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あしたのゆめ  作者: 福永 護
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しゅうまつのひ

十月三十日 夜


 もう明日だ。あれから陽介と雅人は殆ど口を聞いていない。毎晩書架で行われる作戦会議も三日をすぎれば殆ど要を成さなかった。勝てぬ不安、何も出来ぬ無力感。その二つが入り混じり形容しがたい空気が二人を包んでいた。


「…明日、ですね」


 沈黙を切り裂いたのは少年の言葉だった。

 無音の世界でその声だけがどこまでも遠くへ響き渡るような音だった。


「なぁヨウスケ」

「はい」

「多分俺は負ける」

「はい」

「何がしたいんだろうな?もう分かんないわ」

「それでも、負けたくないです。あいつにも、作者にも」

「そうだな」


 世界中に自分たちだけみたい。なんて詩があるが、彼らはまさにこの世界に二人しか存在していない。誰に頼ることも出来ない。話し合ったところで最後の答えは自分で出さなければならない。


 もしかすると作者は世界そのもので、異端の思考を持つ人々を潰し合わせそこで残った一人を自分たちの手で消すことで世界の均衡を保とうとしているのかもしれない。キリストが磔になったように、優秀なユダヤが弾圧されたように通常でないモノは世界から拒絶され続けてきた。この孤立した空間は世界が彼らを孤立させるためのものなのでは無いだろうか。この戦争そのものがそのための余興なのではないだろうか。


 いくら考えても現実感が無い。


「やれることはやった。あとは腹を括るだけだ」

「そうですね」

「明日は別行動だ。君は奴に見つからないように学校を見渡せる場所に行くんだ。もちろん校庭からは死角になるような場所だ」

「はい」


 返事をすると同時に、二人の意識は光に包まれた。眠りに落ちるのとは逆の、目覚めに浮かぶ光だ。





十月三十一日 夕方



 つい数週間前までハンカチで額を拭う日々だったのが嘘のように冷え込んだ夕暮れ。すっかり周りも上着を着こみ、自動販売機にも保温された飲み物が入れられるようになった。北国ではもう雪も降ったとか降らないとか。そんな日常を営む中、そんな今日世界はひとつの節目を迎える。だがそれを知るのはこの世界中でたった三人だけ。作者なんて呼ばれた存在によって始められた「文芸戦争」という名の人類選別会。この戦いで生き残った者の意思が人類の総意として作者に受け入れられ作者はその者に景品を与える。半世紀以上前にあった大戦の黒幕が前回戦争の優勝者であっただとか、長者番付の中に居るとか。なんて噂は参加者の中に蔓延していたらしい。


「さむいな…」


 日が暮れるのも大分早くなった。日の光は水平線に沈み、空は星と月が瞬いていた。この寒空に何を思うでもなく、また明日が平穏に訪れることだけを祈っていた。






























 この夜、世界は一度終焉する。

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