガラスの小瓶は消え去ってしまった。


白波の、その行き来が砂浜の砂を容易にさらっていってしまうように。

いとも簡単に消えてなくなってしまった。


カオルは大丈夫でしょうか。

そう思うけれど、思うように言葉が出ない。


僕はそれでも、帰る道すがら話し掛けることもせず、無理に取り繕うこともせずに、カオルの隣を歩いた。


無言のまま事務所にたどり着き、そのドアを開けた時。

唐突にカオルが言った。


「分かっていました、寿命ですから。いつかはこんな日が来るって、分かっていました。でも……間に合わなかった。ただ、それだけです」


涙が次々と、頬を流れ落ちていく。

スローモーションに、水晶のように煌めきを放った雫が、キラキラと落ちていく。


純粋に、綺麗な。

人魚の涙。


あなたのその涙をくださいと、この綺麗な存在を手に入れたいと願う気持ちも痛いほどに。

ましてやそこには深い深い愛情がある。


僕は、小さく息を吐いた。

キッチンに入って備えつけであったアンティークの戸棚を開けると、そこから僕の妻となるはずだったリエコさんが愛用していた小瓶を取り出した。


これは生前、彼女が薬入れとして使っていたステンドグラス風の可愛らしい小瓶。

赤、青、緑の比較的濃い色使いで、中身は見にくくなっている。


けれど、ひっくり返して底を見ると、一箇所だけ透明なガラスでできていた。


「これならば、この底から水晶の輝きを見ることができますね。リエコさん、あの少女に、これをお譲りしても良いですか」


僕はその小瓶を、捨てられたチェーンと共に、カオルの手の上にそっと置いた。


✳︎✳︎✳︎


「ごめんなさい、嘘ついて……」


震える声は、波音に消されていく。


「……おばあちゃん、ずいぶんと前に亡くなっていたの。私が小学六年の頃、病気で。もう、五年くらい前になるのかな」


その時、僕とカオルは、優しい潮風が運んできてくれた少女と一緒に、砂浜に座り込んでいた。


ここはカオルが妙子さんと別れて、その恋しさから毎日のように訪れていた砂浜。

そこはプライベートビーチのように、完全に閉鎖された空間だった。


ここへ辿り着くために、どれだけ背丈ほどある草っ原をかき分けて、両手両足にミミズ腫れを作ったことか。


カオルも僕も、その空間のど真ん中に座り込んで、水平線を見ていた。


「おばあちゃんに聞いていたの、あなたのこと。でも、人魚だなんて、おとぎ話のように思ってた。人魚と恋する話なんて、普通は信じないでしょ。そう、おばあちゃんの作り話だと思ってた。話半分で聞いていたの。それからおばあちゃん、すぐに病気になっちゃって。それで自分の余命を知った時、私をこっそり呼んで頼んだの。人魚に逢って、涙をもらってきて欲しいって……」


声がか細くなり、そして消えそうに力をなくしていく。


「この場所も詳しく教えてもらったの。ここに行けば、人魚に逢えるからって」


鼻をすすり上げる音が、寄せる波の音と同化する。


昼間であるのに、青く澄んだ空には、ぽかりと白く澄んだ月が浮かぶ。


「私、信じなかった。信じなかったの、どうしても信じられなかった‼︎」


絞り出すように。


「……信じなかったの」


体操座りの膝の上に置いた両の腕に、ぽたぽたと涙が落ちる。


僕は、そっと話し始めた。


「でも、あなたは最近になってここへ来た。それはどうしてですか、時間はだいぶ、過ぎてしまっていたでしょう」


「夢を見て」


「夢、ですか」


「夢で、おばあちゃんが言っていたことを思い出して。それで、ここに来てみることにしたの。怖かったけど、私、すごく怖くて。確かめるのって、こんなに怖いことだとは思ってなくて、でも……」


でも、でも……、と何度も繰り返す。


「……本当だった。本当の話だった。人魚が……あなたが本当にいたの。おばあちゃんの話は本当だった。でも、おばあちゃんは五年前に死んじゃった。今さら分かったって、どうしようもない。でも、私、その時信じてたらって。涙をもらって渡せてたら、おばあちゃんの願いも叶ったのにって。後悔したって今さら遅いよね、遅いんだよ。私、本当、バカ……バカなんだよ、う、うっ」


しゃくり上げて大泣きする。


僕と肩を並べて座っていたカオルは、そんな彼女をしばらく見つめていた。


けれど、すくっと立ち上がり、そして言った。


「僕は妙子が結婚してからは、ここには一度も来なかった。だから、君がその時ここへ来ていても、僕には逢えませんでした。君にこの前逢った日は、偶然ぶらりと訪れただけ。奇跡的に、逢えただけですよ」


少しでもこの子の重荷を軽くしてあげたい、そんなカオルの嘘をまとった言葉に胸が痛む。


「だから、君は気にしなくていいんです。それに君はその時、幼かった。こんな辺ぴな場所へ、そんな小さな君をやろうなんて、妙子はどうかしていたんだね」


「それは、私も思ってた。私、三人兄弟の末っ子で、上にお兄ちゃんが二人いるんだけど、どうして私に頼んだのかなって」


ぐずぐずと啜り上げる鼻をハンカチで押さえ、雫は言った。


僕は想像でしかありませんが、と前置きをしてから続けて言った。


「あなたが一番、妙子さんに近しい存在だったからでしょうか。顔も似ていますし、雰囲気も。きっと、カオルに逢わせて自慢したかったんでしょう、私の孫娘ですよ、と」


「……そうなのかな、」


しばらく、沈黙が続いた。


晴れた空に淡く光る月が、まるで空に映る地球のようにも見える。

すると今座り込んでいるこの地が、月ではないかという錯覚。


そんな錯覚にまみれながら、僕は想う。

繋がれていくのは、人だけではない。


想いも同時に、繋がれていく。


✳︎✳︎✳︎


「ありがとう。またカオルさんに逢いに来てもいいかな」


遠慮がちに問う瞳が、年相応の光を宿していて、とても健全だ。


「どうぞ、遠慮なく。連絡は先ほど渡しました住所と電話番号に。ちなみに家電ですので、携帯から掛けると通話料金が高くなりますから、気をつけてくださいね」


「ありがとう……これ、今度こそ大切にするね」


そう言って、首に掛けた小瓶がきらりと光る。


ばいばいと手を振って走っていく後ろ姿を、こちらも手を振って見送った。


はつらつとした、光り輝く存在。

妙子さんが、カオルに見せたかったものの内の、一つであるに違いない。


「あまりお話しせずに、良かったのですか?」


そう、口数の少ないカオルに気づいていたが、そこは敢えて促さなかった。


本当はきっと、妙子さんの話を、色々と聞きたかったのだろうに。


「はい、良いんです。妙子の話をすることで、きっとあの子の傷は深くなる。それは絶対に避けなければいけないから。あの子を見ていると、どれだけ妙子が大切にしてきたかが分かります。瓜二つではあるけれど、妙子と彼女とは別々の存在。それぞれが違う光り方をしているから。その事実が分かっただけで、僕は満足です」


ゆらりと揺れる憂いの表情で、カオルはもう一度強く言った。


「満足です」


✳︎✳︎✳︎


この日、僕はカオルの要望により、カオルの夢と向かい合っていた。


僕の手には、紅に染まる大振りの花びらが二枚。


馴染みの花屋で、赤色のバラを数本購入し、包みましょうという店主に断りを入れ、棘の処理だけを頼んだものだ。


花言葉は、


死ぬほど、恋い焦がれています


そう、実は仕事に使うこういった花は、いつも散歩に出た先で見つけたものや、この馴染みの花屋で買ったものを使うのだが、ここの女店主が花はもちろん、花言葉にも詳しくて、僕はよく助言を請うていた。


今回の件では、これが良いでしょうと出してきてくれた花が、赤色のバラだったのだ。


なるほど、人魚の真の恋心は秘密であるけれど、カオル自身を反映していて、とても似合う。


最も、適した花に思えた。


「さすが、京子さんですね。人生の機微を良く分かっている」


そう、自分の店である花屋の仕事の合間をみて、京子さんには僕の事務所の手伝いをお願いしている。


「まあ、先生よりは年上……おっほん、少し長く生きてますからね。でも、どうするんですか、先生。ふふ、泳げないんでしょう」


僕は顔をニヤリとさせた後、色とりどりの花に囲まれた店のドアに手をかける。


「秘策がありますので」


振り返った背中に声が掛かる。


「なあに、そのドヤ顔……」


僕はあはは、と軽く笑って、花屋を後にした。


そして、今、カオルの夢の中へと入る時。


右手に握られていた紅色の花びらがひらひらと舞い落ちて、地に着く瞬間に、僕はカオルの耳元へと囁く。


「妙子さんに伝えてください、『涙はもう、君にあげたんだよ。その首にかかる小瓶を、見てごらん』、と」


刻、刻、刻、刻……


いち、にい、さん、し……


そして、窓から入ってきた風に頬を撫でられ目覚める。

きっと、カオルももうすぐ目覚めるだろう。


これからはもう見ないはずの、夢の中から。


✳︎✳︎✳︎


「ありがとう、僕は満足です。妙子が嬉しそうに笑う顔が見れました。あなたのお陰です」


そう言うカオルも、嬉しそうにしている顔を見られまいとして、照れ隠しで人差し指で鼻をかく。


そのカオルの手首には、飾りのついたミサンガが結ばれている。


あれから直ぐに雫は現れて、これあげると、ぶっきらぼうに投げてよこした小さな紙袋。


手作りであろうカオルへのプレゼント。

可愛らしい雫の形をしたビーズがつけられている。


僕にはないんですか、などと不満を言いながら、僕はこの少女に出逢ってからずっと考えていたことを、今のタイミングならと思い、何気なく口にしてみたのだった。


「もしかして、雫さんの名前って、」


彼女はその意味分かった、というように顔をパッと上げると、


「うん、おばあちゃんがつけてくれた」


そして、花のように笑った。


涙の雫。


人間になることが叶わず、泣いてばかりのカオルだったのだろう、そんなカオルの涙を、妙子さんはきっと胸の奥底で大事に、とても大事にしてきたに違いない。


妙子さんの海のように深い人魚への愛情が、ここでも光を放っている。


そして、雫を傷つけまいと、嘘をついたカオル。

長い年月を経た彼の重く哀しい想いは、その平穏を取り戻した。


僕は京子さんの店で買った赤色のバラが生けてある花瓶に、目を移した。


京子さんには薔薇は蕾や開花した花の組み合わせによっても、花言葉が違うことを聞いて知っていた。


この三本の蕾の中の、一輪の開花。


その意味は、


あの事は永遠に秘密


僕はもう、当分の間は必要ないであろう人魚の涙が、深く深く海の底に沈んでいくのを想像した。


そして、京子さんが作ってくれた至福のシフォンケーキの切れ端に手を伸ばした。


そうそう、カオルの夢に入った時に、浮き輪を使ったことも、また秘密です。


心でそう呟いてから、僕はシフォンケーキを口に入れた。

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