おいらんセミナー29
「悟りでも開かない限り、馬の耳に念仏は仕方ないと思うし、博愛主義など、やたら教条主義的な宗教じみていて、頭から嫌悪されますからね」と菜摘は言った。
菜摘が言う。
「差別偏見蔑視の構造意識自体が逆の意味での道徳観を形作る現代に於いて、その概念に疑問符を抱く事すら難しいのに、それを啓蒙変換する事は難解を極めるどころか、私の経験上絶対に無理ですよね。でもそれをしないと、これから先の動乱とも言える世の中は乗り切れないし、本当に大変ですよね」
ホスト亭主が頷き答える。
「そうですね。はっきりと言えば、自己を滅却して無償の愛を施す博愛主義に生きたとしたって、死ぬ時は死ぬのだから、ならば他者などお構い無しに貪欲強欲三昧好きな事を皆と同じようにやって、不安と孤独感から逃避し、皆と一緒に安楽に死んだ方が増しだと言う心理が働くのは、煩悩だらけの人間にしてみれば、これはやむを得ない理だと自分も思います」
菜摘が付け加える。
「悟りでも開かない限り、馬の耳に念仏は仕方ないと思うし、博愛主義など、やたら教条主義的な宗教じみていて、頭から嫌悪されますからね」
「そうですね」