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第9話 二者面談

 矛盾を見つけたので削除した一文があります。申し訳ございませんm(__)m

 コンコンと控えめなノック音の後で、リマ・ニフェンが入ってきた。エイダ教官も一緒だ。

 俺は精一杯の笑顔を顔に張り付けて声をかけた。

 俺の正面にある椅子に座るよう勧める。おずおずとその椅子にリマが座ってから、面談ぽく話し始めた。


「最初はリマさんですね。んじゃ、皆の前では言いづらくて俺に言えないこととかあればどうぞ。質問も受け付けますが」


 こういう小動物の様な子は、教室で大きな声を出さない。個人的になら言えることもあるだろうが……でも、死刑囚だって知ったから、逆に言えなくなっちゃったかな?


 リマは俺をどことなく怖がりながら、その小さな口を開いた。


「あの……教官が罪人って、本当に……?」


「えぇ、数時間前まで腐敗臭漂う独房に居ました。あ、これ証拠です」


 見せた方が信じてくれるだろうと、俺の首に3年間ついていたドッグタグを出す。錆びているが、辛うじて囚人番号が読み取れた。


 ドッグタグを見せられたリマは、それをじっと見ていた。いつまでも黙っている彼女の代わりか、エイダ教官が言う。


「ノア教官、あなたが生徒を傷つけることはしませんよね?」


「勿論。クビになっても痛くも痒くもないと言いましたが、こうして自由でいる方が好きですから。生徒のことは、しっかりと守りますよ」


 そう答えると、エイダ教官は何も言わなくなった。

 早いけど、次行った方がいいかな。


「俺に言いづらかったらエイダ教官に言うのでもいいです。エイダ教官から聞きます。今何も言うことがなければ、帰っていいですよ」


「……さよなら」


「はい、さようなら」


 リマはドッグタグを見てからずっと俯いていた。それは、ここを出るときも変わらなかった。


 怖がられているのだろうか……。死刑囚なんて、普通は見ないもんな。


「次の生徒を呼んできます」


「お願いします」



 エイダ教官が出ていき、そしてその数十秒後。エレン・オスタリアが入ってきた。エイダ教官はいない。


「おや、1人ですか」


 怖くないのか、と言外に聞くと、エレンは蒼い目を細めて小さく笑った。


「“教官”を怖がってたらどうにもならないですよ。学園長が連れてきたって言うなら、俺たちにとっては無害です」


「それは、無害っちゃ無害ですけど……」


 こんな簡単に会話ができている……だと……!?

 お人好しというのかな、こういうの。俺にとっては嬉しいけど! ちゃんと会話できそうな人、大事!


「教官って聞いて、もっとむさいおっさんかと思ってたんですけど、格好いい人で驚きました」


「格好いいですか? 元がいいんですよね~。父が美男で母が美女! 俺も昔はけっこうモテたんですよ?」


「だと思いました! きっと色んな女を手玉にとっていたんだろうなとか!」


 何だこの子、めっちゃ俺のことヨイショしてくれるな。

 おかげで俺も照れちゃうぜ!


「手玉になんて、そんなぁ~。ちゃんと婚約者一筋でしたってぇ」


「えっ?」


「あっ」


 照れてたら口が滑りマシタ。


「婚約者、ですか……」


「えぇええ、まぁ」


 婚約者。即ち将来を共にすると決められた異性。その存在を得られるのは、ほぼ貴族。

 平民は婚約する間もなく結婚することが多い。これじゃもう俺が貴族って確定されたみたいだ。


「ちっ、違うんだっ! これには深い訳があってだな……!」


 どこぞの亭主が妻に浮気がバレたときのような言い訳の言葉を吐きながら、俺はどう説明しようか、脳内で考えた。本当のことを言うのは、脚下ッ! 貴族だったと思われると、この先ちと不便だ!

 こうなったら想いのままをぶつけるしか───!


「俺は、貴族じゃ、ないッ!」


 よし言った! そう思ってエレンを見ると、爆笑していました。


「何で笑うんですか……」


「だって、おもしろ……ぶはっ!」


「エレン君んんんんんん!?」


「いだいいだいいだい!」


 頭の側面に拳を当ててグリグリすると、エレンはまだ変な顔をしているが、笑うのをやめた。

 おい口元がピクピク動いてるぞ。


「ったく……」


「す、みませッ……んッ。めちゃめちゃ慌ててるんで、ついッ……!」


「もういいですよ……。3年ぶりの外で、気が緩んでいた俺も俺ですし」


 3年前まではもっと気が張っていたんだが、牢屋生活でだらだらになったらしい。

 これからは気を付けなければ。


「ところで教官」


「はい?」


「何故あの監獄に?」


「罪を犯したからですが」


 重罪を犯した人間があそこに行くのは至って普通だ。3年前もよく聞いた。

 軽い罪を犯しただけじゃマレディオーネ監獄には入れないが。だが重罪なら、ねぇ?

 しかしエレンが聞きたいのはそっちじゃないらしく、首を振った。


「どういう罪ですか? あ、ごめんなさいっ、言いたくなければいいです、言わなくて!」


 そんな気遣いはいらんのだが。やっぱりこいつはお人好しだ、死刑囚相手に遠慮なんて。

 まぁ、いいかな。男だし、もう17歳なんだし。度胸ありそうだし、たぶん。言ってしまっていいだろう。


 俺は3年前に犯した罪を思い出す。罪状は……何だろうか。分からないから、やったことを言うのでいいか。


「恐喝とか賄賂とか精神操作、殺人……とか? 諸々は忘れました。結果的に、一般市民も殺したのが決め手でしたかね?」


 本当は色々な訳があるけども。それはアレンには言えないことだ。むしろ誰にも言わないことだな。


「うわぁ……。結構やらかしてるんですね……」


 具体的に聞けば俺を怖く思うだろうと予想していたのだが、エレンはそうならなかった。

 顔をしかめているが、それは軽蔑や恐怖からではなく、ただの呆れだったのだ。


「犯罪者が担当教官になって、ご愁傷さまですねぇ」


 わざとらしく手を合わせると、エレンは肩を竦めた。


「ご愁傷も何も、学園長の判断だから文句はないですよ。今の代の学園長は有能だって話ですし」


「『有能』ですか。そうでしょうね」


 俺という人材を見つけ出しただけのことはある。だからこそ後で問い詰めなければと思ったのだが。


「どこで俺のことを知ったのか、気になりますし」


「はぁ」


「他に質問はあります? ありませんね、次の人呼んでください」


「なんか強制的に終わらせようとしてますよね!」


「何ですか言いたいことでもあるんですか喧嘩なら買いますよ」


「意外と短気な……」


 教官始めて1日目にして生徒に呆れられました。

 まさかお人好し(確定)のエレンにこんな眼差しを向けられるとは……。俺はマゾじゃないから嬉しくないぞ。


「はいはい出てった出てった。あと3人残ってるんですから」


 シッシッと追い払うように手を振ると、エレンは立ち上がって資料準備室のドアを開けた。

 最後に彼は顔だけこちらに向けて、


「教室には一人しか残ってませんでした」


「……そうですか。では、さようなら」


「さよなら、教官」


 一人しか残っていない、か。俺と話したくないのだろう。リマとお人好しは来たけど他は死刑囚とお喋りなんか、っていう気持ちなんだろうな。

 ってかリマよく来たな。偉いぞー。後でお菓子買ってやろう。


 はてさて、残った一人は誰なんだろうな。ミリフィアはまずないな。帰ろうとしてたし。ルツ、は……よく分からん。

 ジルベルトは……えー? 予想できない。俺にタイマン張ってきそうだけど、面倒臭がってもう帰ってそうでもある。


 誰かなー、誰かなーとそわそわしていたら、ドアが勢いよく開けられた。入ってきたのは灰色の髪の舌打ち上手、ジルベルトだ。


「そこ座ってください」


「チッ」


「舌打ちするのはいいですけど俺に対してするのは止めてください傷付きますからッ!!」


 俺のメンタルはそんな強くないからね。あからさまな敵意向けられると泣きたくなっちゃうよ。

 敵意いやん。


 ジルベルトはドアの横の壁に背中を預けたままで、座ろうとしない。

 はて、どうしたのだろうか。


「てめぇに聞きたいことは1つだ。これを聞いたら帰る」


「はぁ、それで?」


 ここでジルベルトが俺を睨む目付きが更に鋭くなった。この目、まるでどこぞの不良だ。


「てめぇが死刑囚になるまでにいた立場だ。あの監獄に入るまで、何をしていた?」


 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。口が緩んじゃった。

 取得属性魔法:闇、水、雷


 エイダ・ギレンラ 美女。水色の髪と群青色の瞳。生徒第一。

 取得属性魔法:治癒、火


 リマ・ニフェン 12歳。ピンクゴールドの髪に琥珀色の瞳。ノアを怯えているっぽい。


 エレン・オスタリア 17歳。明るい茶髪に蒼い瞳。お人好し。


 ジルベルト・ド・ワーシレリア 17歳。濃い灰色の髪にくすんだ緑の瞳。貴族。舌打ち多め。

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